2022年11月29日

映画「ザ・メニュー」

 ネタばれあり・・と言ったところで、私のこのブログを読む人は日本全国で多い時で20人くらいだから大勢に影響はない。


 「ザ・メニュー」を見てきた。初めてチラシを見た時グルメ映画かと思っていたら、そのうち予告編やコマーシャルを目にしてこれがミステリだと知って興味を覚えた。

 明日からまたしばらく介護帰省する予定で、しばらく映画を見る機会はないので、どの映画を見るか若干迷った。最近上映サイクルは結構短い。特に不入りだと、うかうかしている間に公開終了になりかねない。
「ザ・メニュー」が不入りかどうかはともかく、ほかに候補として考えた作品は、「母性」と「ある男」の邦画2作品。「母性」は湊かなえ、「ある男」は平野啓一郎のそれぞれ原作で、書店での原作本とのタイアップ広告やテレビCMも投入して大いに宣伝している。「ザ・メニュー」もテレビCMは盛んに流れている。

 かなり昔、KADOKAWA映画がテレビCMを大量に流したのが、映画宣伝史上に残る大胆な戦略の転換であったと記憶している。一時おとなしくなっていたが、近年また映画宣伝をテレビで流すようになったと感じるのは気のせいか。

 「ある男」と「ザ・メニュー」の公開開始が11月18日で、「母性」は23日の封切りである。邦画の方は、1年もたたないうちにWOWOWで放映される期待もあり、ここは洋画にしておこうというのが最終判断である。

 

 答えは・・う~ん微妙。ミステリタッチでストーリーが進んでいき、最後まで見る者の気をそらさないのはさすがハリウッド映画(と言っていいのだろう。制作はアメリカのSearchlight Pictures、配給はウォルト・ディズニー・ジャパンである)と思わせたが、最後まで「なぜ?」の解が出なかった。

 わかったような批評を垂れ流す料理評論家、IT投資家と思しき傲慢な客、落ち目の俳優、常連でありながら料理を何一つ覚えていない裕福そうな熟年夫婦、そして主人公の一人である若い女性マーゴ(アニャ・テーラー=ジョイ)とそのボーイフレンド、タイラー(ニコラス・ホルト)がこのレストランに招かれた。

 最終的に彼らは一人を除いてシェフ、スローヴィクと運命を共にするのだが、そこまで罰を受けなければいけないのだろうか。

 料理評論家リリアン(ジャネット・マクティア)はシェフ、スローヴィク(レイフ・ファインズ)が有名になるきっかけを作ったいわば恩人。一方で酷評したレストランを廃業に追い込んだことをむしろ自慢げにかたる高慢な女性。あまり友達になりたいタイプではないが、殺意まで抱くか。IT投資家連中3人との関係はよくわからないが、金に飽かせて好き放題やらかす態度が気に入らない、というのはわかる。わかるが、さて死んでほしいとまでは思わない。俳優(ジョン・レグイザモ)の罪は、スローヴィクが月に一度の休日に見た映画があまりにもくだらなくて、貴重な休息の時間をふいにした恨みがあるらしい。その映画の主役がこの俳優であったというだけのこと。裕福そうな夫婦の夫の方は、紳士づらしているが、奇妙なプレーをねだる変態であると明かされる。そのプレーの相手がマーゴであって、たまたまタイラーが本来のガールフレンドと来るつもりだったのが、振られてその代わりに雇った一時だけの関係性のようだ。タイラーは美食家をきどるスノブだが、料理をやってみろと言われて震えながら作る一品が、ラム肉とネギとエシャロットのバターソース・・と言えばそれなりだが、ラムは生焼け、バターで炒めただけのこの料理(とすら言えない)ではうまいはずがない。この後スローヴィクによって自殺に追い込まれるのだが、短時間で洗脳してしまうほどの経過とは思えなかった。ましてリリアンの腰巾着のようなグルメ誌の編集者、落ち目俳優のマネジャーはこのレストランは初めて訪れたという設定に見える。それだけで巻こまれるのは酷ではないのか。さらに厨房のメンバー全員がここまでシェフに心酔してしまうのは、カルト教団でも見ている感じがして、あまり愉快ではない。そう、この映画は観客を楽しませるために作ってはいないのである。話が進むほどに、疑問が深まり、不快感は高まっていく、それが感情の高揚であると言われればそうですかとしか言いようがない。

 今こうやって書いていて初めて腑に落ちたのが、マーゴが解放された理由である。マーゴは当初の予約客には入っていなかった。だからスローヴィクが執拗にお前は誰だと問い、お前はここに来るべきでなかった、自分の計画には入ってなかったのだとくり返していたのだ。終盤、意を決したマーゴが、「あなたの料理には満足できない。愛がない。だから私は今腹ペコだ。」と宣戦布告する。それに対してスローヴィクが「では何を食べたいのか」と問うと、マーゴは「チーズバーガー、本物の」と応じる。自分の舌を信じ、正直な感想を述べたマーゴは結果として解放される。

 高価な材料を使い、見た目を極端に飾る、そして結果的に庶民には全く手の出ない高額の料理(映画の設定では一人1,800ドルだったか)を、ありがたがっていただく現代人に対する警鐘ですか、そりゃちょっと陳腐な結末だな。

 名画にトマトスープやらぶっかけて環境保護を訴える過激派環境運動家は、むしろこういうスノブなグルメ風潮を攻撃した方が共感を呼ぶんじゃないですかね。

 

作品データ

 原題;The Menu

 製作;2022年アメリカ

 配給;ウォルト・ディズニー・ジャパン

 上映時間;108分

 

 監督;マーク・マイロッド

 脚本;セス・リース、ウィル・トレイシー

 音楽;コリン・ステットソン

 

 主な出演者は文中にかっこ書き

 

 

映画まで時間があったのでコメダ珈琲で時間調整