【リク罠208】「酔わない女(仮)」

 

 

魔人様<リク罠>より~酔った勢いで関係を持った蓮とキョーコ。それ以来蓮からはお酒を理由に誘いながら…さて二人は?

 

 

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 敦賀さんが心をくれないなら、私が倍にして、もっと倍にして敦賀さんにあげる。

 

『好き。大好き。愛してるの…。心まで欲しいなんて言わないから、もっと敦賀さんを下さい。少しでもいいの。でも、でも…ずっと近くに居たいの…』

 

 そんな言葉を、直ぐ横で眠っている敦賀さんに言いたかった。
 でも聞こえたら…それでこの関係が終わってしまったらと思うと…怖くて心の中でだけ叫んでいた。

 

 

 

甘えたい女~もうひとつのお祝い 11

 

 

 

 

 もし聞こえたら、「このままの…都合のいい関係じゃダメなの?」そんなことを言われそうで…怖い。
 だって敦賀さんからは、声が聞こえない。私だけが叫んでるみたいな関係だもの……。

 

 名前は呼んでくれても…、好きって言ってくれない。
 愛してるなんて……もっと言ってくれる筈が……ない…。

 何故…名前だけは呼んでくれるの?
 都合がいい後輩なだけだから?

 

 怖くて…怖くて……声になんか言葉になんか出来ない…。

 

『私は…貴方にとってなんなんですか?
 私が愛しても、貴方には愛してなんかもらえない存在なんですか?
 ただの後輩なの…?
 肌を重ねるだけの…躰だけ……なんですか?』

 


 あ……あ、あれ?
 ……あぁ~~あ。…ほら、ほら…ほ…ら……。
 もっとバカな女になっちゃったじゃないですか……。
 バカでバカでどうしようもない女だったのが、大バカになっちゃったじゃないですか!

 

 

 都合のいい女で良いって、思ってた筈なのに。
 少しでも近くにいられたら、誰に知られることもなくても、2人だけの小さな約束のお酒で始まって、気持ちじゃなくて唇を重ねて始まる…男と女の関係で、それだけでも一応女として…女として躰を求められて、躰を重ねられるだけで…敦賀さんにとって後輩じゃない1人の女。
 ……敦賀さんに恋するバカな女に…大バカな女が調子付いちゃうぐらいに……何で優しいんですか?

 

 都合のいい女なら、適当に抱いて勝手に眠ってしまえばいいのに、眠る前には「おやすみ」ってキスして抱き締められたら……、優しい目で「おはよう」って言って瞼にキスされたら、勘違いしかしないでしょう?

 

 ……都合のいい女に、バカな女に、もう優しくしないで下さい。
 これ以上、優しさで…勘違いさせないで下さい……。
 優しすぎる敦賀さんは……もう…苦しいです……。

 

 

 

* * * * * * * * 

 

 

 

 そんな私の不安だけが膨れあがっていたある日に、久しぶりに会ったモー子さん。

 

「……アンタ…なに泣いてるのよ」

 

 互いに忙しくなった奏江に会った途端、キョーコは開口一番言われてしまった。
 でも目は寂しそうで、キョーコを心配している顔だ。

 

「えっ、うそ! 泣いてなんかいないわよ!」
 キョーコは知らず知らず泣いているかと慌てて頬に手をやるが、頬は濡れてなどいなかった。
「モー子さん、泣いてないじゃない。嘘つき!」
 少し拗ねたようにキョーコは言うが、キョーコは奏江の視線から逃げるように横を向いてしまう。

 

 蓮のことでの心の揺れが、顔に出ていたのかと顔を逸らした。毎日のように揺れ動いてしまう不安定な心まで見られたくなかった。

 

「確認しないと自信ないぐらい、気持ちは泣いてるって事よ。女優の目を侮らないでよね」

 

 いつものように少しだけ突き放すようで、でもその言葉は何処か優しかった。

 

「気持ちが…泣いてるの…?」
 奏江に問い掛けるように言った途端、キョーコの頬に涙が落ちてきた。

 

「本物が…何か言いたくて流れてきたみたいね」
 キョーコの心を代弁するように、頬を伝う涙の意味を尋ねるように奏江の声は優しかった。

 

「だって、だって……甘えたいのに、甘えられない。甘えてるのに…素通りしちゃう。触れているのに……温かくなれない……」
 キョーコの心に感じる蓮への思いが、空を掴むように腕の中に何も残らなくて虚しくて堪らない。

 

「そんなの…お互いに向き合わなかったら、本当のその人が分からなくて、寂しいだけよ。虚しいだけ…」
「…本当のその人? …寂しいの…? 虚しいの?」
 私の手は精一杯伸ばしているのに、敦賀さんの陰さえ掴めないから…手には何も残っていないから虚しいの?

 

「アンタは気持ちから全部一緒じゃないと…ダメでしょう? どれかだけなんて…器用な事は出来ないタイプでしょう?」

 

 どれか…だけ?
 躰だけ、言葉だけ、でも心も…本当の…敦賀さんの心は?

 

 私の全てをあげると言ったら、敦賀さんは…貴方の心もくれますか? ダメですか…? 私は貴方だけしか欲しくないんです!

 

「…ふふふ……、そうなんだ…。あぁ~あ、どうしよう。凄く我が儘なモノが、高望みし過ぎるぐらいのモノが欲しい。手が…届かないのに…、届くはず無いのに……」


「ふん。…そんなもの…ホントに欲しいモノなんて、簡単に手が届かないから、背伸びしても足掻いても、欲しいと思うんじゃないの?」


「…あぁ…そうか、そうなんだ……。ふふふ……手が届かないから、足掻いてでも余計に欲しくなるんだ……」

 

 

 遠くて遠くて…手の届かない人なのに、いつも優しくしてくれる人だから、少しだけ一番近い処に居たから…手が届いてしまったから、余計に未練たらたらで……手を伸ばしたくなるんだ。


 キョーコは空を見上げて寂しげな笑顔を浮かべて、空に向かって手を伸ばした。…届くはずのない空の星に……。

 


「尤も…届いていても見えていない人もいるみたいだけどね…」

 

 奏江は隣にいるキョーコをそっと見た。
 アンタ達…お互いに気付いてないのね…。それに…アッチも…?

 

 …ホントにバカね……。
 役者なのに、お互いの何処を見てるのよ! ……バカ…。

 

 

 

《つづく》

 

 

たった一つの大切なものだから、

見えているようで見えてなくて…。

 

 

 

 

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