ヒロインの輝き 1

 

 

 なぎさと神田を中心とする事件もの、『赤い風車』新シリーズが動き始めた。
 キョーコと蓮のカップルへのバトンタッチ第1作として、長谷部達の作品を知っている者なら誰もが興味を持っていた。
 蓮としては恋人としての公表もして、早くも恋人であるからとキスなどキョーコで戯れたいと目論んでいた。

 

「蓮!」
 恋人だからと調子に乗っている蓮に叫ぶキョーコだが、その2人を廊下の窓から見る監督やプロデューサーが、納得の体でシリーズの基本となる主役2人を観察していた。
「なる程ね。君らなら恋人だって知られてる訳だし、その味をドラマにも多く入れてもいけるわけだ」
 その言葉を聞けば「まさか…」と不安を感じてしまうキョーコだ。
「脚本の筋立て案の中に出ていたんだよ。本物の恋人達だ。何処までホントで、何処までドラマなのかと思わせる見方もね」
 長谷部達の前作でも、ラストには2人は幸せな結婚した姿を演じていた。
 キョーコは上目使いで見つめてみた後、まさかプロデューサーまでもその方向に考えているのかと、最後に蓮まで視線を回した。
(……まさか…蓮が根回し? ありえる…)
 ニンマリとして歓ぶ監督に、蓮もニッコリと笑みを浮かべているのを見ると、その方向へと向かう可能性が高いと溜息を吐きながらキョーコは思った。
 実際に恋人なのだから、演技と言ってもキスをする抵抗は少なくはなる。役者としてはそんな事ばかりは言っていられないのは確かではあるが、キョーコにとって厄介なのは、恋人という役を利用してアピールをしたがる事が増えてきた、先輩という顔を被った似非紳士の蓮なのだ。それも場合によっては、時間ギリギリまで見せびらかすキスシーンというのは、敦賀蓮というお面を被ったオオカミ以外の何物でも無い。

 

「長谷部さんのなぎさの時も、腕を組んで歩く姿で仲の良さをアピールしていましたから、少し甘めなシーンもOKじゃないでしょうか。フィアンセですし、より恋人達をアピール出来ますので」
 監督もニマニマと、蓮の思惑に乗ってきた。
「敦賀くんはそれも売りにしたいのか? そうすれば余計な馬の骨を作れないとでも思ってるのか?」
 監督達はニヤニヤと、今まで感じていた敦賀蓮と違う恋人にぞっこん惚れ抜いている男が、思ったよりも使えそうだと楽しそうだ。
 蓮の言葉はニッコリと柔和なようでいて、監督達にも言えるべき事はドラマの中にも入れて欲しいというのが、今の敦賀蓮の新たな馬の骨は振り払う作戦のようだ。

 

「調度いいだろう。君達の出す雰囲気は、新しいこのシリーズの空気を上手く変える。見た目も君らのイメージも違うが、何より空気が違うんだよ。基本的な世界観は変えていないが、若返ったような新鮮さは敦賀君のモデルもする洗練さと、京子君の可愛らしい美しさと、しっかりしていて気丈な強さは、新しいなぎさにも若いからこその無謀に見えて筋が通っているからな。なかなか面白いなぎさになりそうだ」
「そう言って頂けると恐縮です」
 キョーコへの褒め言葉なのに、蓮の方が嬉しそうに反応していた。「君達2人の味と、長谷部くん達のストーリーの良さに、今回の新しいキャスティングは、また別の花を咲かせるだろうな。楽しみになってきたよ」

 

「しかし、面白いものだな…」
 監督の目が愛おしむように遠くを見つめていた。
「何がですか?」
 蓮が聞き返した。
「シリーズとして終わってしまうと思ったが、長谷部君は良いモノを見付けていってくれたな。…楽しみだよ」
 また…新たなシリーズとしてやっていけると、楽しそうに目元が笑う監督は、今回から代替わりとして助監督を長年勤めてきた人物が監督になってきた。今までを知っているだけに、ただの入れ替えを狙っている訳ではなかった。

 

「新監督。それでは私がこの世からいなくなったみたいじゃないですか?」
 ドアを少しだけ開け、長谷部が顔だけひょっこり入れてきた。
 まだ新シリーズとしての企画段階だが、長谷部が気になって様子見に来たようだ。長谷部の時には助監督という顔見知り故に、長谷部も気易さで現れたようだ。
「おっ!? 長谷部くんか。ビックリさせてくれるなよ…。それに、君はそんなに簡単にくたばる人間か?」
「それは長い付き合いの方なら、ご存じかと思いますが? それよりもどんな感じですか? キャストの方だけでも、少し拝見させて下さいませんか? 勿論少しだけ。私も一視聴者として拝見させて頂きますので」

 

 子供が手を離れて僅かに寂しいようなその成長が嬉しいような、そんな笑みで長谷部は言った。
「なかなか楽しいもんだな。新しいなぎさと神田だけではなくて、その他のキャストもなかなかいいぞ」
 監督の言葉に、目を細めて期待する長谷部がいた。
「新しくてステキに生まれ変われそうですか?」
 監督の楽しそうな声に、長谷部は裏切られない期待を持って訊いてみた。
「個性も色々だが、何より味のあるキャストが揃いそうだ」
「それは楽しそうですね」
「主役以外にも、彼らもドラマに様々な色を添えそうだ」
 長谷部が期待の笑みを静かに浮かべた。
 
 監督達のニヤニヤと嬉しそうな笑みは、新しいこのシリーズへの期待で止められないらしい。
「では、その様にそっち(脚本)に連絡しておくからな。敦賀君」
「はい。よろしくお願いします」

 

 蓮は嬉しそうだが、キョーコは蓮を下から睨み上げていた。
「蓮~~~」
 何やら企みの見える監督と恋人の会話に、少し困った可愛い恋人は上目遣いで睨んできた。
「恋人なんだから、いいよね?」
「……バカ! 恋人だからって限度があります! 必要以上に長いキスシーンとかは、イヤよ!///」
 以前にも監督の説明よりも長回しのキスシーンに、目を回しそうになった事があったのだ。
「でも、今度は恋人としてずっと仲良く撮影していけるね」
 蓮の言葉にキョーコは、このシリーズを引き継ぐ形で演じたドラマを思い出した。

 

 その撮影の時、最後には恋人になるけどって言った時のこと、蓮ったら、別の部屋にしたことをまだ根に持ってるわね…。もうなんか、似非紳士がまた罠を掛けてきた気がするわ…。
 普段の人当たりがいいから、何かまた似非紳士の顔にならない事を祈るしかないけど…無理かな…。はぁ~~。こんな風にモテる恋人への心配が絶えないなんて、私ぐらいよね…。

 

 

 

≪つづく≫

 

 

 

はいはい、一種の復活かな?

「主人公~ヒロイン~」を書き終えた後で、続きを書きたい様で少し悩んで置いておきましたが、多分癖のある兄ちゃんの登場で書きたさが倍増した気がします。そう言えば誰か、多分わかりますよねぇ( *´艸`) でも筋としては2つある形になったので、少々混乱をきたして時間がかかりました。

多分1日おきでのアップ予定となります。今月いっぱいで足が出るかな?宜しければお付き合いのほど、よろしくお願いします<(_ _)>

 

 

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