2024年4月30日

 

マリウポリの20日間

 ”この惨劇を世界に伝えてくれ”

 

 これは2022年の“マリウポリの7日間の記録”を見ようと思っていたら見逃して、そうこうするうちこの映画を見つけたので行ってきた。

 

 ウクライナ戦争の初期、最前線に残って取材を続けたAP記者のレポートである。自分の身に危険が迫っている状態の映像であるから、アングルだの撮影場所だの気にかけている場合ではない。生々しいという意味では、これ以上ない現場の記録である。

 

 爆撃を受けた病院から救出された臨月間近の妊婦。救出作業自体が決死の行動である。そしてまた、薬品も医療器具も、電気や水さえもまともにない環境では、母も命がけの出産であった。これがフィクションであれば、母子ともに危機を乗り越えたハッピーエンドとなるところ、現実は痛切にして残酷だ。

 

 APの記者は、現場の被災者から、前線で戦う兵士から、攻撃を受けた病院の医師から、「この惨劇を世界に伝えてくれ」と懇願される。インターネットもまともにつながらない状況で、携帯電話によるきれぎれの映像を本社に送り、なんとか世界に配信することに成功する。AP記者の命がけの活動はウクライナの現場から見事にリレーされた。

 

 私はこの映像を日本で見た記憶はない。日本の報道記者たちに戦地の、前線に行けとは言えない。ただ、日頃あれだけ政府批判に熱心なマスメディアが、政府外務省から退避勧告、渡航自粛が出たら唯々諾々としてそれに従うのはなにやら違和感を覚えてならない。

 金を出せばフリーランスのジャーナリストやカメラマンから情報、写真は入手できる。よしんば彼らが現場で致命的な被害を受けたとしても、「あれはわが社の社員ではありません。自分たちは政府方針に従って行動します」と安全地帯を決め込む。いやもちろん、心ある報道記者は、ここは俺たちのいる場所ではないと思っていると信じたい。

 

 

 

 

 この映画は戦争の悲惨さを伝えている。

 戦争をしてはいけないというのは当たり前だ。だが、だから軍備を持つべきでないとは言えない。ロシアのようにいきなり軍事侵攻を実行する国がある。領土的野心を隠そうともしない中国は疑いのない軍事的脅威である。北朝鮮は何をしでかすかわからない。これ全て日本を取り巻く国ではないか。

 

 火事を出してはいけないから消火器を持たないというのは矛盾だろう。放火犯はそこにいる。

 

 ウクライナに憲法9条があったらどうなっていたのだろう。ウクライナがNATOに加盟国であったらロシアは侵攻していたのか。

 

 戦争の事実を伝えたうえで論争してくれ。まず事実を報道してくれ。あなた方の思想はあとでいい。

 

 

 

 APとはAssociated Press社、アメリカの非営利通信法人である。フランスのAFP、イギリスのロイターとならぶ世界三大通信社のひとつである。ピューリッツァー賞が1917年に創設されて以来、32の写真部門を含む54の同賞を受賞したというのは、同社の実績のごく一部だろう。

 

 翻って日本のマスメディアでは、中国に費用を負担してもらった大名旅行で、中国政府のプロパガンダの片棒かついだ朝日新聞の本多勝一とか、北朝鮮はこの世の楽園とウソを垂れ流した朝日新聞とか、慰安婦強制連行という詐欺師吉田清治の虚言をなんのウラもとらずに世界に広めた朝日新聞とか・・あ、全部朝日か。

 

 「国境なき記者団」によれば、日本の報道自由度は世界180か国中70位、G7では最下位だそうだ。

 理由ははっきりしている。「記者クラブの存在」「新聞社とテレビ局が同一資本に支配されている」「マスメディアは広告主に逆らうことができない」の3つだろう。

 言わずもがなではあるが、日本のメディアは権力および資本との距離が近すぎるのだ。

 

 日本には「言論の自由」はあるが、「報道の自由」はないということか。いや、報道に携わる当事者がそれを放棄している。

 

 朝日新聞は今や本業よりも不動産事業の収入が好調と聞く。多少部数が減少しても体制は盤石、適当にセンセーショナルな言説をまき散らしておけば、大衆世論の支持と批判はせいぜい拮抗するのがかえって好都合、当分は高給を食む地位に揺るぎはないのだろう。

 

 いやジャーナリスト魂にあふれる記者諸君は多数いるはずだ。新聞社と通信社を直接比べるのは筋違いか。AP社の位置は日本では共同通信と時事通信になるが、よくも悪くも朝日新聞の存在感は大きいし重要だろう。

 せいぜいがんばってくれたまい。