スキビ&CH   

       【プライベート・アイ】 16完

 

 

 


 そしてキョーコにも見慣れた蓮のマンションのリビングで、蓮が自分で用意したコーヒーを前に話し出した。
「まず一つ聞きたいのは、『キョーコちゃん』というのはどこで聞いたの? 俺は君の前で言ったことはないはずだが?」
 普段はマネージャーである社は呼んでいたが、蓮は最上さんとしか呼んでいない。
「……私が代マネをした時、意識が戻られた高熱の敦賀さんが寝ぼけた感じでおっしゃったんです」
「ああ……。そういえば懐かしい夢を見た気がするな」
 キョーコの言葉に納得をすると少しだけ目を閉じた蓮は、キョーコを真っ直ぐに見て話し出した。

 

 『キョーコちゃん』は、目の前にいるキョーコ自身であること。まだ子供だった頃の夏の日に京都の河原で遊んだ数日の思い出。それは自分が妖精を演じたコーンであったこと。

 

「コーン? 敦賀さんが!?」
「ずっと黙っていて、ごめんね。色々と理由があって話せなかった」
「コーン……」

 

 混乱して信じられないキョーコに、蓮は片方のカラーコンタクトを外して見せた。

 

「この目ならわかるかな?」
「あ! コーンの目…」

 

 日本人にはない綺麗なブルーの目に、蓮がコーンであると同時に蓮が目の前の姿が本物ではないとわかった。

 

「そう。髪も金髪が本当だから、これは染めた色だ。君が知っているコーンが本当の姿。でも俺は目的があってこの姿になって、敦賀蓮として日本の芸能界でのトップを目指している」
「何故? あ、コーンは飛べなくて苦しんでいたって……」
「そう…。俺の本当の名前は、コーンではなくて、クオン。クオン・ヒズリ。父さんはクー・ヒズリ。君の父さんでもあるよね」
「えっ…。あ…大きすぎる掌は……」

 

 キョーコにも父親がクーであるならその意味は飲み込めた。偉大な父、二代目ともなればどう頑張っても比べられる。それも容姿がコーンの姿から考えれば、お母さんもモデルで美しいとされる人ならば、全てを親から受け継いだものと言われてしまう。クオン自身の本当の姿でありながら、否定されてしまう……。
 そして蓮は子供の時に『キョーコちゃん』に会って以来心の中で輝く思い出でいたこと、再会して演技をしながら自分を作る努力をする姿に、あの子供の頃の努力を惜しまない、でも泣き虫なキョーコちゃんを思い出しながら見つめているうちに好きになったのだと伝えた。

 

「私…を……?」
「君が居ていてくれたから、俺は敦賀蓮として上を目指し、いつか母国に返り咲く夢を無くさずにすんだんだ。DMの嘉月の恋心も、B・Jを演じた時、俺は闇に何度も足下をすくわれた。心を闇に引きずり込まれた。だが誰よりも大切だと思った君の声だけは、俺を闇から救ってくれた。誰よりも本当の『御守り』だった」
「どうして私が?」
「俺が日本に来るきっかけになった時、俺は殆ど闇に捕らわれていた。暴力を振るい、大切な友人を失い、光のない闇の中で動くことなど出来なかった。その闇にまた戻ってしまったのに、君だけが俺を救ってくれた」
 蓮は自分の中に渦巻いた闇と血の色を思い出した。そこにキョーコがくれた光だけが救いになった。

 

「でも、あの時は社長さんがセツカとして……」
「そうだね。でも社長の感は普通じゃないだろ? 俺はその社長の感に助けられた。君という御守りが、俺を救ってくれた。闇ばかりだった俺の中に、君は光をくれる存在なんだ」

 

 蓮の、クオンの子供の頃からの話を聞きながら、キョーコはどう言葉にしていいかわからなくなっていた。
 コーンは、クオンはどれほどの苦労をして、闇の中で苦しんで、また日本という異国の地で今の地位を築き上げ、目の前で尊敬する、そして大切な人になったのだろう…。
 名前が変わっても、今までの苦労や闇があっても、蓮を見る目に変わりはない。
 それよりも闇の中で苦しんだ姿が、自分を見つめる自信のないような弱々しい目に映って見えた。

