前回のブログは4月28日であったので、それから3週間も経ったことになる。日本での一時的な仕事は週5日しているものの比較的のんびりした勤務なので、ブログをたくさん更新するかと考えていた、実際にはそう思ったようにはなっていない。

あっという間に帰国後5週間が経ち、あと1月ほどでアメリカへ戻ることが決まった。


さて、前回のブログで若手医師の勘違い、思い上がりを警告したいという趣旨のことを書いたが、図らずも数日前に現在非常勤として勤務中の病院である患者の転院依頼をめぐって、未熟なのに思い上がった若手医師との絡みがあったのでここで紹介したい。本名を出しても構わないのだが、自分が本名をここで出していないので、匿名にしておいてあげようと思う。



患者は、37歳女性。余命1年はあるであろうと予想される進行癌の患者。休暇明けで1週間ぶりに勤務となった僕は朝回診のために病棟へ行くと、その患者の状態がよくないという報告を受けた。カルテ、検査データを見ると、ちょうど僕が休みをとった日から1週間入院されており、今回は化学療法のための入院であったが腎機能の悪化を理由に治療はしておらず、数日前から尿量が減少傾向にあり電解質バランスもかなり異常値であった。すぐに病室へ行き患者と初対面。彼女は、既に下顎呼吸で、血圧も低下傾向、意識障害も認めた。入院後の経過中急性腎機能を認めており、少し早めに適切な対応をしていればもしかしたら腎機能を戻すことができたかもしれないと思われるような経過であったが、兎に角目の前のほぼショック状態の患者を一刻も早く加療してあげたいと思った。人の臓器には不全状態になる過程でpoint of no returnがあるが、この患者の腎不全はすでにそのpointを過ぎており、患者を救うには人工透析しか方法はなかった。また早期に人工透析を行えば以前の腎機能が正常であり入院時尿量は十分であったこと、年齢などを考えると、腎機能回復する可能性も十分あるように思えた。ここで、問題になったのは原疾患の癌であるが、主治医によると予後1年はあるということで、今回の急性腎不全を改善させてやる意味は十分あると判断。ましてや、家族は急変を知らない北海道の旦那と、2,3歳の子供がいるという。出来る限りのことをやってあげたいと思うのは医師として人間として当たり前のことではないだろうか。


僕の勤めるこの病院は30床の小さな病院で、ICUもなければ透析もできない。ということで、あわてて透析をお願いするために大病院へ電話コンサルトすることとなった。担当医は他に手が離せない患者がいたため、患者と初対面で情報も十分にない僕に電話を依頼された。こちらとしては十分な情報を持たずに救急センターへ相談するのは気が引けるところだが、患者の状態は一刻を争うため(K7.4PH7,1、BE-23、無尿12時間)急いで大病院の救急センターへ電話した。そこで、出てきたのがT医師。あまりの態度の悪さに、電話を切った後、病院のHPで検索したところ、平成19年G大学医学部卒で、その後Y市立大学の救急の医局へ入局された、まだ研修を終えて4年目の新米医師。まさに、前回ブログで指摘した、思い上がった若手医師であった。

T先生は、過去にどこの病院へかかっていたかと既往歴について情報が十分でないこと、それから担当医ではなく非常勤の僕が電話していることに対して「根本的に間違っている」という言葉を連発。ちなみに、この急性腎不全で救急に電話している状態で過去の病院に何の関係があるのか?ただ断る理由を探しているだけだろう。常勤が一人、非常勤が一人しかいない病院で常勤の担当医が他の患者を診ていて対応できないことは起こり得ることである。おそらく、たった4年の臨床経験しかないT医師は小さな病院での勤務経験がなく、そのような事態を想像すらできなかったのかもしれない。

それから婦人科系の癌があるなら婦人科を絡めて相談すべきで、「根本的に間違っている」とまた言っていた。ちょっと待てと。「患者が緊急の処置を要するから救命救急に電話して何が悪い?婦人科の疾患は慢性疾患で、今は急性腎不全が一番の問題。婦人科のコンサルトが必要ならお前が転院の後に婦人科にコンサルトしろ。」というのが筋ですが、一応こちらもお願いしている立場だし、それに非常勤医と言う立場で僕が喧嘩すると病院に迷惑がかかってしまうのでそこはじっとこらえておきました。

