わずかな期間でしたが、女子大で講義をしたことがありました。
まったくの偶然だったのですが、この中の生徒と、私の高校の同級生の矢野が結婚することになりました。
矢野は調子のいい奴で、何事にもいい加減だったので好きではありません。
***という不動産会社に勤めておりました。
矢野のフィアンセの同級生で、私が講義をしていたクラスの子がいました。
この子を通じて、私に結婚式の司会を頼んできました。
頼んできた子に何の恨みもありませんでしたが、
「申し訳ない。その日は友達の告別式なんだ。そう伝えといてくれ」
「2ヶ月も先の告別式がどうして今分かるんですか」
「医者からあと2ヶ月といわれてるんだ。ちょうど結婚式の直前に昇天すると本人が言っておった」
「ふざけないでくださいよ。矢野さんの司会がやりたくないだけなんでしょ」
「矢野の司会やりたい奴は誰もいないぜ。あいつも自分で頼みに来るべきだろうよ。もちろん断ったろうけどね」
「結婚式ぐらい手伝ってあげてくださいよ」
「あんた、矢野の何なのさ。そんな歌が昔あったな。****って知ってる。時代錯誤の歌手」
「知りませんよ。友達がいがないんですね」
「友達は大事にするよ。だけど矢野は友達じゃないもの。ところでなぜあなたが頼みに来たの」
「矢野さんのフィアンセが私の親友なんです」
「親友ならどうして矢野との結婚反対しなかったの。矢野は完璧いかれとるよ」
「そんなことないと思います。矢野さんは女子からは人気あるんですよ」
「それなら君は矢野と結婚したいと思う、もちろん例えばの話だよ」
「それはちょっと・・・」
「君は正直だね。その素直な気持ちを友達に話してあげるのが本当の友情だと思うけどね」
「もういいですよ。失礼しました」
とうとう怒って帰ってしまいました。
それっきり司会の話はありませんでしたが、結婚式には呼ばれました。
さすがに司会を引き受けた奴はいなかったらしく、式場の人が司会をしていました。
仲人も、友人のスピーチもまったくやる気がなくて、異常な早さで式が終盤になってしまいました。
1時間足らずだったと思います。
司会が慌てていました。
「それでは、ここで飛び入りのスピーチをお願いいたします。私のほうから指名させていただきます」
やるにこと欠いて、とんでもないことを言い出しました。
どうせすぐに離婚するのだから、こんな結婚式さっさと終わらせればいいのにと思っていました。
「それではお友達の・・・」
私が指名されてしまいました。
何にも考えていなかったので、どうでもいいことをしゃべりました。
「矢野君はかっこよくて、いつもみんなの憧れでした。勉強は苦手で、運動神経もよくなかったけど、優しくて、・・・、えーと、すごくもてました。いい加減な奴は好きじゃないけど、矢野君は・・・、んーと、いちばんいい加減だったかな。・・・」
司会から強制的にスピーチを中断されてしまいました。
滅茶苦茶な結婚式でしたが、矢野の結婚生活も悲惨きわまるものでした。
男の子が二人生まれて、まだ小さいうちに奥さんが逃げてしまいました。
矢野の姉さんが相当嫌がらせをしたのが本当の理由だそうです。これ、内緒だったかな。まあいいや。
矢野は一人で二人の子供を育て、それはもう感動的だったそうです。
矢野とはその後同窓会で会いましたが、身も心もボロボロのようでした。
顔がかなり腫れていたので病気でもしているのかなと思い、一言忠告しようかと思いましたがやめました。
だってよけいなお世話でしょうからね。