2023年9月9日

 

 これはホロコースト絡みの物語かと思ったら、町工場の人々のヒューマンドラマと言った趣。アイヒマンひいてはナチスの所業を糾弾するという趣旨はゼロではないが、それはいわば惹句にとどまり、それを背景に繰り広げられる様々な思いを描いた映画であると言えよう。

 

 ホロコーストを描く場面はないし、アイヒマンを正面から表現する映像もない。ただ後ろ姿やタバコを喫う手先を描くばかりで、ことさらに軽く扱うことにより、逆にその不気味な存在を際立たせていた。

 

 

 関係者に対する徹底的な取材をもとに作りあげたドラマは、史実にもとづいたフィクションという性格になろう。歴史の裏付けのあるストーリーはリアリティを保ちつつ、一方でドキュメンタリー映画が陥る堅苦しさや退屈さとは無縁である。また、アラブとイスラエルの抜きがたい対立を描きつつ、市井の個人レベルの交流はまた別の世界があることをよく表現していた。

 

 リビア系移民の少年ダヴィッド役のノアム・オバディアは好演。ダヴィッドを雇うゼブコ社長を演じるツァヒ・グラッドも重厚なオーラで映像を引き締めている。

 アイヒマンを収監する刑務所の保護官の心理、理髪師のエピソードなどの挿話も緊張を伝えて過不足ない。

 

 秀作。

 

 

映画 アウシュビッツの生還者 & ナチスに仕掛けたチェスゲーム | 小人閑居して不平を鳴らす (ameblo.jp)

 

 

映画 この夏のホロコースト三部作・・と私が勝手に呼んでいる | 小人閑居して不平を鳴らす (ameblo.jp)