2023年2月20日

 銀行を舞台にしたドラマで、元銀行員の私としてはそのリアル感に身につまされること多し。だいたい原作者の池井戸潤氏が元銀行員で、しかも私がいた銀行の8年後輩に当たる。元より『半沢直樹』の成功で名声を極めた感があり、銀行ドラマは十八番と言ってよい。

 映画を見てこんな話だったっけと思ったら、やはり原作とはかなりストーリーや登場人物は変えてあるらしい。ただ、エンドロールで池井戸氏の名前は製作者の一人として掲げてあったし、脚本協力にもクレジットしてあったから、映画スタッフにおまかせということではなく、自ら主体的に映画製作に関わったということのようだ。かといって監督までやる気はないだろう。そんなヒマはないし、十分に稼いでいるからその必要もない。

 作家としては1998年に『果つる底なき』でデビューし江戸川乱歩賞を受賞したということになっているが、その前にビジネス書をいくつか書いており、小説家デビュー前の『銀行取扱説明書 お金を借りる会社の心得』は私も読んだことがある。銀行には7年ほどしか在籍してなかったわりに、要領よく銀行との付き合い方をまとめてあり、後の金融ミステリにおける描写も含めて、優秀な金融マンであったと想像できる。

 小説家としての名声ということでいえば、東野圭吾氏が万人が認める不動のトップとすれば、『半沢直樹』シリーズの成功で、今や池井戸潤氏はそれに続く地位を確立したと言ってよいのではないか。まことにご同慶の至りである。

 作家は売れるほどにTVを初めとする映像媒体には登場しなくなる。顔を売る必要がないのがもちろん最大の理由だが、大沢在昌氏がどこかで書いていたように、テレビに出るのに熱心な作家はその後名前が消えていくという傾向にあるようだ。7~8年前に芥川賞を獲った若手作家で、バラエティ番組にも進出していた人がいたが、最近は見なくなった。いや顔を見なくなっただけでなく、作品も見ない。室井佑月とかいう「作家」は、最近までテレビではよく見かけたが、はて作品は何があるのか全く知らなかった。援助交際スキャンダルで新潟県知事を辞任しながら、その後衆議院議員に当選してしまった米山某と結婚したらしく、テレビ出演はその米山氏の選挙との関係で問題があるとかで、出演を自粛して最近は見ないのでスッキリした。今ではしんぶん赤旗と朝日系雑誌くらいしか書く場所がないと思われ、週刊朝日の休刊(廃刊)は痛手に違いない。

 思えば東野圭吾にしても、初期はテレビでも見かけていた。今や直木賞選考委員にして日本大学の理事長である林真理子センセーも昔はテレビによく登場していた。その後放送媒体は控えているようで、賢明な判断でありますね。作家は進化する、というお手本である。

 映画の話のはずが例によって飛んでしまった。

 映画はよいできであった。俳優陣も豪華にして熱演。主演の阿部サダヲは若干大げさな印象があるが、作品全体の雰囲気をこわすほどではなかったし、持ち味は十分出ていたように思う。音楽も控えめで好印象。ただしエンディングに流れるエレファントカシマシの "yes. I. do" との関連はよくわからない。

 エンタテインメントとして上質の映画。料金の価値は十分ありますね。

キャスト

 阿部サダヲ:西木雅弘 営業課課長代理

 上戸彩:北川愛理 営業課課員

 玉森裕太:田端洋司 お客様二課課員

 佐藤隆太:滝野真 お客様一課課長代理

 渡辺いっけい:鹿島昇 お客様一課長

 柳葉敏郎:東京第一銀行長原支店長

 杉本哲太:同副支店長

 橋爪功:取引先 石本浩一

 柄本明:取引先 沢崎肇

 佐々木蔵之介:検査部次長

スタッフ

 原作:池井戸潤

 監督:本木克英

 脚本:ツバキミチオ

 音楽:安川午朗