ドレスの前に約束を


 今日は待ちに待った蓮とキョーコの挙式と披露宴。
 神の祝福を受け、多くの人達に祝われて、花の精のようなキョーコは蓮と夫婦となった。
 真っ白なふわふわとしたレースの生地にスミレの花がアイオライトを思わせて、2人にとっては今までの思い出も込めたステキなウェディングドレス。

 

 結婚式には本当の身内と言える人を招いてのガーデンパーティーの筈が、少しだけキョーコから幸せのお裾分けが欲しくて紛れ込んだ女性がいたが、キョーコの機転で騒ぎにはならずにすんだ。
 そして近しい人達とも一度別れ、蓮とキョーコも披露宴へと用意をしたが……。

 


「敦賀蓮? それとも久遠・ヒズリ? どちらの名前で呼んだ方がいいかしら?」
「キョーコが呼びやすい方でもいいよ」
 キョーコが何か言いたそうな…それも遠回しであれば自分の耳に痛い事だとわかっている。

 

「名前には言霊が籠もるのよ。自分の名前は自分で選んで欲しいの」
「…言霊か…。正直言って悩むね」
「どうして? さっき貴方は久遠・ヒズリとして神の前で私の夫となることを誓ったでしょう? そして明日の記者会見ではもっとハッキリ説明する事で予定しているのに…。そこまで決まっていると言っていいのに、貴方にしては珍しいわね」
「う~ん、俺もそう思う。敦賀蓮であれば、暫く馴染んだ日本の芸名という説明も出来る。でも俺には久遠・ヒズリとして約束した人がいる。それでも敦賀蓮にならなければ君には出会えなかった。どちらも俺の名前で、大切な名前だ」
 そう答える蓮の思いは、キョーコから見ても迷っているのが本当だと感じた。

 

「そうね…。貴方にとって二つとも大切な名前。でも言霊が籠もる少しだけ…貴方自身の思いが強い名前は決めておいた方がいいと思うの」


「何故?」
 蓮は真っ直ぐにキョーコを見た。
「私には敦賀蓮という先輩の名前として知り合った。それは芸名で、隠す事では無いけど全てをミステリアスに隠す人になってしまった。芸能人に限らず、作家さんならペンネームというのもあるわ。自分でありながら別の名前で、作家としてはこの名が自分に相応しくなりたいと思うのかも知れない。隠したいだけかも知れない。ただ胸を張って名乗れない名前には、言霊も応えてくれないと思うの」
「胸を張って名乗れない名前?」

 

 キョーコは蓮の横のイスに座って、その顔を見上げながら優しく声を掛けた。

 

「敦賀蓮は確かに日本の芸名だけど、貴方がチャレンジしたいところは何処? 貴方が…多分心の一番底で、誓っている人は誰?」

 

 キョーコは静かで抑えた声で、蓮の心に話しかけるように聞いた。
 キョーコにも話した日本へ来た日々の中で、忘れる事の出来ない友人と場所。

 

「敦賀蓮は、久遠・ヒズリとして私の夫となることを誓ってくれた。そして、久遠・ヒズリの目的地は、ハリウッドでリックと語った本物の役者として成功する事。私にとってもどちらも大切な名前だから、日本でのお仕事は敦賀蓮という芸名を、そして海外では久遠・ヒズリとしてハリウッドを目指してもいいかもしれないと思ったの。ご両親からもらった久遠の名も、永遠だもの。ハリウッドでの名に相応しいわ。ねぇ…貴方にはどちらの名が誇らしい?」

 

 キョーコの言葉に蓮は目を閉じて、心に問い掛けた。
「俺には…どちらも誇れる名だ。敦賀蓮として過ごした時間は、役者としての時間をくれた。そして君と出会うことが出来た。久遠は俺がこれから挑戦し続ける場所で、だからリックを目指す場所でもある」
 キョーコは蓮の…久遠の言葉を聞きながら、思った通りだと頷いた。
「それなら…目指す場所への名が、久遠・ヒズリこそが本当の名前。私も久遠を追い掛けるからキョーコ・ヒズリね」
「……キョーコはいいの?」
「何が? 久遠と暮らしていけるなら、貴方の妻でいられるのなら、場所も名前も関係ないわ。貴方の一番のファンだもの。ハリウッドの貴方を見ることが私の夢よ」
「時々離れて暮らすことになっても?」


