ヒロインの輝き 8

 

 

「よし、揃ってるな」
 監督が主要メンバーとしての顔合わせとして、部屋の中の人物達を見回した。頭には入っていたメンバー達だが、写真にはないその個性を映した素の顔に、監督も小さく唸った。

 

「ふむふむ。しかし、なかなか個性も色々だな…。人気があるだけでなく、何処かしら俳優としても個性が面白い感じだな」
 監督としては、俳優メイン、司会に多用されるアイドル、そしてドラマのメインに使わないのが勿体ないと思える面々が、蓮の提案と声かけを中心に、これだけ集まるとは中々のモノだと思った。しかしその繋がりの多くは、京子というヒロイン中心での共演から集まったというのだから、今度のヒロインも大物だと監督はほくそ笑んだ。
「はい。ですが長谷部さん達のように…優しさや、人情味、その中での役者の個性とが、味を出してくれる部分は変えたくないと思い、俺なりに推薦させてもらいました。ただの…シリーズの若返りだけで持って行けると思うような輩だけでは選んでいません」

 

 蓮は真面目すぎるほどの目で監督を見た。
「本気でやっていける相手だけということか?」
 「はい」と頷く目は、このドラマを前のシリーズのように本気でやっていく目だった。
「俺と京子さんに…このシリーズを託して下さった先輩方のお気持ちを、軽んじるつもりはありません」
 監督も蓮の視線を受けて何度も頷いた。
「それは要の部分だな」
「はい。ただどうしてもメインの俺と京子さんの若返りがあれば、そこはお願い出来る方がいらっしゃれば、お目付役のように残って頂きたいと思いましたが、無理でしたでしょうか?」
 今日の集まりが若手ばかりという顔ぶれに、蓮なりの推薦が通っていないのかと監督を見つめた。
「ただのお古の役者と思われるとは思わなかったのか?」
「そう思われたなら、俺の目も濁っていたということになりますが、あのドラマのメンバーの方々なら、そんなことは無いでしょう。20年のチームワークは大きなモノだと思います。俺達には無い味や、多くのモノを知ってらっしゃる筈です…」

 

「わかった。今日は軽い顔合わせとオーディションの代わりだったが、なかなか脚本家も楽しめそうだな。数人旧シリーズのメンバーに声を掛けてある。今日はまだ考えているというメンバーもいたので、若手がメインになっただけだ」
「それではご一緒出来る方が?」
「返事待ちと言うとこだ」

 

 そして後日、旧メンバーとの顔合わせと共に、主役2人のカメラワークとして試験用にカメラを回してみると、監督がキョーコを見て固まり顔を赤らめていた。監督ともなれば落ち着いて役者の表情や動きを観察しながら、ドラマへの冷静な意見も求められる存在の筈が、ヒロインであるキョーコの下から目線に冷静さを失っていた。
 キョーコの下からの「ご免なさい」と肩をすくめる姿に、カメラ画面を覗いていた監督が顔を赤らめて言葉が出せなくなっていた。

 

「な、なんだあの…あの…///」
「可愛いのを通り越して…キュン死しますでしょう?」
 蓮の表現に、監督はコクコクと頷いていた。
「未だに俺もアレには勝てません。あの目でお願いされたら、イヤとは言えません。アレはもう武器です…」
「君も何度もお強請りされたのかね?」
「いえ、殆どありません」
「何故だね?」
「彼女は自分の為のお願いは殆どしません。人に頼ることは良しとしない性格ですので、偶には頼って欲しいところですが…」
 蓮の零れた言葉に、監督はクスッと笑った。

 

 百戦錬磨に見えた敦賀蓮が、顔を赤らめながら手で顔を半分覆い、惚気としか言えない言葉ではあるが、監督以下納得するしかない可愛すぎるキョーコに、恋人がいても心を持って行かれる者も続出する訳だと納得した。それでいて、なぎさとしての堂々とした犯人や警察との遣り取りには、眼力と声に張りもあり凛とした強さもある。

 

「このギャップはなかなか、昔の長谷部君といい勝負だな…」
 監督も長谷部清子がデビューし、このシリーズを始めた頃を懐かしく思い出していた。
「怖いのは、彼女も初めから計算して演じているのではないところですよ。役を飲み込んで成長する時もあれば、役に憑かれて自分を忘れる時もある。役の中でどんどん変わっていくから、彼女の変化にも心を奪われるんです。俺としては女優としての成長は嬉しいと同時に、困ったモノですがね」
 蓮が苦笑を浮かべると、その笑みに監督も納得した。
 蓮もキョーコと出会った頃、役を演じるなら相手も本気にさせると言った事はあるが、それがこんな形で返ってくるとは少々嬉しい誤算だと思った。
「恋人でなくても、役者相手を恋に落とすって訳だ」
 恋人として公表したばかりの2人なのに、それも蓮の方が大物とされている周りからの視線の筈が、蓮の方が振り回されているのは監督の目からしても微笑ましささえ感じてしまう。

 

「それと彼女の場合、自分で計算したストーリー展開だけでは出来るドラマではないかも知れませんから」
「ははは…。恋人であるだけでなく、長い時間見てきたから知る女優の成長は、誰にも予想出来んモノだろ。監督をする以上、そんな事は了解だ。女優京子の成長も共に撮っていくことも出来るドラマで、楽しみになりそうだ」
 監督もいずれ大女優となる京子の成長を、楽しみだと頷いた。
「そうなると、婚約会見をしようがライバルは減ったようで増えるのかも知れんな」
 監督がニヤリと笑みを浮かべると、蓮の一番の心配を突いてきた。芸能界で再会してからの日々は、キョーコの花をゆっくりと美しく開かせ、一番近くで磨き上げてきた。それは蓮にとって喜ばしい成長であるが、独占欲の影がキョーコを抱き締めて離したくないと我が儘を言う。
 女優という公人に近い場所にいて、フィアンセとしての場所を得てなお、キョーコの魅力は芸能人として艶やかに光らなくてはいけないのは分かっていても、自分だけのモノとして馬の骨に近寄らせたくは無い。男として自分のモノだと抱き締めて隠したいのは、彼女の活躍の芽を摘む事になり、伴侶として添い遂げる男にしては器が小さいと言われるだろう。自分まで小物になってはキョーコと共に役者をする資格など無いという事になる。

 

 自分が小物ならハリウッドが俺を呼ぶはずは無い。
 だがキョーコまで小物の女優の筈もない。切っ掛けはあれど、役者として演じる素晴らしさを知りながら自分を磨き続けて、ヒロインとしての主役まで捕まえる輝きだ。
 俺を追い掛けていた君はいつの間にか隣にいて、目を離せば飛んでいってしまいそうなほど自由に舞いながら人を惹き付ける。
「いつの間に追い越され、俺の方が君を逃がさないように必死なのを君は信じてくれないけど、君に代わりはないからホントに必死なんだよ。キョーコ…」

 

 

 

≪つづく≫

 

キョコベタ惚れの蓮様でした(^▽^;)

 

 

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