2023年11月16日
映画『海底軍艦』
WOWOWで見た。
1963年の映画であるから、出演者の大半が故人である。高島忠夫、藤木悠、平田昭彦、小泉博、田崎潤、上原謙。製作陣も同様である。本多猪四郎、円谷英二、伊福部昭。
ノスタルジーを感じさせる映画だった。映画の作り、雰囲気、時代など「宇宙大戦争」(1959年)に似ていると思った。
出てくるモンスターのショボいところもよく似ている。
昔の俳優の演技は「くさい」ね。今だとあんな演出はしないだろう。
「ムウ帝国」なんていうのもなつかしい(今だと「ムー帝国」表示の方が普通かな)。そのムウ帝国の住民がなんとなくエジプト風なのはご愛嬌か。ハリウッド映画の『クレオパトラ』はちょうど同じころの公開で、その影響は間違いなくあるだろう。
劇中「キ〇ガイに刃物」というセリフの音声(キ〇ガイの部分)が消されていた。私は加齢による難聴の傾向が出てきたため字幕を表示して見ているが、字幕でも「〇〇〇〇に刃物」と表示されていてそれでわかった次第。音声だけだとたぶんトラブルだと認識しただろう。活字媒体だと「今日の人権意識から見て不適切と思われる表現が使用されておりますが、当時の時代背景を考慮し、発表当時のままとしました」云々という断り書きを添えてそのまま発表されることが多い。映画の場合、その類の注釈を見たことがないのがむしろ不思議である。
今回の場合は有料契約(WOWOW)であることを考えれば、テレビ放送といえども視聴者は不特定多数とは言えないんじゃないだろうか。であればセリフまるごと削除するのはいかがなものかという気がする。R-15でも指定してそのまま放送するという選択はなかったのか。
最近はたぶん、阪神タイガースのファンを「虎キチ」とか、中日ドラゴンズファンを「ドラキチ」と言うことは、少なくともスポーツ新聞の紙面ではないのだろう(私はスポーツ新聞は見ないので現状どうなのか知らない)。でも、そうすると漫画家矢口高雄氏の代表作「釣りキチ三平」はどうするのか。
「狂」の字も忌避される傾向が強い。ひと昔前に「狂牛病」が流行したときに、比較的すぐに「BSE」に置き換えられたのもそのせいだろう。ところがその後「狂犬病」が日本でも何十年ぶりに発症例があった際には、そのままその病名が報じられたことを覚えている。
まぁ何を言いたいかというと、言葉だけ言い換えたところで意識が変わらないのなら同じだということ。うわべを繕ったところで本質は変わらない。逆に、表現を変えるところから意識改革が始まるのだという考えもあるだろうから、これ以上議論するのはやめておく。
【キャスト】
◆旗中進(主人公 昔風に言えばいわゆるトップ屋):髙島忠夫 高島兄弟のパパ。2019年88歳没。
◆神宮司真琴(神宮寺大佐の娘、楠見の秘書):藤山陽子 「青春とはなんだ」に出ていたと聞いて思い出した。67年に結婚を機に引退ということで印象は強くない。きれいな人ですね。昨年80歳で亡くなっている。
◆西部善人(旗中の助手):藤木悠 この人も東宝映画にはよく出ていた。2005年74歳没。
◆海野魚人(ムウ帝国人):佐原健二 東宝怪獣映画の常連。91歳で健在。
◆楠見(元海軍少将):上原謙 いっしょに見ていた娘に「加山雄三のお父さん」と言っても、娘にしたら加山雄三からしておじいさんと認識しているから、ほとんど源頼朝の父親というのと変わらない。1991年82歳没。
◆伊藤刑事:小泉博 たしかに俳優だったね。2015年88歳没。
◆神宮司大佐(轟天号艦長):田崎潤 ゴジラ映画には必ず出ていたという印象。こういう実直な軍人役がよく似合う。1985年72歳没。
◆天野兵曹(神宮寺の部下):田島義文 この人もよく見る顔。2009年91歳没。
◆ムウ帝国工作隊23号:平田昭彦 陸軍士官学校、旧制第一高等学校を経て東京大学法学部卒。ゴジラ映画の常連。1984年56歳没。亡くなってほぼ40年とは驚き。印象深い俳優さんです。
◆猊下(ムウ帝国長老):天本英世 怪優天本英世、この映画の時は37歳という若さで老人役。旧制第七高等学校から東大法学部に進学するも中退。2003年77歳没。
◆防衛庁幹部:藤田進 初期の黒澤映画の主役。この人も軍隊幹部とか大企業幹部役の似合う俳優さんですね。1990年78歳没。
◆ムウ帝国皇帝:小林哲子 この人は知らなかった。67年にいったん引退したらしい。1994年53歳没。
◆リマコ(冒頭に登場するグラビア女優):北あけみ 映画出演は60年代でほぼ終わり、その後テレビもごく限られている。当時の日本人としてはすいぶんナイスバディ(死語?)。83歳で健在。
【スタッフ】
◆製作:田中友幸
◆脚本:関沢新一
◆原作:押川春浪『海底軍艦』
◆音楽:伊福部昭 ご存じ、ゴジラ音楽の作曲者。この映画でもゴジラ臭が強い。あまりにもゴジラの作曲家として名前が売れてしまった感があるが、日本現代音楽の巨匠である。
◆現像:東京現像所 東洋現像所じゃなくて東京現像所。
◆監督助手:中野昭慶 なんとなく名前に聞き覚えがあったので調べてみたら、円谷英二の次の次の東宝の特技監督を務めた後、東宝パニック映画を始め、ゴジラ作品の特撮を担っていた方。
◆特技監督:円谷英二 言うまでもなく、東宝怪獣映画の立役者
◆監督:本多猪四郎 円谷特技監督とのコンビは少年時代の私の脳裏に深く刻み込まれている。
製作・配給 東宝
公開 1963年12月22日
上映時間 94分