2024年6月30日

 

映画 ”ディア・ファミリー”

(上野TOHOシネマ)

 日曜日の昼間。満員の映画館ていつ以来だろう。都会は違うね。

 


 これは秀作。事実を基にした作品という段階で説得力が違う。

 

 原作者(アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録)の清武英利氏といえば、読売ジャイアンツの元球団代表、あの「清武の乱」で読売グループのドン、ナベツネに反乱を起こした人である。球団代表当時の活動については、いろいろ毀誉褒貶の激しい人であるようだが、読売から追放されて以降、作家としての活躍目覚ましく(*)、才能豊かな人であることは間違いない。

 

(*)2014年、記者時代から追いかけ続けた山一證券をテーマとした『しんがり - 山一證券 最後の12人』で第36回講談社ノンフィクション賞を受賞。2018年、『石つぶて 警視庁 二課刑事の残したもの』で第2回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞(大宅賞)読者賞を受賞 など

 

 大泉洋は必ずしも好きな俳優ではないが、この作品では、前向きで明るく努力家で、しかも勇気と行動力のある主人公を熱演していた。花マルあげちゃいますね。

 音楽も出過ぎず、かといって雰囲気を上げる効果は十分現れている。無駄のない脚本は、演出も相俟って見る側に負担を強いることなく、それを共演陣が過不足のない演技でよく表現している。

 

 涙腺の弱い私は、きっとぼろぼろに泣くだろうなと自分で予想していたが、意外にもそんなことはなく、涙がこぼれることはあったものの、ハンカチが必要なほどではなかった。いや、十分に感動しましたよ。よくできた映画だと思う。


 

 

 

【キャスト】
(坪井家)

  • 坪井宣政(つぼい のりまさ)演 - 大泉洋;ビニール製品樹脂工場の経営者。心臓病を患い余命10年の宣告を受けた次女の佳美を救うべく、自らの手で人工心臓を作る決意をする。
  • 坪井陽子(つぼい ようこ)演 - 菅野美穂;坪井宣政の妻で3人の娘の母。佳美のために人工心臓を作る決意をした宣政を献身的に支える。
  • 坪井佳美(つぼい よしみ)演 - 福本莉子;坪井家の次女。生まれつき心臓病を患っており、幼い頃に20歳まで生きられないと宣告される。
  • 坪井寿美(つぼい すみ)演 - 新井美羽;坪井家の三女。
  • 坪井奈美(つぼい なみ)演 - 川栄李奈;坪井家の長女。長女として、妹を助けるために奔走する両親を支える。

(周辺人物)

  • 佐々木肇(ささき はじめ)演 - 上杉柊平;東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医であり、富岡の同僚。人工心臓制作に奔走する宣政に感銘を受け、研究を重ねながら臨床試験を目指す。
  • 柳玲子(やなぎ れいこ)演 - 徳永えり;東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医で、富岡と佐々木の同僚。同僚の富岡や佐々木とともに人工心臓の開発に奔走する。
  • 桜田純(さくらだ じゅん)演 - 満島真之介;医学博士。学生に紛れて東京大学の医学講義を受けていた宣政の相談に乗る。
  • 川野由希(かわの ゆき)演 - 戸田菜穂;佳美と同じ病室で先天性心疾患と闘っている少女の母親。
  • 山本結子(やまもと ゆうこ)演 - 有村架純;テレビリポーター。とある過去を抱えており、宣政とIABPバルーンカテーテル誕生の秘密を追いかけている。
  • 富岡進(とみおか すすむ)演 - 松村北斗;東京都市医科大学・日本心臓研究所の研究医。人工心臓制作に奔走する宣政を冷めた目で見ていたが、宣政の熱意に感銘を受けて手伝うようになる。
  • 石黒英二(いしぐろ えいじ)演 - 光石研;東京都市医科大学教授。人工心臓制作に奔走する宣政を支えていくが、実用化に向けて対立することになる。

 

【スタッフ】

  • 原作:清武英利『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』(文春文庫)
  • 監督:月川翔
  • 脚本:林民夫
  • 音楽:兼松衆
  • 主題歌:Mrs. GREEN APPLE「Dear」(ユニバーサル ミュージック / EMI Records)
  • 配給:東宝
  • 製作幹事:東宝、WOWOW
  • 製作:「ディア・ファミリー」製作委員会(東宝、WOWOW、アミューズ、S・D・P、CREATIVE OFFICE CUE、ジェイアール東海エージェンシー、テレビ愛知、電通名鉄コミュニケーションズ、毎日新聞社、中日新聞社)
  • 2024年 116分
 事実にもとづく物語とはいえ、すべてが現実の話ではない。エンドロールに小さな字で数秒間「筒井家(坪井家のモデル)の人物設定等事実と異なる部分があります」という趣旨のテロップがあった。ほとんど誰も読み取れない程度の小さな字と秒数。誰も読まずに「同意します」の欄にチェックするネットショッピングの約款みたいなものだ。
 それが悪いという意味ではない。商業ベースの映画である以上、脚色も必要だろう。
 

 それにしても医学には全くの門外漢であった町工場の社長が、想像を絶する勉強と行動力により、人口心臓の開発からやがてバルーンカテーテルの製品改良へと進んでいく過程が感動を呼ぶ。

 映画 “ロレンツォのオイル/命の詩” (1993年アメリカ)を思い出した。



 この筒井宣政氏(東海メディカルプロダクツ会長)の開発したIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーンカテーテルは、世界で17万人の命を救ったと言われる。現在もまた幾多の人々の命を救っていると最後に画面に表示される。

 こういう人にこそノーベル生理学・医学賞が授与されてしかるべきではないのか。最近のノーベル賞、特に物理学賞あたりは、実際に社会貢献した発明に対して与えられる傾向があると聞く。正にこのIABPはそれにふさわしい。

 

 黄綬褒章や旭日双光章なんかでお茶を濁している場合ではないぞ、日本国政府。カロリンスカ研究所かノーベル財団にロビーイングでもしたらどうか。