昨年上演され、発売日に即日完売だったという人気寄席のアンコール公演「中村仲蔵」。抽選でなんとか購入出来たチケットを片手に行ってきました。
「中村仲蔵」
歌舞伎の家元に産まれたわけではない仲蔵さんが、いかにして歌舞伎の名役者になっていったのか。
前半は、その歴史を語る上で軸となる「仮名手本忠臣蔵」の解説から始まりました。
志の輔さん曰く、前半の解説はチケット代に含まれないオマケ、なんて話もありましたが、志の輔さんの見事な話術で語られる「仮名手本忠臣蔵」の解説が、分かりやすくて可笑しくて、解説そのものが既に一本の寄席のよう。1300人近く埋まったこの大きな会場に笑い声が何度も響き渡っていました。
全国の歴史の先生がもし志の輔さんだったら、子供達はみんな歴史を学ぶのが楽しくて仕方無いだろうなぁ、笑。
さて、15分の休憩を挟んで、いよいよ歌舞伎役者「中村仲蔵」の人生を語る落語へ。
時折前半の「解説者志の輔さん」の顔も登場しつつ(笑)、ある時は「幾つもの役者」を演じ分け、ある時は「語り部」になりながら、絶妙な語り口で物語を進めていく志の輔さん。
声の強弱、高低、緩急、間の取り方、表情、アドリブ、客席との距離の縮め方、、、。
しゃべりのジャンルこそ異なるけれど、司会、ナレーションに携わる一喋り手として、学ばせて頂くことが沢山ありました。
そして、全て観終えた後に、じわりじわりと噛みしめたのは、前半の解説の意義。
前半の長い解説に出て来た話が一体どれほど後半の落語に登場するかと思ったら、実はほんの一部だったのです。
でも、その一を観る為に十の解説をしてもらったことで、一の魅力が何倍にも浮かび上がったのでした。
昔、喋り手の仕事を始めたばかりの頃、「一を伝えるには十を知らなくてはいけない」ある人からそう教えてもらったことを思い出しました。
素晴らしい寄席に出会え、心地良い余韻に浸りながら外へ出ると、夜空に昨日中秋の名月だった月が。
こんな夜は、すぐ現実世界(地下鉄)へ向かうのが勿体無くて、しばらくぼんやりと眺めてから帰って来たのでした。