 

「敦賀さんの名前が、コーンでも、クオンでも、姿形が違っても、尊敬する敦賀さんです! 私の…私の好きな、敦賀蓮です! たった一人の大切な人です!」
「俺の暴力や闇は、軽蔑したりしないの?」
「コーンがむやみに暴力を使う人じゃないって、子供の時のほんの数日のことだったけど知ってます。そうならざる終えないほどに、追い込まれたんじゃないですか? それならただの暴力とは違います! 敦賀さんが間違う道に逸れたなら、無理矢理曲げられた道です! 敦賀さんだけが悪い訳じゃありません! だから、そんなに自分を責めるような顔をしないでください…」

 

 言いながらキョーコは蓮の頬にそっと手を伸ばし、涙で濡れた顔のまま、蓮の腕の中に倒れるように包み込まれた。
「君は……許してくれるの?」
「後悔している人を、それ以上責めるなと言ったのは、貴方ですよ」
「えっ? …それを言ったのは…」
「私…坊です。鶏の…」
「君が?」
「敦賀さんは、黙っていた私も責めますか?」
「いや、そんなことはないよ。驚いたし、恥ずかしいけどね」

 蓮の笑みが恥ずかしそうに歪んだ。
「恥ずかしい…ですか?」
「俺は本人に恋の悩みを相談していたことになるんだよ…」

 

 蓮が恥ずかしそうに苦笑すると、キョーコはそれに気付いた。
「あ……あれって…」
「君のこと」
 今度はキョーコの方が恥ずかしくなり下を向いてしまった。
「君を好きだ。直ぐにオープンには出来ないけど、君も同じ気持ちでいてくれるなら、付き合って欲しい」
「私で…いいんですか?」
「俺は最上キョーコと付き合いたい。出来るならずっと君と居たい。でも記者会見の時の事を考えても、君の芸歴の短さだけで本当の実力を見てくれない人もいる。だからもう少しだけ秘密にして、俺の大切な女性として誰もが認めてくれる時間まで、公表するのを待って欲しいんだ。君を守るためにね。君との時間は忙しくてすれ違う日があっても、君と気持ちを重ねたい」
 そう言うと、蓮はキョーコの頤を持ち上げ二人の唇が重なった。
 そこへ蓮の携帯がコートの中を振動して持ち主を呼びだした。
「社さんかな。もう少ししてからにして欲しかったけど」
 文句を言いながらも蓮の笑みは優しく、キョーコを見ながら携帯を耳元に当てた。

 

『蓮。そろそろ事務所に迎えに来てくれないか。あと、そちらは上手くいったか?』
 顔を見れば、多分ニヤニヤと楽しんでいる顔をしていそうな社に、「プライバシーに関してまで報告の義務はありますか?」と嬉しさと恥ずかしさで素っ気なく答え、直ぐに迎えに行くと言った。
「最上さんも送るよ。事務所に行って確認してから、次の仕事に行くんだろ?」
「よくご存じですね」
「優秀なマネージャーのお陰でね」

 

 クスクスと笑うキョーコは、「そうですね」とだけ言った。
「ところで俺は返事を貰えていないけれど、付き合ってもらえるのかな?」
「す…好きでもない人と、キスなんかしません!」
「そうだね。歩く純情さんだからね」
 蓮の言葉にキョーコは少しだけふくれて、前にそう言われた時のことを思い出した。
「『なにもしない』って敦賀さん言ってましたけど、今…しましたよね?」
 キョーコが少し意地悪く聞いてみた。少しだけ笑顔のいたずら坊主の顔だ。
「君の気持ちを無視したことはしないよ。君が好きだから、君が泣くようなことはしない」
「…そう言う意味ですか?」
「君が大切だからね。また何かあったら、君の為に馳せ参じるよ。そして君を守ってみせる」
「でも無茶はしないでください」
「冴羽さんと香さんにまたお願いするかい?」
「それもいいですね……」

