私の住んでいた新宿の下町は神田川沿いで、いわゆる貧民街でした。
商売をやっていた家が多く、サラリーマンという人たちは少なかったようです。
私の父は学校の教師だったので珍しい方でした。
近くに風俗店が多かったのもこの町ならではだったかと思います。
すぐ近所だけで、アミ、モナコ、じゅん、など、数件の風俗店がありました。
この当時の風俗店は住み込みもあり、私が小学校から帰ってくると、お姉さんたちがお店の二階から降りてきました。
店の裏に水道があって、お姉さんたちは順番に脚を洗っていました。
その光景が何となく面白くて、ランドセルをしょったまましばらく見ていました。
殺伐としたあの町で、明るい雰囲気があったせいかもしれません。
お姉さんのあけみさんが、
「ねえ、見てるとそんなに面白いの。大きくなったらもっと面白くなるよ」
と言っていましたが、そのときは意味が分かりませんでした。
お姉さんたちがきょう声をあげながら脚を洗っている姿がただ楽しそうで、いつまでも見ていました。
このお姉さんたちが夜にはどんな仕事をしていたかなんて知るよしもありませんでした。
あけみさんというお姉さんがいちばん遊んでくれて、私もよく遊んでもらいに行きましたが、夕方になると、
「これからお仕事だからまた明日おいで」
と言って、お店に入っていってしまいました。
子供の好きなあけみさんでしたが、やがていなくなってしまいました。
他のお姉さんの話では、旦那ができたんだと言っていました。
風俗店のお姉さんがいたり、乞食のおっさんがいたり、廃品回収のじいさんがいたり、いろんな人種のいた町でした。
それでも、風俗店のお姉さんたちに惹かれたのは、私も充分にませていたんでしょうね。