プルルル・・・プルルル・・・

「郁馬・・・出て・・・」

あたりに見当たらない郁馬・・・

愛夏は郁馬の携帯に電話をかけていた。

『・・・ただ今電話に出ることができません。ピーっと鳴りましたらお名前と・・・』

留守電のアナウンスが聞こえると、愛夏は携帯を地面に落して人ごみの中に入って行った。

「すいません、通して!」

目の前の人たちをかきわけて、人ごみの最前列、店の正面に来た。

「郁馬・・・中にいるの・・・?」

店の中を覗こうと、愛夏は警察が張った立ち入り禁止のテープを潜り抜けた。

「入ってこないで!下がってください!」

テープの中に入ってきた愛夏を警官が後ろに押し戻したす。

「放して!郁馬が中に・・・」

警官に抱きかかえられるように押し戻されていく愛夏の目に郁馬が映った。

彼は店の中で他の取り残されている人たちと一緒に店の中央で座っていた。

「・・・っ郁馬!」

郁馬の姿を見つけた愛夏は警官の手を振り払って店の方に走って行った。

「20秒切ったぞ!」

「離れるんだ!」

その2つの声が聞こえた瞬間、愛夏は数人の警官に抱えられて店から遠ざけられた。

「放して!どうして中に入らないの!?郁馬がまだ中に・・・」

ドンッ・・・

愛夏が警官に叫んだ瞬間・・・目の前で雑貨店が爆発した。

「郁馬・・・うそ・・・・やだ・・・いやっ・・・・」

その場で愛夏は泣き崩れた。


「これが1年前、あの子に起こったことだ。」

話終えて警部が1言そうつぶやいた。

「・・・・・・。」

警官はあまりにも残酷なその現実に言葉を無くした。

カチ・・・

警部は煙草にライターで火をつけると、口から白い煙をフーッと吐き出した。

「それからあの子は警察に反発し始めた。何を言われても話さなくなったし、あえて警察に向かってくるようなことも始めたんだよ。」

煙草の灰を灰皿に落としながら警部はそう言った。

「・・・なんで警察に?」

警官は座っていたソファーから立ちあがり警部に問いかけた。

「・・・俺も彼女に聞いたよ。『なんでこんなことばっかりするんだ』ってな。」

「それで・・・?」

警官は警部の口から出てくる言葉を最速する。

「・・・警察が嫌いだから。警察は郁馬を助けなかった、外で見ているだけで何もしなかった。郁馬は警察に殺されたんだ・・・って。そう言われたよ。」

警部はうなだれながらそう言った。

その言葉を聞いて、警官は何も言わなくなった。

言葉が出てこないのだ。

「彼女の中では、警察は自分から大切な人を奪った爆弾犯と同じ・・・ただの人殺しの組織でしかないんだよ・・・。」


「彼氏を亡くした・・・?」

警察署内の仮眠室。

警部は暗い部屋の一点を見つめて話し出した。

「一年前に駅の近くで爆発事故があったの覚えてるか?」

警官の顔を見ないまま警部はそう訊ねた。

「あー、あの爆発犯も一緒に死んだ事件ですか。」

「さっきの子な、白石愛夏(シライシ アイカ)っていって、あの事故の時その店にいたんだよ。付き合ってた男と一緒にな。」

顔を下に向けながら警部は話を続けた。


事故が起きる30分前、愛夏と郁馬は駅前の雑貨店で買い物をしていた。

「じゃあこれとこれだったらどっちがいい?」

布製とビニール製のポーチを両手に持って郁馬の顔を覗き込む愛夏。

「こっちのが愛夏っぽくね?」

ビニール製のポーチを指差して笑いながら郁馬がそう言った。

ブ―・・・ブ―・・・ブ―・・・

「携帯鳴ってない?」

「え?」

愛夏の鞄の中から聞こえた携帯のバイブ音に気付いた郁馬が声を出した。

鞄の中に手を入れ、携帯を探す愛夏。

「親だ。ごめん、ちょっと出てくるね。」

携帯を手に取った愛夏は着信の相手を確認すると、郁馬にそう言って店を出た。

「もしもし?」

店をでた愛夏は携帯の受話ボタンを押した。

『愛夏?今どこにいる?』

