高齢者は体が思うように動かないことが多いため、入浴することが億劫になってしまいがちです。入浴には労力がいります。服を脱ぐ、体を洗う、浴槽につかる等、体力を使うために高齢者は入浴を避ける傾向にあります。体の汚れはシャワーだけでも落とせますが、湯船につかることで体全体を温めることができ、血流がよくなり、全身の疲労が軽減されます。よく眠れるようになる等のリラックス効果も期待でき、心身にたいへんよい影響を及ぼすため、無理のない範囲で高齢者も入浴をすることが望まれます。

平均寿命と健康寿命という言葉があります。平均寿命は、人が亡くなる年齢の平均値のことです。日本は長寿国で、平均寿命は世界の中でもトップクラスです。平均寿命は長いですが、皆が健康な状態で死を迎えているとは限りません。介護を受けている場合は、その期間も平均寿命の中に含まれます。平均寿命は、健康な状態で死を迎えた人と、そうではない人との両方が対象となってデータがとられているのです。

日常生活を送る上で介護を必要とせず、健康な状態で生活できる期間を健康寿命といいます。命の終わりの日まで介護の必要がなく、健康でいられることは理想ですが、人は何かしらの介護を受けることが多いため、健康でいられる期間をいかに延ばすかが大切になります。高齢者の入浴は、疲労回復、快眠等の効果を期待できる他、介護予防にもなるという研究もなされています。健康寿命を延ばすカギとなる入浴は、高齢者にとって大切なことだといえます。

高齢者が入浴を拒否する際の介護者としての対応は、さまざまな視点から検討する必要があります。最初に重要なのは、高齢者とのコミュニケーションです。入浴を拒否する理由を理解するためにも、まずは話を聞きましょう。入浴したくない理由がわかれば、それに対して具体的な解決策を考える手立てができます。次に考えるべきなのは入浴環境です。浴室内の温度が低い、湯船が深くて浴槽に入るのが怖いなど、環境に起因する問題が拒否の原因となることがあります。原因がわかれば、それを調整して取り除くことで解決につながるでしょう。

もちろん介護者と高齢者との信頼関係の構築も重要です。信頼が不足していると、入浴への抵抗が強まるのはいうまでもありません。ふだんからコミュニケーションを深める努力が必要です。また、入浴方法の見直しも解決につながることがあります。通常の入浴を拒否するとしても、シャワーや部分浴なら応じてくれることもあるはずです。高齢者一人一人に合わせた対応を考えてみましょう。

大切なのは、ゆとりのある対応です。「時間がない」、「忙しい」からといって、理由で入浴を急かすのはよくありません。こちらの都合に合わせて無理に入浴してもらうのではなく、本人の入浴したいタイミングに合わせて入浴してもらうのがベストです。最後に、正確な状況の記録とそのスタッフ間での共有も非常に大切です。拒否が続く場合、その状況と対応を記録し、ほかのスタッフと情報を共有することで、より効果的な対応が思いつきやすくなります。「スムーズに入浴介助を行いたい」という方は、参考サイトもチェックしてみてください。