次に、意識障害に対して頭のCTは撮ったかという質問。なんというか・・・、急性腎不全でBUNover 200、電解質異常バリバリの患者で、腎不全の進行に伴って徐々に意識障害が進んでいる37歳の、心血管系既往ゼロの患者なんですけど・・・。focal deficitもなし。確かに、救急では意識障害=head CTでしょうけど、この場合ちょっと医学的な知識があれば、緊急CTの必要性はほとんどないですし、仮に必要でもまず他にもっと必要なこと、カリウムを下げ、必要なら挿管、緊急透析などなど色々あるので、それが終わってからでもいいかと思うのですが・・・。とりあえず、患者のため転院を受け入れてもらうことが先決なのでここでもぐっとこらえて、指示に従って無意味なCTを施行。

最後に決め台詞は、「患者は緊急ではないですね。なので、こちらで婦人科を含めて相談して折り返し電話しますので、その間にCTを撮って置いてください。」 おいおい。ちょっと待て。カリウム7.4で意識障害があって、挿管が必要かもしれない患者が、このちいさな慢性期病院にいるのに、緊急ではない??こいつアホだな。とは思いつつも、ゆっくり対応してもらっては困るので「患者は無尿でカリウムが7ですし、非常にcriticalであると考えます」と伝えておいた。「分かりました」と言って、終始高慢な態度であったT医師は電話を切った。全然分かってない。

ということで、長らく書きましたが、このT医師の問題点は、

1. 態度がでかい。面識のない他院の医師に対して言葉使いがなっていない。

2. 医学的知識が足りない。最後の「患者は緊急ではないですね。」には驚いた。じゃ、どんな患者が緊急になるんだい。

結局、無意味なCT(当然結果はnegative)を撮っている間に、T医師から再度電話があり、「こちらは救急病院なので慢性疾患の方は受けられないということと、ICUBedに空きがないので」と言うことを理由に断られました。(HPには「断らない」と書いてありましたが、やっぱり看板だけですか・・・。)

今回慢性疾患つまり癌のことで、コンサルトしたわけではなく、急性腎不全にたいする緊急透析のために電話したのですけど・・・。あと、まあICUですか?僕の理論で行けばICUベッドはその気になればどんな病院でもほぼ99%空けることができます。まあ、常習的に断る理由で使っているな、という感じでした。

その他の病院もいくつか相談しましたが、結局この患者を受けてくれる病院は見つからず、この患者は残念ながら亡くなられました。3年前の渡米直前に同じようにバイトで非常に小さな病院で夜間来たAMIの50代男性。ヘパリンもアスピリンもない病院の夜間一人当直。診察中に心肺停止し、医師一人、看護師2人で挿管、CV留置、心臓マッサージ、cardioversion、を行い、sinusに戻らないので心臓マッサージしながら原宿から広尾日赤病院まで救急車で搬送。すぐに循環器内科にPCPSが必要と告げて、なんとか救命できた患者のことを思いだした。あの時は広尾日赤の循環器チームが的確に対応してくれたので患者は助かった。今回も近くに優秀な医師のいる大病院があればなんとかなった可能性が十分あるので非常に残念だ。自分が助ける手段を知っているのに、医療器材、スッタフの問題で若い患者を救うことが出来ないというのは非常に歯がゆい。

さて、色々言いたいことはたくさんあるわけですが、兎に角一番はT医師の勘違い。これをどうにかしてやらねばと思い、ちょっとFaceBookに医師の友人の意見を求めてみました。すると、同じような経験はみんなされているようですが、犬に吠えられたと思ってあきらめろという助言を頂きました。自分は、犬に吠えられたら必ず吠え返す。場合によっては噛み殺す人間です。まあ自分も大人気ないかと思いますが。

でも、基本的に自分の信念に反することは、しっかり反論して意見をいって34年間生きてきたし、その生き方を変えるつもりはありません。ということで自分の仕事が暇だったこともあり、T医師にちょっと意見をさせて頂きました。T医師も犬に吠えられたと思ってあきらめるでしょうか。