私が29才のとき、浅草の病院にアルバイトに行っていました。
そこで東北大学出の内科の村山先生と友達になり、ときどきは食事に行ったりしていました。
東大の医局で勉強中ということで、東北大のホ-プだと自分で言っていました。ずうずうしい奴です。
この病院の看護師は学生が多く、まだ19才、20才ですから、若いだけでもじゅうぶん魅力的でしたが、美人の子が多かったように思います。
私は結婚していましたので、彼女らのお遊びにお付き合いしたことはありませんでしたが、村山先生は独身でしたので、看護師さんとよく遊びに行ってたようです。
「東京の女の子は可愛いなあ」としきりに言ってました。
でも、彼女らのほとんどが村山先生と同じ地方出身者です。
少しピントがずれている人でした。
一人とてもきれいな子がいて、村山先生は本気でその子を好きになってしまいました。
ちょっとまずいかなと思って、お節介とは思いましたが、内科の部長に話だけはしておきました。
部長は真っ青になり、「何を考えてるんだ、あのバカ。奥さんや子供はどうするんだ」
「え、村山先生結婚していたんですか」
「そうだよ。何かあったら僕の責任問題だよ。何とかしてくれよ」
私には独身と言っていながら本当に不届きな奴です。
男と女のことに口をはさむのは嫌でしたが、いちおう村山先生には忠告しました。
「嘘をついててごめん。でも彼女突然いなくなっちゃったんだ。どうしたんだろう」
「ちょうどよかったじゃないか。もう女の子と遊びに行くのやめなよ」
絶対やめないだろうと自信を持って忠告しました。
案の定、また看護師や看護学生たちと遊び歩いていました。
しばらくして、村山先生が血相を変えて私のところへ来ました。
「大変なことになっちゃったよ」
「どうしたの。女の子の彼氏にでも殴られたの」
「彼女が戻ってきたんだ」
「そう。よかったんじゃないの」
「よくないよ。子供づれだもん」
「先生の子」
「そうだよ」
「だから姿消しちゃったわけね。これからたいへんだね」
これを自業自得というのでしたね。
私にとっては笑い話ではあっても、同情する気にはなれませんでした。
でも、村山先生、離婚されただけじゃなくて、東北大も辞めさせられちゃったんですって。
もとの奥さんのお父さんが大学の関係者だったらしく、もとの奥さんから復讐されたんでしょうね。女の人は怖いねえ。