【リク罠】危険な番宣~「夏のトビラ」~10話
 

 

 同じ局のドラマであれば、それに後半に絡むシーンを撮るとなれば、蓮も【夏のトビラ】の撮影スタッフにもキョーコの撮影スケジュールを聞き易くなり、蓮はキョーコを待ち伏せてみた。
 少しだけ解放した自分の心を、何処までキョーコに手を伸ばしていいのか、キョーコの中に自分がどれ程の場所を占めているのかを確認しようと思った。

 

 社に言われた…『先輩後輩』の距離を、いきなりゼロにするつもりはなかったが、キョーコを抱き上げて運んだ時…いつも元気な彼女がこんなにも華奢で、柔らかくて、大切な存在だとより強く感じた。
 まだこれから成長するキョーコを独り占め出来るとは思っていないが、三上監督も京子の役者としての存在を評価していた。
 彼女はまた新しいベールを身に纏い、新しい色を重ねて、少女から女性へと美しさも妖しい色香も増すだろう。監督という立場の特別なレンズを持つ人達の目は、僅かに醸し出される空気の色までが見えるようで、彼女から少しだけ見えた光も逃さずに見付けているようだ。
 それ故に、俺が彼女を救護室へ運んだ時にも何か感じたのは確かで、事務所の先輩後輩以上の気配を最上さんからも感じたのなら…もう少しだけ近付ける筈だと俺は感じた。

 

 ずっと線を引いた様に先輩の枠から出ないでいたが、もしかして…手を伸ばしてもその手を振り払われる事はないのでは無いか?
 後輩ではない最上さんを、恋人として抱き締められるのか?

 

 成長する君の輝きに、もう見ているだけではいられなくなった。
 君に纏わり付く馬の骨に嫉妬するのも堪らない程だ。
 もし振り払われる事なく心も身体も抱き締められたなら、君の『夏のトビラ』を俺が開けるよ……。
 俺だけが開けられるトビラへの君を、逃がさないからね。

 


 そして…キョーコの予定を聞いて、蓮が偶然を装って姿を見せれば、キョーコは蓮に挨拶もなしに逃げるはずがない。先輩に対してはいつも律儀に挨拶をしてくる。
 にこやかでいて心の中で妖しい笑みを浮かべる蓮が、キョーコへのトビラへのワナをそっと開けた。

 

 仲も良い2人だと知られていても、キョーコを運んだ事で集まる視線から逃げて、落ち着いて話したくて、キョーコを自らの楽屋に連れて行った。社にクギを刺された手前もあるが、誰にも邪魔されずにゆっくりと話したかったからだ。

 

 

 

 そして……
「ねえ最上さん。夏へのトビラを開けてみない?」
 キョーコには直ぐには分からないだろう言葉にして、キョーコのドラマのタイトルに引っかけた言葉で、謎かけのような言葉にして投げかけた。

 

 だがその言葉は、番宣で呼びかけた洋子の言葉だ。
『今夜10時スタートの『夏のトビラ』、観てくださいね。そして…あなたも夏へのトビラ…開けてみませんか? わ・た・し・と…』

 

「夏へのトビラ…ですか?」
「そう。最上さんだけのトビラ…」
「えっ!? 私だけの? どんなトビラですか?」
「う~ん、そうだね…」

 

 キョーコは自分だけのトビラと言われて、素直な気持ちで蓮に聞き返した。
 キョーコに問われて考えるフリをする蓮は、斜め上へと目線を上げながらどんな言葉にしてみようかと考えるそぶりで…キョーコへと視線を移した。
 ただ…既に蓮の答えは決まっている。思いついたように浮かべる笑みは、更に妖しく夜の帝王の笑みになっていた。

 

 そんな蓮の笑みに、キョーコの怨キョアンテナがするすると伸びていくと、妖しい念波でピピピッ…と鳴った。それも怨キョも今までに無い程多くて…妖しい念波に逃げ出しそうになり、キョーコの後で怯えていた
 そしてキョーコの頭の中では警報まで鳴り響びいた。

 

 つ、敦賀…さんが…夜の帝王ーー!!!
 こ、こ、こ、こんな時の敦賀さんに感じるのって…ロクな意味じゃ…ロクな内容じゃ無い!
 ダ、ダメ!! 訊いちゃいけない地雷だったーー!!