「駅の近くの雑貨屋だけど。」

母親からの電話に応えながら、愛夏は雑貨店の中にいる郁馬を目で追っていた。

『今駅の駐車場にいるんだけど、ちょっと出かけることになっちゃって夜まで帰れないから家の鍵取りに来てくれない?』

「えー、今郁馬といるんだけど・・・。」

母親の要求に不満そうな声を出す愛夏。

そんな愛夏が店内から見えたのか郁馬が外に出てきた。

『すぐだからいいでしょ。とにかくきてね!』

母親はそう言うと強引に電話を切ってしまった。

「もおー・・・。」

会話の終わった携帯を見つめて愛夏は口をとがらせる。

「どうした?」

愛夏の横に来た郁馬が状況を把握しようと電話の内容を聞こうとする。

愛夏は郁馬に母からの電話の内容を話した。

「てことだからちょっと行ってくる。郁馬店の中で待ってて。」

「付いてかなくていいの?」

「大丈夫!」

一緒に行こうかと聞いてくる郁馬を店に残して、愛夏は母親が待つ駐車場に向かった。


「けっこう時間かかっちゃったな・・・。」

自宅の鍵を母から受け取り、元いた店に戻る途中の横断歩道で愛夏は携帯を広げた。

携帯を閉じて横断歩道を渡りだした時、さっきまでいた雑貨店の周りに大量のパトカーが止まり、人だかりができているのが見えた。

愛夏は小走りで店の前まで行った。

「下がってください!危ないので下がって!」

警官が両手を広げて店の前にたまった野次馬を抑えつけていた。

「何かあったんですか?」

何が起きているのかわからず、愛夏は隣にいたカップルに説明を求める。

「なんか爆弾仕掛けられたんだって。中にまだ人いるみたいなんだけど・・・。」

彼女が店の中で起きていることを説明した。

言葉を聞いた瞬間、愛夏の頭に浮かんだのは郁馬の顔。

「郁馬・・・。どこ・・・」

愛夏はあたりを見回して郁馬の姿を探した。




「どうして中に入らないの!?郁馬が中にいるのに!」

「危ないから下がって!!」

ドンッ・・・・・


鈍い爆発音とともに見えたのは、さっきまで自分が彼氏と一緒にいた建物が火に包まれていく光景だった。


「またお前かぁ・・。いいかげんにしろよ?」

いつもの警察署で言われる言葉にもいい加減飽きてきた。

「いつ聞いても違う名前言うし、何度も何度もここに連れてこられるのも嫌だろ?」

「・・・・・」

うるさい・・・・

「・・・なんか言ってくんねぇかなー。」

疲れた様子で話しかける警察官に彼女は何を言うこともなく、黙って茶色の自分の髪を触っていた。

「いい加減にしろよ!」

イラつきが頂点に達した警察官は机を思い切り叩いてどなり散らす。

ガタッ・・・

その警察官を少しにらむと彼女は椅子から立ち上がり、鞄を乱暴に掴んで部屋から出て行こうとした。

「おい待てっ!・・・」

そう言って彼女の腕を捕まえた警察官。

その手をバッと振り払い彼女は一言こう言った。

「触んなよ、人殺し。」

その一言で部屋中の空気が重いものとなった。

がちゃ・・・

沈黙の中で個室のドアが開いた。

部屋にいた彼女と警官は扉に顔を向ける。

「・・・大沢警部。」

それまで顔をしかめていた警官は部屋の中に入ってきた人物に向かってそう声をかけると軽く礼をした。

「・・・あたし帰るから。」

彼女は冷たくそう言い放ちドアから出て行った。

「お、おい・・・」

「やめろ。」

再び彼女を引きとめようとした警官の言葉を警部が妨げた。


「・・・さっきの子お知り合いですか?」

警察署の仮眠室で警官と警部はコーヒーを飲んでいた。

「よく来るか?」

警部は缶コーヒーを机に置いてそう警官に尋ねた。

「そうですね、ここ1年はもうなんど来てるかわかんないぐらいですよ。」

疲れたように両腕を天井に向けて伸ばしながら、警官はそう答えた。

「あの子はな、1年前の爆発事で彼氏を亡くした子なんだ。」