2022年11月8日

 

 ロバート・デ・ニーロの代表作と言っていい2作品を見てきた。10月28日に”レイジング・ブル”(1980年)、で今日が”ディア・ハンター”(1978年)である。毎年全国的に開催されている「午前十時の映画祭」で、10月下旬から11月半ばまで、この2作品が上映される。
 まずディア・ハンターからいこうか。ストーリー他はあまりに有名な映画なので割愛。

 重い映画だった。他国の戦争にあそこまでのめり込むアメリカという国がわからない。自国の青年の命を差し出す意図が理解できない。そして戦争の経験が兵士やその家族の精神を蝕み、生活を毀損する。自国を守るのならまだしも、遠い戦場に兵士と兵器を送り、得たものは何だったのか。この映画は直接それを問いかけることはしない。戦場でロシアンルーレットの過酷な精神状態を経て、生還後もベトナムに止まり自らそのギャンブルに身を置くニック(クリストファー・ウォーケン)と、彼を救い出そうとして再びベトナムに向かったマイケル(ロバート・デ・ニーロ)。彼らの運命を分けたのはいったい何だったのか・・
 デ・ニーロとウォーケンの鬼気迫る熱演。若きメリル・ストリープの美しいこと。スタンを演じたジョン・カザールは”ゴッドファーザー”のフレド・コルレアーネ役が印象深い。ストリープとカザールはディア・ハンター制作時婚約していた由。すでに肺がんの宣告を受けていた彼は、映画公開を待たずに42歳で他界・・
 秀作でした。

 ひねくれ隠居の映画評はほめるだけでは終わらない。序盤の結婚パーティの場面が長すぎる。184分の長尺だが、このシーンを整理すればもっとすっきりとストーリーに入っていけたはずだ。あと、BGMが少しうるさい。最近の映画は抑制気味に音楽を使用している作品が多いので、よけいにそう感じたのかもしれない。

 いや、でもいい映画でした。堪能。
 

 

 レイジング・ブル。ん〜これはちょっと期待はずれかな。単純に言ってしまえば、短気で猜疑心の強いボクサーが身を持ち崩す話。デ・ニーロや弟役のジョー・ペシ(弟という設定に無理がある、それともヤクザの義兄弟の類か)の個性はたっぷり発揮されている。でもそれ以上の何かが感じられなかった。マーティン・スコセッシ監督というから期待していたのだけど。モノクロで撮った意図もよくわからない。時代の雰囲気を出すということなのだろうか(調べてみると、カラーフィルムの褪色の観点からだそうです)。テーマ音楽として流れるカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲もしっくりこなかった。

 実在のボクシングミドル級チャンピオン、ジェイク・ラモッタの自伝を元に作られた映画だそうで、米国人と他国人ではそもそもの受け止め方が違ってくる。あまりいい例えではないかもしれないが、浪速のロッキーと呼ばれた赤井英和の物語をアメリカ人が見てもぴんとこないだろう。日本であれば、チャンピオン目指してまっしぐらの赤井選手が、試合中のパンチにより脳挫傷で意識不明となり、奇蹟的に回復するも引退を余儀なくされ、後に俳優として見事に成功を勝ち得たというストーリーには誰もが感動するだろう。いや、ごめん、話が飛んだだけだった。

 これは例の「デ・ニーロ・アプローチ」が完成された映画だ。役作りにとことん拘るデ・ニーロが、体重を27kg増量したという。第53回アカデミー主演男優賞など多数の映画賞を獲得、スコセッシとデ・ニーロの最高作と評価も高い。次は”タクシー・ドライバー”を見たい。