 

「い、いいです!! 答えな『ランジェリー姿で俺を煽ってみるとか?』 …は、はいぃ~~!!? ラ、ラ、ランジェリー姿~~!!?」

 

 楽屋とはいえ、流石に大声にしていい言葉では無いと、キョーコは口を押さえた。
 蓮の言葉から逃げだそうとしたキョーコの叫びに、蓮の言葉が被って聞こえたかと思うと、キョーコはあり得ない言葉に、更に大声になって信じられないとばかりに蓮の顔を見た。
 妖しい思惑を隠そうともせずに、蓮はニヤリと笑みを浮かべた。

 


 蓮は三上監督と話をして、あの番宣の時のキョーコの衣装についても聞いていた。衣装の服だけが透けて見える程だったのではなく、監督と衣装係で決めた透け感のあるエロカワなランジェリーも着ていたことも…。

 

 妖しく美しい笑みでありながら、小悪魔の表情に似つかわしい…レース使いで身体のラインも見て取れる衣装。スカート丈も太股が半分程見えるのは、足がスラリと綺麗でスタイルが良い証拠だ。
 両袖は肩が見えるラインでレースに切り替わり、首回りもキョーコの肌の白さが見えるようにゆったりと開いて涼しげなワンピース。キョーコのスタイルの良さを僅かに隠していたが、蓮には全て透けて見えているようなモノだった。

 

 白と黒の重ね使いは、『洋子』に本当はどちらの色が似合っていているのか視聴者にも問い掛けていた。
『君はどちらが似合っていると思う、敦賀くん?』
 三上監督の言葉に、蓮はふっと妖しい笑みを浮かべて答えていた。
『洋子であれば黒でしょうね。でも、京子であるなら白でしょう』
『ほぅ…。即答か?』
『洋子のコケティッシュさは…何処までも悪い道にも誘いそうですが、京子さんはまだこれからも…幾つもの役で色々な色に染まってはまた自分を振り返って、別の色に染まる役者ですからね』
『……つまりは…まだ色に染まっていないという事か? デビューの頃にはイジメ役が続いていたが、関係ないと?』
『…そう俺には見えますが、本当のところは分かりませんね』
 蓮がそう言うと、三上監督もニヤリと笑った。

 

 

 よ、夜の帝王ぉ~~~!!?
 どうして私の話から、夜の帝王がお出ましに~~!!?
 まさか…わ、私のランジェリーの話からですか?
 つ、つ、敦賀さん…似非紳士に過剰な色気まで出してます~~~!!
 なっなっ何を考えていますかぁぁ~~~~!!

 

「な、何故に…夏のトビラが…ランジェリーなんですか~~!?」

 

 疑問を丁寧に蓮に聞き返すところが、キョーコのバカ正直で先輩に対しての礼は取るところ。蓮は笑みを浮かべて手を伸ばしてきた愛しい少女を捕まえるワナを、さらにそっと広げた処にキョーコは乗ってしまった。

 

「夏だと薄着になって開放的になるって言うからね」
「それは、薄着になるのは暑さからですが、どうして服まで脱ぐんですか!? な、何故、ランジェリーなんですか!? 意味不明です~!!」
「そう? 最近は下着かわからないぐらいの透けている洋服もあるだろ? それならランジェリーもありじゃないかな? そうすると…例えば…セクシーな勝負下着…とか? 君が番宣で着ていた…洋子の素肌が透けそうなシースルーの服でも、大丈夫なランジェリー…とかね…」
 確かに…。キョーコとしては納得出来なかったが、三上監督の揃えたスケスケのランジェリーを着て、洋子として番宣のあのシーンを撮りはしたが…。
「し、し、しかしですね、しょ、しょ…勝負下着!!? 勝負する下着って、な、な、なんですか~!? 何が勝負なんですか~!!?」

 

 それも…ランジェリー姿で煽る相手が、つ、敦賀さん~~!!?
 むが~~~~!! ム、ム、ムリ、ムリです~~~!!
 ランジェリーがセクシーでも、それを着る私の身体が、ひ、ひ、貧相ですから~~!! で、で、出るとこ出て…出てないです~!!////
 ランジェリーだけでご満足いただけるなら、それも出来るでしょうけど、わ、わ、私のように凹凸の少ない体型で、そ、そのセクシーさを感じていただける訳なく~、セ、セクシーな、ラ、ラ、ランジェリーが、ぶ、ぶら、ぶら下がっているだけに、なりますから~~!!////

 

 純情乙女で破廉恥を連発するキョーコには、下着に勝負という言葉が何故付くのか、意味としてわからない。それに今はその意味を……

 

 し、知りたくない!!
 だって知ってしまったら、……怖い!!
 知ったら…知ってしまったら、何かが…起こるの!?