 久遠はキョーコの目を真っ直ぐに見て訊ねた。
 お互いが仕事を持ち忙しい意味である事は承知でも、久遠の目標であるハリウッドに行けば半年は軽く会えない生活にもなる。
「それは仕方が無いわ。だから私も貴方を追い掛けるから…」

 

 キョーコは当たり前のように久遠に答えた。役者としていつまでも素晴らしい先輩として、キョーコは久遠を追い掛けるのを止めるつもりはないとハッキリ答えた。
 すると久遠は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「君に抜かれないように頑張るよ」
「私の旦那様は、そんなに情けない人だったかしら?」
「君には敵わない気がするからだよ」
 小さく笑いながらも、久遠の目は強く光っていた。
「もう!」
「だから約束する。ハリウッドは成功させる。そして君との永久の時間も大切にする。君と離れて暮らす人生なんて、そんなつまらない人生は無いからね」

 

「でもそれは……」
 久遠の言葉がキョーコとの生活をハリウッドで終わらせるつもりは無いと言葉にしていた。
「やるべき夢を果たした時に答えが出ると思う。あれもこれもと欲張りに生きても、キョーコを幸せに出来なかったら、それも俺の悔いになる」
 久遠の中で…大切なものは幾つもあるが、キョーコと共に生きる幸せも必要不可欠な大切な約束だ。先程交わした神の御前での誓いは一生の誓いであると、キョーコを娶る男として破るつもりはないことを、強い意志でキョーコを見つめた。

 

「…ホントに…欲張りね」
「欲張りに幸せになろう、キョーコ」
 唇が重なり深く長い口付けを交わす2人だが、自らの幸せを望まずに生きてきたはずが、最良の伴侶を得て最高の幸せを掴もうとしている。
 唇が離れると…溜息のような甘いと息がキョーコから漏れた。
「感じちゃった?」
「ち、違います! 久遠のキスはいつも甘いから……困るの///」


 キョーコが頬を赤らめれば、その心はいつまでも乙女のままで久遠には愛しくて堪らない。
 キョーコはキスで滲んでしまったルージュを、少し恨めしそうに直しながら久遠を睨むが、いつものように「煽ってる?」と言って返して効果はない。キョーコは仕方なく溜息を吐いた。

 

「もう…。折角綺麗に仕上げてもらったのに…」
「キョーコは充分綺麗だから大丈夫。ルージュも綺麗にのってる」
「その綺麗なルージュを乱したのは誰ですか?」
「君の夫である久遠・ヒズリだよ。君の魅惑に負けただけさ。そしてまだこれからだよ。俺達の幸せは」
「…はい……幸せになりましょう」

 

 蓮の差し出した左肘にキョーコはそっと手を掛けた。
「これからの幸せに向かって進もう。その姿を皆さんに見てもらおうね、キョーコ」
「はい。仰せの通りに。ステキな旦那様、久遠」

 

 

 


♡FIN♡

 

 


ドレスモノ、ラストです。ドレス意味あるのかな?(^▽^;)
なんか3部作という程ではないのですが、3連のお話がよく沸いてくる今日この頃? 気が付いたらキョコ誕と言う事で、ちょっぴり結婚式と、ラストは披露宴へ向かう2人で終わらせて頂きました。
今までに書いた2人の結婚式ネタもちょろりと混ぜてます。(某様の処のやら色々)

甘いとは言えない感じですが、2人が心から手を取り合い、前に進む感じもいいかな?…と。

蓮キョのハッピーウェディング&キョコ誕。おめでとう!クラッカー

 

 

 

 

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