とうとうあの人達もご登場なり (^_-)-☆

 

 

 スキビ&CH   

       【プライベート・アイ】 5

 

 

 

 


 食事が終わると、執事はキョーコと蓮を撮影スタジオに送り、「終わる頃に迎えに参りますので」と告げていつもと変わらぬ様子で去っていった。
 ローリィの執事はそのまま車を走らせるが屋敷には戻らず、新宿駅近くの駐車場に車を止めた。
 そして主であるローリィの指示通り伝言板を探すと、ある人物を待つべく伝言板に言葉を書き、最後に携帯の番号を書いた。そしてそのまま伝言板の横で立ち、その待ち人が現れることを静かに待った。
 だが褐色の整った顔立ちの執事はその横を通り過ぎる人の目を集めた。しかしそんなことは主との行動で慣れてしまったのか、集まる視線も全て受け流して待つことだけに専念した。
 暫くの時間が過ぎると、長身のスレンダーな女性が伝言板を覗き込んだ。

 

「やったー! 依頼よ。2ヶ月振りかな? 字の感じから男の人かな? 今度こそ選り好みさせないで仕事をさせなくっちゃ! えっと、電話番号は090ー****ー****」
 女性はメモを取りながら確認し、早速携帯でかけてみた。
 すると直ぐ横で鳴り始める携帯の呼び出し音に、女性は目をやった。
 今は携帯は生活の中で当たり前の一部になっている。たまたま同じタイミングで鳴ったと思った横に立つ青年の携帯同様、呼び出している間は鳴り続ける音に女性は音がする方を振り返ったまま見ていた。
 伝言板を見て「依頼」と言った女性は、その横に立つ異国の顔立ちの男を見つめた。そして女性の反応にその青年の視線も女性を見ていた。

 

 新宿という街は多種多様な年齢人種の坩堝だ。
 場所が変われば種類も様々な人々が溢れている。
 言い方は悪いが上品な種類の人間は多くない。
 上品に見えて、その下には何を隠しているか分からない人種もいる。
 そして、人のいい情報屋もいれば、上品とは言いがたくても義理の厚いホステスもいる。
 そんな新宿には似つかわしくない品のいい異国の青年は、この街には浮いて見えた。
 女性は一度携帯を切ってみた。同時に青年の携帯の音が止まった。
 もう一度かけ直すと同時に鳴り出す呼び出しの音…。
 女性は気のせいではないことを確認すると、携帯を切った。

 

「あなたが…依頼人? わざわざ待っていたの?」
「依頼人は私の主です」
「主? あなたは雇用人?」
「はい。執事をしております」
「執事?」
「急ぎの依頼故にお待ちしておりました。出来れば少しご説明させていただいた後、お二人をそのまま主の元へお連れしたいのですが、いかがでしょうか?」

 

 この仕事柄、相手側もこちらを調べて依頼してくることも多い。

 

『XYZ』
 後がない。
 あるいは秘密理に依頼をしたい相手の依頼は、場合によっては裏に通じることもある。
 だが目の前の執事だという青年からは、薄暗い裏の匂いは感じられない。
「……断れない依頼?」
「いえ、その様なことはありませんが、出来ればお力をお貸しいただければと……」
 香は少し迷いながらも、主の命令であるとはいえ真っ直ぐに依頼をする目が、断る理由をなくしていた。
「あなた…伝言板に書いた文字の意味を知っているの?」
「いえ。あの文字が依頼の為の暗号だとしか…」
「『XYZ』。アルファベットの最後の文字。…つまり後がない。他に依頼する相手が居なくて、あたし達に頼ってくる人の言葉よ」
「なるほど、納得いたしました」
「それで、あなたの姿からすると静かに内緒で話せる場所がいるようね」

 

