ふわふわと散っていく桜を横目に、僕は新しくて古い一日を迎える。
この道も、何度通ったことだろうか。桜並木を突き抜けるそよ風が僕の長い前髪をひっくり返す。
今日は映画を見てきた。
少年が余命幾ばくもない少女と恋をする話。生きることについて考えさせてくるような内容だった。
僕はこういう映画や小説を読む時いつも思う。
僕は平凡であった。平凡である自分にはこういう感情が突き動かされるような波乱万丈の出来事もない平坦な人生。
人並みに夢を見て、人並みに恋をする。
そう思うたびに絶望するのだ。
物語の登場人物にはなれないという現実に打ちひしがれるのだ。
物語の普通が現実では普通でないことに大きな悲しみを抱くのだ。
物語の普通であったらここで君と出会えるはず。君に出会い、話をしてまた会う約束をする。それからー。
しかし、現実はそうじゃない。地面にはガムの吐き捨てた跡やカンが転がるし、桜並木の木漏れ日も大して綺麗ではない。まさにこれが現実なのだ。
桜並木を抜けるとこの先に廃ビルがある。僕はここの屋上に用がある。崩れそうな階段を、まるで遊園地に着いた子供のように登っていく。ところどころ崩れ落ちているが登るのに影響はなかった。
屋上の扉を開ける。拓けた世界は意外にも青一面で僕を受け入れてくれているようだった。
そうか、僕は空の色を忘れていた。
僕は少しにやけてしまった。
そして屋上の淵に立ち、叫ぶ。
「幸せだった。」
風の音に溶けていった。