ゆずゆずが勝手に批評を投下するブログ☆☆☆

ゆずゆずが勝手に批評を投下するブログ☆☆☆

漫画や小説、音楽、ドラマ、映画etc……

自分勝手に何でもござれで批評していきます!!

自己満足のような記録のような、そんな感じのものです。

※BL作品の感想、または批判的意見みたいなものも書くかもしれないので、そこら辺は悪しからず。

Amebaでブログを始めよう!

乙一原作の漫画がいつの間にやらジャンプ+で連載され、
なんか発売されちゃってたので買ってみたの巻。



山羊座の友人
原作:乙一 漫画:ミヨカワ将



乙一と言えば有名なのはやっぱり
「夏と花火と私の死体」
なのかなあ。

好きだった男の子の妹に殺されちゃった「私」の死体が語り部で、
兄妹の夏休みを描写していくっていう。独特の不気味さが印象的な作品。

あれを17歳で書けるっていうのは、乙一ほんと才能あるんだなって思う。
他にも「ZOO」やら「GOTH」やら、先の読めない仕掛けが散りばめられた作品をコンスタントに書ける作家さん。


ミヨカワ将と言ったら、けっこう前にジャンプで
「ST&RS─スターズ─」
っていう漫画を連載してた作家さん。

確か宇宙の話を描いてたよーな……? と軽く調べてみたら、こっちも原作者ついてたんだね。

あんまりちゃんと読んでなかったけど、絵がとても綺麗だったっていうのは何となく覚えてました。



そんなこんなで!!!

前置きが長くなりすぎたけどw、
今回読んだのはその乙一&ミヨカワ将タッグの作品「山羊座の友人」です。

山羊座の友人は、2012年くらいのメフィストに掲載された短編で、
原作の方はどの単行本にも収録されてないみたい。

乙一の短編はけっこう漫画になったり映画になったりメディアミックスされてて、
原作→漫画の順に読むようにしてた私だけど、
原作が読めないならしょうがない、と買っちゃいました。


「君と逃げるよ。たとえ人を殺していても。」
陰惨ないじめを受けていた若槻が殺人を犯した現場を、主人公・真田ユウヤは目撃する。
被害者は、紛れもない若槻いじめの主犯だった。
今までいじめを見て見ぬふりをしてきた罪悪感から、ユウヤは若槻と逃げる決意をするが?
少年二人の逃避行の末に待ち受ける結末とは――。
(表紙裏のあらすじより抜粋・一部アレンジ)

というのが、おおまかな話の流れです。


おしゃれな表紙も去ることながら、冒頭のカラーペ
ージ、白黒漫画の部分に至るまで、
流石に絵は端麗、綺麗。作画崩壊は一切無くて、安心して読める。

一方で、いじめの描写や、人物の表情にドキッとくる。
残酷な場面は、必要最低限の表現に抑えられてはいるんだけどね。


全部読み終わって思ったのは、
「やっぱ乙一だなあ」
ってこと。

彼らしい切なさや、青春の苦々しい感じなんかも織りまぜられてて、
もちろんミステリ的な仕掛けも健在。

セリフ回しとか、「アザゼルの山羊」の逸話やなんかを入れてくるところも、やっぱり

「乙一らしいなあ」

っていう一言に尽きた。笑


ディテールやなんかもね。主人公の部屋のベランダには時空を超えて非現実なものまで飛来する、とか。オーパーツや未来の新聞まで引っかかってるなんてね。
なんか、素敵じゃない。笑


しかし主人公たちはそんなキラキラした世界なんかには住んでなくて、
若槻は陰惨ないじめの渦中、主人公はそれを見て見ぬ振りして頭を低くして過ごすっていう、
鬱屈とした世界に生きてる。

いつか憧れたような、はなやかで楽しい高校生活みたいなものは、そこにはなくて。


逃避行の中で、二人は親密になっていくわけだけど、
その中での若槻のセリフは度々印象的。


「松田くんは生きてる実感て感じたことある?」

「いつもこうなんだ 外に出ると悪いことが起きるような気がする」

「金城くんを殺しても結局僕は……かわらないんだ 生きてる限りずっと……」

「あの夜わかったんだ 僕はこのために生まれてきたんだって」

「やあ 外の世界は 楽しかった?」


細くておとなしい若槻は、いつもなめられる対象。
高校生にとって「なめられる」っていうのは致命傷で、だからこそ若槻は目をつけられちゃったわけだけど。

「なんとなくなめられる」っていう人って何処にでもいるもんだけど、
その当事者の気持ちはどうなんだろう。
若槻みたいに、生きてる意味そのものがわかんなくなって、外の世界に希望を見いだせなくなっちゃうんだろうか。

空虚な毎日の「やるせなさ」みたいなものは、表情や描写からひしひしと伝わってくる。


この作品の登場人物に共通する感情は、「生きていくこと」に対する「やるせなさ」だと私は思う。

そんなに楽しくもない毎日の中で、ただ平穏を守るために、視界の端に映る若槻を無視していた主人公の感じていた罪悪感も、「やるせなさ」に繋がっていく。


そんな主人公が若槻と逃げることを選択したのは、「若槻が死ぬ」と書かれた未来の新聞をベランダで見つけてしまったからで。
せめて若槻が死なないようにと、運命を変えるために主人公は奮闘する。

しかし若槻は自分の「生」に対してネガティブな発言を繰り返し、そこにまたやるせなさが募る。

読者の感情も、主人公の感情も、若槻のことを知れば知るほど
「死んで欲しくない!」
と願う方面に加速していく。


さて、若槻と主人公は、逃避行の果てにどうなったのか。

この作品の終わり方は完全なハッピーエンドでは無くなってしまったし、人も死んでいる話だが、
ラストシーンは清々しく、微かな希望を見いだせる。
これはミヨカワ将の画力の高さによって、情景の美しさが倍増していると思う。


やるせない現実の中で生きていた登場人物たちだけれども、
確かに皆が抱いていた希望は主人公の素敵なベランダに舞い込んでいく。
鬱屈とした日々は、その景色の清々しさを感じられる時間だけは開放されていた。


伏線の張り方は確かに上手かったが、私にとっては少しわかりやすく、途中で真相に気がついてしまった。
今までの乙一作品と比べたら、少し単純だったかも。

しかし、登場人物の造形、感情、ほろ苦い青春というのが散りばめられている。
特に表情の描き方は本当に上手で、ミヨカワ将との相乗効果もあって、
内容が一層光っているという部分も。


最後に若槻と主人公がどうなったのかは、漫画を読んで確認していただければ。

説明する暇がなかったけど、可愛いツンデレなヒロイン的存在も登場するので(あれはクーデレか?)、
そこも是非チェックしておくべきところ。笑


最近乙一作品に触れてなかったから、懐かしかったし、
やっぱ乙一面白いな!って思えた。
短編が文庫に収録されたら、そっちも読んでみよう。



以上、「山羊座の友人」の感想でした!!

……初記事だけど、こんな感じでいいのか??笑