 

 

 

 

          エンディング       -

 

 


 スタジオを後にしたリョウと香は、約3ヶ月に及ぶ仕事でいつもとは違う世界を垣間見た。気の張る仕事ではあったが、一組の幸せなカップルが生まれたのだと実感していた。
 芸能界という立場上、特に蓮の人気は天井なしだ。モデルに俳優と、TV画面で見ないことはない超売れっ子だ。京子も芸歴を訊いて驚いたがその活躍は年齢ではない。
 だが人気があれば嫉妬の目も凄まじい。蓮は既に実力の評価も高い。京子に向けられる新人の範疇から抜けられぬ視線は、二人のバランスをどうとるか、それによって暫くは静かに付き合うのだろう。

 

 蓮という男を、実際の年齢よりも大人であると二人も感じていた。
「それにしても蓮の奴が、俺よりも京子ちゃんのプライベート・アイとして、活躍したことになるな…」
 飛び出した男を捕まえたのはリョウではあるが、その前にキョーコの前に飛び出し、一歩も引かずに京子を男から守っていた。
 リョウの呟きに香が答えた。
「それは仕方がないでしょう? 京子さんにとって、たった一人のプライベート・アイだもの…」
「全てを任せられる、たった一人の人って奴か?」
「あたしとあんたでシティーハンターなのと一緒よ。いつか成るようにして、いつも気持ちは一緒の二人になるわ」
「その時は祝いにでも行くか?」
「一番は結婚式にウェディングドレスの姿の京子さんが見てみたいわね」
「彼女はまだ17歳だぞ? 早すぎないか?」
「ふふふ…。今年の彼女の誕生日で、18歳になるからもう少しよ!」
「何だと! お前、今まで黙ってたのか!?」
「お仕事の支障になることは、特に依頼人に迷惑をかけることは守秘義務として言わないわ!」

 

 18歳ともなればリョウが「もっこりちゃん」と叫びながら京子を追い回すのは目に見えているからこそ、香は京子の今の年齢が17歳であることを強調してリョウをかわしたのだ。

 

 

 

 

 


  …そして………
  …………誰にでもいる、自分だけの『プライベート・アイ』。

 

 

 

  たった一人の守り人。お互いがお互いの『御守り』……。

 

 

 

 


     【FIN】

 

 

 

 

 

1か月の連載、終わりもうした。

少し日にちも経っているので、大きく書き換えてませんが気になったところを少し直しましたが、やったらアウトですね。あちこち気になる。

キョコの性格がちょっとソフトすぎるかなあとか、切りがないところはそのままにしましたが、リョウの出番はある意味『ハーレム』だけかも(^▽^;) でもリョウならいいそうだと思いません?

 

それと、今回タイミングが劇場アニメとダブったお蔭で、アメバの再放送見ていたらしみじみ感じてしまったことは、声優さん、特にリョウの神谷さんが「リョウは神谷さんしかいないわい!」と叫ばしていただきました。( *´艸`)

シリアスあり、本気で怒ってるのあり、シリアスぶりつつ頭の中では「ナンパ」の時の声、叫んでるのでメインナンパが目立つんですけど、同一人物とは思えないわい!!(^▽^;) それなのに、ケンシロウ、キン肉マン、さかのぼれば、響きあきら(ライディーン)、バビル2世ありの、(何処まで知ってます?(^▽^;))

神谷さん、凄すぎ!(^▽^;)

 

まあこの話のアップを始めたらマイクロチップくん行方不明事件。ほぼ何処かにデーター残ってんですけどね、移動も予備があるけどやっぱショックでありました。(まだ行方不明です)あと、なんで劇場アニメとタイミング&タイトルがダブったの? 幾分の不思議感を残しつつ連載終了いたします。

お付き合いいただいたみなさん、ありがとうございました。

 

                           山崎由布子 拝

 

 

 

 

web拍手 by FC2