『彼女の涙』
〝ただいま…″と〝おかえり…″
交わした言葉はそれだけだった
レーシングスーツを脱いで帰路に着き
出迎えてくれた彼女の胸…
僕はその胸の中で顔を埋めていた
彼女は何も言わず
そっと僕を抱きしめてくれた
本当は甘えたかったんだ
そう、ずっと以前から…
マシンのタイヤが磨り減るように
命さえも削れてゆく
聴こえないフリをしていたけど
やっぱり本当は怖かったんだ
サーキットに棲みつく
亡霊達の喘ぐ声が…
せめて今夜くらいは
その暖かな胸の中で僕を眠らせて
彼女の流した涙が
口づけの中に流れてゆく
ベッドの中の抱擁
汗にまみれた君の涙
その涙を笑顔に変える為に…
明日になればまた
僕は走り続けるのだろう
終わりなき、BORN TO RUN…