 

 キョーコの中で危険信号は鳴りっぱなしだ。
 

「ん? 勝負は…俺が悦んだら君の勝ち…かな?」
「……は…はいぃ~~!?」
 キョーコの声は裏返り、耳に届いた蓮の言葉の意味も分からなかった。そして、キュランとした蓮の笑みに、キョーコは眩しさで仰け反った。
「つ、つ、つるっ…敦賀さんを悦ばせる、し、した、した、しょ、しょ~勝負下着~~って、ど、どんだけレベルですか~~!!?」

 

 キョーコは言葉にしてはみるものの、ドギマギしすぎてどもりまくりになってしまった。
 蓮の…見目麗しき顔で女性を見つめれば、悉く落ちるとの噂もある。恋愛ドラマで無意識に誘惑しまくると言っても過言ではないモテる男だ。
 その共演女性の多くは、蓮が「恋をするなら本気で惚れさせる」と言った言葉通りに、勘違いさせてしまう『抱かれたい男』を誘惑するレベルの下着?

 

 そ、それにそもそも男性を、ゆ、ゆ、誘惑する下着自体が、わ、わ、私には分かりません!!
 それもあの小悪魔チックな洋子の…番宣服に合うようなランジェリ~~!?
 確かに…あの黒いレースのドレスも、上に重ねた白のチュール生地も、どちらも透けていて…当日着ていた下着まで三上監督の指示で…着替えたモノの……着ている気がしなかったスケスケランジェリー…////
 唯一着ていたと感じたのは、黒のドレスがセミ丈だった為に着ていたアンダースコートだけだったのよ~~////

 

「勝負するんだからね。勝たないとね」
「し、し、し、しょ、勝負のレベルがわかりません!!」
「わからない? ……それなら俺が…用意しようか?」
「………はぁ~~~!??」
 キョーコが気の抜けた声を上げ、蓮を呆れた視線で見あげた。
 勝ちが分かっている蓮が、再びキュラン…と帝王の笑みが眩しくてキョーコはまた仰け反ったが、思考を止めた頭が真面目に質問していた。
「…あの……勝負する相手が、用意するモノなんですか?」
「ん? いや、俺がキョーコに用意したいだけ」
 蓮はニッコリと似非紳士の笑みで返すが、あまりの会話にキョーコの頭はパニック状態になり、尋ねたい事もポイントがズレていってしまう。
 それこそ蓮の思う壺だ。
「……じゃあ、…キョーコも用意してきて。俺も用意してくるから、どちらがキョーコに似合って俺を悦ばせるかで、勝負しようか?」
「…はあぁ~~~!??」
 キョーコは蓮の言葉にまともに応えられなくなった。
 パッカリと開けた口は、暫く閉じることも出来ない程に驚いたまま蓮を見つめていた。
 起動停止してしまったキョーコだが、頭の中は蓮の言葉が渦巻いて『敦賀の坩堝』状態でまともな思考で言葉の対応が出てこない。

 

 蓮はキョーコへと投げかけた確信犯の笑みで、もう逃がすつもりも無くて、キョーコと呼んでみた。

 

 お、お、男の方でも女性のランジェリーショップって行けるものですか?
 …あと、あれ? 今、敦賀さん…名字じゃなくて『キョーコ』って名前で呼んだような? いやそれよりも…。

 

