普通に生活をしている方にも、認知療法が役に立つ部分が多いと思います。
認知療法では、不快な感情を軽減するために否定的な考え方を見直していくことになりますが、この否定的な考えそのものを取り除くことが認知療法の目的ではありません。
なぜなら否定的な考え方が正しいということもあるからです。
よくないのは、否定的な考え方しか持てないことなのです。
認知療法では、否定的なものだけでなく、肯定的なものも、中立的なものも、さまざまな考え方を取り入れることによって、今ある事態に対して合理的な判断をし、現実的な対応ができるよう促していきます。
わかりやすく言えば、「マイナス思考を正常な思考に戻して、冷静に対処する」ということになります。
何かよくない出来事が起こったときに、その事実を本当に「正常に客観的に」直視することができればいいのですが、現実はそううまくはいかないものです。
そしてマイナス思考の悪循環の罠にはまっていってしまいます。
例えば大学受験で希望の大学に不合格となり、ひどく落ちこんだ場合のことを考えてみましょう。
「考え方を変えるだけ」の認知療法のイメージでは、「希望の大学に不合格であったからといって人生絶望ではない」と言い聞かせてあきらめる、といったイメージになるでしょうか。
しかし認知療法では、このような考え方の転換をするわけではありません。
認知療法では、大学受験の不合格によって絶望的である側面と、そうでない側面の双方を等しく考慮して、「その上でどうすればいいか」ということを考えていくのです。
認知療法によってさまざまな見方、考え方を総合した結果、浪人してもう一度同じ大学を受験し直すことが、よりよい対処法であるという結論に達するかもしれません。
これはただ落ちこんでいるばかりの時にはとても思いつかなかった対処法であるかもしれません。
つまり認知療法は、事実を無視してあきらめるために考え方を修正するのではなく、人生を投げてしまわないために、事実を正常に直視してそれに対処するものなのです。