 青年の姿に加え、香も一緒にいることで人の流れが割れて注目を集めていた。
「ご推察通りでございます。人に訊かれますと騒ぎにもなりますので。詳しくはお二人が揃われた形でご説明させていただきたいのですが…」
 仕事を依頼する相手がコンビだと知っている。
「その前に一つだけ質問。もしかして、芸能界関係?」
「はい。私の主はその業界の者です」
 香の目が自分を通して主を見ていることに、僅かに驚きながらも素直に答えた。
「少しはあいつ動かし易くなるかな…」
「もうお一方の男性ですか?」
 執事がそう答えると、女性は掲示板の文字を消し歩き出した。
「そう。歩きながら少し説明してくれる? そう言う業界なら名前とかはいらないから、簡単に…。それにしても……あなたの主人は、あなたが思ったよりも目立つことを考えない人ね」
「主の方がいつも華やかな衣装を身に纏っておりますので、私の存在はそれ程目立つものではありませんが…」
「……その顔立ちに、その衣装で、目立たない訳ないわ」
 そう言いながらも芸能界関係の人間ならば、一般人とは感覚の基準が違ってもおかしくない。
 友人でありデザイナーの絵梨子でも、既に香の基準からすれば、人目を考えずに派手だと思えることがある。
「まあ、立場が変われば色々変わるものね。それで、仕事の内容は?」
「ボディーガードをお願いしたいのです」
「それは一人? それとも複数?」
「お二人です。騒ぎにならないように、出来るだけ表沙汰にならないようにという事が、主であり、守っていただきたいお二人の為への希望です」
「表沙汰にしたくないって事は、注目度の高い人ね?」
「はい。後は車の中でのご説明でよろしいでしょうか?」
「近くの駐車場?」
「はい」
「その方がいいわね」
 テンポ良く短い言葉で、周りを歩く人間には聞こえないように二人は進んだ。
 香は執事の言葉を信じて駅を出ると、車の止まっている駐車場に向かった。執事と名乗る青年の真っ直ぐな目が、香をこの仕事を受ける為にと足を向かわせた。

 


* * * * *

 


 蓮とキョーコが今日のスタジオでの撮影を終わらせると、ローリィの執事はその言葉通りに迎えに来ていた。
 今日の撮影は緒方監督も人の出入りを厳重にさせ、特に蓮とキョーコの周りには気を配ってスタッフか社を必ず付き添わせた。
 蓮としては、社だけならまだしも仕事の合間にも誰かが周りにいることは逆に気疲れしそうだった。これがキョーコとだけなら気を使うことなくゆっくり出来るところを、邪魔された気持ちだ。
 だがそれも皆、自分とキョーコを心配しての事となればおなざりにも出来ない。

 蓮はキョーコと二人、ローリィの執事の車に乗るとほっとした。
 自分のことよりも、キョーコのこともある。
「社長はボディーガードを見つけられたんですか?」
 蓮が運転中の執事に訊いた。
「主の屋敷にお連れしております」
「あの……どんな方ですか?」
 キョーコが興味と言うより、恐々といった感じで訊いた。
「男性と女性でコンビを組んでいらっしゃる方です」
「男女のコンビ? 探偵事務所からの派遣ではなく?」
「はい。勘も鋭い方々ですが、少し変わった方にも見えます」

 

 執事の説明に、蓮もキョーコも顔を見合わせた。
 社長の行動と執事の観察眼。
 年若い執事だが、社長の側近として仕事をこなすという意味は、社長が役に立つと認めたからだということは分かっている。
 どんな男女のコンビか分からないが、あの社長が仕事の出来ない人間に大切な役者のボディーガードを任せる訳はない。
 蓮もキョーコもそれだけは確信を持って言えることだ。

 


 蓮とキョーコが屋敷に着くと、リビングから笑い声が聞こえてきた。
 朝の空気を考えると明るい笑い声に、蓮とキョーコも何かほっとする気がした。
「香お姉さまなら、モデルでも女優さんでもできますわ」
「女優さんなんて無理よ!」
 マリアの楽しそうな声に、キョーコも蓮も不思議に思った。
 あのマリアが「お姉さま」と呼び、そこまで賞賛する女性とはどんな女性だろう? それに、今リビングにいるとすればボディーガードのはずだが、今日会ったばかりの女性にマリアが懐くことなど珍しい。
「それに、お願いだからお姉さまって言うのは止めない?」
「どうして? 香お姉さまならぴったりじゃないですの?」
「ぴったりって…何というか、嬉しいけどムズガユいって言うか恥ずかしいというか…」
「まあ、お前のタイプじゃねえわな」
「冴羽さん、何をおっしゃるんです! 香お姉さまは素敵ですわ。それにお料理も上手で、モデルもされたことがあるそうじゃないですか!」
「それは親友のご推薦でだ。競争力の大きな世界ほど、海千山千…敵は多い」
「リョウ…。マリアちゃんに難しいこといっても…」
「いや、この子は大人の世界も年齢以上に知ってる。可愛いカッコ以上に難しいお嬢さんだよ」
 リビングのドアを挟んで訊いた会話だけで、二人がタイプは違うが『何か』を持っていると思った。
 ドアを開けて蓮とキョーコが入っていくと、歓迎のマリアの声が響いた。
「蓮様! お姉さま! お帰りなさい!」

 

 

 

≪つづく≫

 

 

書きまして時間が経ってますので、スマホはまだという事で。

あと、伝言板は時代に合わせて変わって形が変わっているそうですが、映画は見ておりませんので知らないんです(;´Д`)

(もともと伝言板は原作と違った位置にしかありませんでしたし)

 

 

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