女の子の話でもいたしましょうか。
私が小学6年生のころ、近所に由美ちゃんという子がいました。
年は私と同じだったのですが、登校拒否で学校にはほとんど来ませんでした。
本来なら私と同じクラスのはずの子でしたが、クラスでその子のことを知っている人はほとんどいませんでした。
担任の先生から、由美ちゃんが学校に来るように話してみて、と言われたので、よく由美ちゃんの家には遊びに行きました。
登校拒否といったって、どこが悪いわけじゃなし、病気をしているわけでもありませんでした。
由美ちゃんの家に行くといつもお母さんがおやつを出してくれました。
おやつが目当てでいったわけでもないのですが、学校での話をするととても楽しそうでした。
「由美ちゃん、何で学校来ないの。みんな待ってるよ」
「だって、恥ずかしくていけないよ。絶対いじめられるよ」
「みんな俺の友達だって知ってるからいじめるやつはいないよ」
「先生だって最近来たことないよ」
「あの先生そういう人だもの。俺が虫垂炎で入院してたときだって1回も来なかったんだよ」
「やっぱり恥ずかしいな。バカにされるよ」
「クラスの女の子連れてこようか」
「やだよ。知ってるよ。いつもあんたが犬の散歩してるとき一緒にいる子でしょ」
「一緒になんかいないよ。ときどき会うだけだよ」
「あの子可愛いから好きなんでしょ。みてれば分かるもん」
「何言ってるんだよ。じゃあ別の子連れてこようか」
「いいよ、どうせ学校行かないから」
「でも先生と約束しちゃったからさ、一回だけでもいいから学校来てよ」
「やだよ」
こんな押し問答をしていましたが、そのうち母親が付いて登校してきました。
優しいお母さんで、うちの母親と取り替えたいぐらいでした(冗談ですよ)。
1日目は何も起きませんでした。
授業のあいだじゅうお母さんは後ろで立っていました。
クラスの悪どもが黙っているはずはないのですが、様子を見ていたようです。
3日目の給食のとき、由美ちゃんが牛乳を飲んでいる最中に、山下と青沼が由美ちゃんをくすぐりました。
由美ちゃんは牛乳を吐き出し、前に座っていた男の子の背中がびしょ濡れになりました。
その男の子は文句ひとつ言わなかったのですが、由美ちゃんはずっと泣いていました。
山下と青沼のランドセルを池にぶち込んで、二人を便所に押し込んで、ホースで上から水をかけ続けました。
せっかく由美ちゃんが学校に来たのに、すべては徒労に終わってしまったようです。
もう二度と由美ちゃんは学校には来ませんでした。
大きな家に住んでいましたが、中学生になる直前に引っ越してしまいました。
その後どうしているのか全く分かりませんでした。
私にも黙っていなくなるなんて冷たいやつだなと思いましたが、由美ちゃんにしてみるとすべてを断ち切りたかったんでしょうね。
それにしても小学校は卒業になったのかなあ。まあ、よけいなお世話か。