「お、男の方が女性のランジェリーを…選ばれるんですか!?」
 キョーコにはそちらも気になった。
 ナツの時に、セツカなら身に着けそうなエロかわランジェリーを無意識に選らんでいて、「ハードロッカーな人(セツカ)へのプレゼント!」と言い訳しながら買った時でさえ恥ずかしかったのに、異性の敦賀さんが?
「選んだことあるよ。ドラマで恋人と一緒にランジェリーショップに行ったシーンもあったし、ドラマの役柄が下着会社の社員で、打ち上げで共演の女性にプレゼントしたこともあったしね」
「……その時の…共演女性やショップ役の方は、どんな感じでしたか?」
「ん? ドラマの撮影だったからね、少し恥ずかしそうな感じで頬を染めながらだったけど、実際にも恋人となら買いに来る人も居るってショップさんも言っていたよ」
「……いらっしゃるんですか、実際にも!?」
 キョーコが声を大きくして驚いた。
「ジュエリーや服の延長で、ステキな恋人に着せてみたいんだろうね…」
「こ、恋人…ですよね? 私はただの後輩です。敦賀さんの恋人や彼女さんでもないのに…」
 キョーコが自分では立場も違うのに、恥ずかしい妄想までして、敦賀の坩堝で頭が混乱状態になり、何故こんな遣り取りをしているのか…悲しくなった。
「…俺は何も思っていない女性に、ランジェリーまで贈りたいと思ったりしないよ、キョーコ」
「えっ!!?」
 再び名前で呼ばれ、やっとキョーコは気付いた。それも蓮はランジェリーを贈るのは特別と言いたそうで、先程とは違う真剣な目でキョーコを見つめていた。
「ドラマの共演者に贈った時は、スポンサーからの申し出として贈ったりもしただけ。リップサービスでスポンサーの話はしなかった。でもそれ以上の感情はなかった。だから…キョーコには、俺の気持ちとして贈りたい。もっとも……男の下心も…付いてるけどね」
「…男の下心…?」
「貴島君にドレスアップされた時に言ったよね? 覚えてる?」


『男が女性に洋服を贈るのは…』
 蓮が夜の帝王の笑みを浮かべ、キョーコが慌てふためいて逃げようとした事を思い出した。

 

「…えっ? え、え、えぇぇーーーー!!!」
「着るのが恥ずかしくても、責任もって脱がせてあげるからね」
「ぬ、ぬ、ぬ、ぬがぁ~~////」

 

 キョーコは真っ赤になったまま…叫んで現実逃避してしまいたくなった。

 

 自分で言葉にする時に、キョーコはその場面を想像して叫び声を上げるが頭の中ではモザイク模様。最後まで言葉に出来ずに、顔はこれ以上無いほど真っ赤になり、茹で上がりすぎた蒸気まで上って見える程だった。
「まずは試しに、今度の共演シーンにキョーコが着てきて。そして俺にアピールしてみて…。俺に色気を感じさせて脱がしてみたくなるような…色気を妖しく感じさせてみて…」
「つ、つ、つるっが…さんに、ぬ、ぬ、ぬぅ~~~////」
 先程よりもモザイクが少なくなったキョーコの妄想で、顔だけでなく全身を真っ赤に染めてシュッポン!…と湯気まで出して、キョーコは頭をクラクラさせて目を回した。

 

 な、な、な…何が起こっているのぉ~~。私の頭の…キャパでは治まりきらないのに…、敦賀さん…わ…私…付いて…行けません……。

 

 そんなキョーコの前で、蓮はスマホを操作し始めた。
「例えば……(ポチポチ)こんなのもあるよ?」
 キョーコが見たスマホ画面には、『育乳ナイトブラ。育乳+脇肉補正+ナイトブラ効果』と書かれ、女性が着けた胸を中心の写真が、未着用と着用中で比較して写っていた。
「えっ!?(こんなのがあるの?)」
「補正も出来るし、レースでオシャレだよね?」
「………////」
「ヒップも…(ポチポチ)レース使いのガードルもあるみたいだね? でもヒップも足も綺麗なキョーコなら、必要ないかな?」
「………////」
「ああ。でもこれはしっかりした補正タイプで、脱ぎ着が大変らしい。レビューコメントに書いてある」
「…はぁ……////」
 キョーコには別世界の話の様で、上手く言葉が見つからない。
「着る時は言ってね。手伝うから…。勿論、脱ぐ時もね」
「…………」
 蓮は楽しそうに画面を変えていくと、関連づけのランジェリーをクリックした。
「…ベビードール?人形?(ポチポチ)…セクシー&キュートで洋子向きかな? ランジェリーのセクシーミニドレスみたいだね。キョーコはどう思う? プレゼントするよ?」
「……っ!!!////」
 エロカワなベビードールのネット写真に、キョーコの頭が悲鳴を上げた。
 そしてキョーコの頭の何処で聞いた事のない音がした。

 

 ぷっつっ~~~ん………。

 

 この時の蓮との会話を、キョーコがあやふやにしか覚えていなかったとしても、仕方がない…こと……。

 

 

《つづく》

 

 

さてキョコは如何に!?( *´艸`)

 

 

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