米軍基地のアメリカ人夫妻に頼まれて、日本人の子供を探しに行ったことがありました。
その夫妻には3人の子供がいましたが、養子としてもう一人子供が欲しいということでした。
そんなに欲しければ自分たちでもう一人作ればいいのではないかと思いましたが、赤ん坊から育てる体力も時間もないということで、6才ぐらいの子供を欲しがっていました。
日本ではまだまだ小さな赤の他人の子供を養子にするのはたいへん珍しいことですが、アメリカではごく普通に行われています。
私は施設をいくつかたずねました。
最初は昼間に行ったので、学校へ行ってしまって、子供たちはほとんどいませんでした。
いたのは、まだ学校にあがっていない幼児だけでした。
中をみさせてもらいましたが、手入れの行き届いた建物でした。
職員の人たちは一生懸命に子供たちの面倒を見ていたので、身なりの悪い子は一人もいませんでした。
夕方に行ったときには子供たちは勢ぞろいしていましたが、明るいような暗いような複雑な表情をしていました。
施設の先生に聞きましたが、親がいなくて寂しがっている子供は意外と少ないようでした。
それにしてもこの子たちには何か足りないものがあるようでした。
親の愛情と言いたいところですが、どうもそうではなかったようです。
自分でできることは自分でしなくてはいけないようでした。
大きな子は小さな子の面倒を見るのが義務のようでした。
先生たちも含めて、全員で助け合って暮らしておりました。
「子供さんたち、何か元気ないように見えるんですが」
「施設という狭い世界で生きているのが窮屈なんでしょうね」
「衣食住は満たされているみたいですが」
「それはまったく問題ないんです。お金の点ではほとんど困っていません」
「けっこう恵まれているように見えますけど、子供たちには不満はあるんですか」
「いたずら盛りの子が、毎日を拘束されているんです。つまらないと思っているかもしれませんね」
「でも施設で生活している以上仕方ないですよね」
「この子たち、学校ではけっこう悪いことしてるんですよ。学校では問題児の子も多いんです」
「施設の中ではいい子なんでしょ」
「私たち職員も少ないですから、ここではいい子にしていてくれないと困るんです」
「ストレスたまるでしょうね。学校でまでいい子やってられないですよね」
「いい子もたくさんいますが、反抗期の子にはここは居ずらいかもしれませんね」
「ところで、アメリカ人の夫婦が子供を養子にしたがっているんですが」
「ああ、よくある話ですよ。日本人ならともかく、外国人でうまくいった経験はありません」
「なぜですか。とてもいい人たちですけど」
「とくにアメリカ人の方たちはすぐ離婚してしまうので、結局子供は傷ついてここへ戻ってきてしまうんです」
「あの方たちに限って離婚はしないと思いますけど」
「離婚しないアメリカ人はいないと思ったほうがいいですよ」
「じゃあ、この話は無理ですね」
「無理ですね、申し訳ないけど。この子たちは私たちにとっても大切なんです。どんなに立派な方であっても、簡単に養子として渡すことはできないのです」
「よく分かりました。先方にはよく伝えておきます」
アメリカ人夫妻にはその旨を伝えましたが、たいへんがっかりしておりました。
でもこの夫妻、それから半年後に離婚してしまいました。
養子を世話しなくて、というか、世話できなくてつくづくよかったと思いました。