コ・ス・メの魔法は? 番外編


  魔法はなくても…花も綻び… 1話 

 


「OK! 収録、終了! お疲れさま!」

 

 監督の収録ラストシーンの確認の声と共に、セットのあちこちから「お疲れさま!」と声が上がる。
 主演二人を中心に声を掛け合い、連続ドラマの撮影を労いつつ、笑顔で「ありがとうございました」と感謝の声もでる。

 

 蓮と京子のダブル主演のドラマが、予定通りクランクアップした。2人やメインの役者にも花束が手渡された。

 

 主演二人がリテイクが少なく順調に進んだ撮影であっても、4ヶ月近い収録が終わる頃には仲間意識もでるのが一つの作品を生み出す絆でもある。

 

 編集スタッフも仕事が終わる予定の放送前日には、打ち上げが予定されていた。
 主役を含めてスタッフまで、この時間に仕事を入れないように通達され、ドラマの打ち上げがされることになっていた。
 主役の2人もドラマ中に告白して、最終回で結ばれる流れもあって、編集スタッフの仕事が終わってからからなら仲間としての打ち上げになる。

 

 視聴率も、『抱かれたい男』と『恋人にしたい女優』と人気の2人のダブル主演となればそれなりに見込めるところだが、ストーリーはシンプルでありながら2人を長く見てきたファンでさえ見た事のない新鮮で切ない表情が、SNSという形で大きな拡散が視聴者を呼び続けた。
 熱心な2人のファンの中にも、「本物では!?」と叫びながら泣くファンも少なくはなかった。

 


 2人ダブル主演のドラマは、同じ職場での恋の滑り出しはスローに進む2人の関係だが、京子がそっと蓮にやる視線に、可愛い笑顔を持ちながら恋愛に後込みする姿にいじらしいと男性ファンが増え、主演の一人として視聴者を引き付けた。
 蓮もそんな京子の素直な可愛らしさに距離を近付けていく。京子には「まさか私に?」と信じられないのに、好きな思いでそっと彼のデスクを覗いた時に視線が合うのは気のせいだと思って逃げてしまう。
 そこに2人のライバルになる男女の恋の駆け引きも行われるが、両片思いの2人がお互いの大切さを知って恋が実るハッピーエンドだ。
 京子の天然女子が笑いを誘うコメディーテイストも入ったじゃれ合いも、蓮のいつもと違う顔も見れることが出来たのも、密かなファンの楽しみもあるドラマでもあった。

 

 「殆ど、二人のそのままだよ…」と呟くのは、蓮のマネージャー社倖一。ずっと蓮を応援しつつ、最上キョーコというちょっと風変わりながらも可愛い成長する女優も一緒に見守ってきた。
 出会いの頃は最悪だったけど、自分を磨き続けた『京子』という女優の成長は目を見張るほどで、気付けば担当俳優、敦賀蓮は、その少女に恋をしていた。いくら俺が指摘しても「違います」と言っていたが、馬の骨やら、厄介そうな幼なじみや、今まで顔に出さなかった『抱かれたい男No.1』が、初めての恋に慌てるんだもんな。否定するよりも浚われないようにする必死さは、称号も何も関係ない一人の恋する男だよね。


 キョーコちゃんもラブミー部で愛を否定していたって、元々は素直で礼儀正しいく可愛い少女だから、蓮を先輩として尊敬する後輩として見つめていれば、蓮が顔だけで若手のトップ俳優じゃないことも知ってアイツの良さもわかれば、男でも惚れそうな奴なんだしね…。

 

 まあ今回のダブル主演には、蓮も嬉しそうでこの共演を逃さない気持ちだったようだけど、…顔合わせの日にって……余裕無かったってことだな。

 

 その蓮の行動には、マネージャーとしては釘を刺したいところだったが、応援してきた蓮の気持ちを思えば、馬の骨がこのドラマで増える前にって思ったのか、それにキョーコちゃんも綺麗になったって事はドラマと一緒に幸せになっていったって事だよな…。

 

 このドラマが始まる前は暫く仕事も重ならなかったし、いいとこ廊下で擦れ違いだった。それは俺にもどうにも調整は難しかった。
 でもさ、だからって、久し振りでまたキレイになっていたからって……付き合う時間のステップを、普通跳ばすか?
 それも『抱かれたい男』が余裕無しでいくのか?

 

 キョーコちゃんがイヤがってるなら、俺も担当俳優の蓮だろうが間に入るけど、調度ドラマの進行する中でヒロインが恋をしながらキレイになるっていうのが、キョーコちゃんの表情そのまんまで、蓮がまた惚れ直してるのよくわかったよ、俺。
 心の中では恋人にもうなっていても、あの…嬉しいような、恥ずかしいような、困ったような…それでいて何かの瞬間に花が咲くような、ぱっ!っと弾けるような嬉しそうな笑みなんか、あの表情だけでも、馬の骨がワサワサ増産できるよな…。あ、イヤ出来ると蓮も困るだろうが、芸能人ならそれも人気というバロメーターだ。

 

 監督やプロデューサーも、『女優京子』としての成長が加速して大人にさせた本物の恋があったとわかっただろうな。


 最終の収録日には、監督もプロデューサーも京子の花も綻ぶ美しさには見惚れるほどの美しさを感じていた。

 

 最初の頃は「京子ちゃん」と呼んでいた。他のスタッフいたが、自然とその美しさに「京子さん」と呼び名が変わっていた。

 

「京子さん、大役ご苦労様」

 

「監督。いえこちらこそ嬉しい役を演じさせて頂いて、ありがとうございました」

 

「いやいや。俺も幾つか作品を作ってきたけど、目の前で花が綻んで…花開く姿を見れる作品になって嬉しいよ」

 

「花が綻んで花開く姿…ですか?」

 

「まあ、自分の事は気付きにくいだろうが、笑顔が幸せそうで、ドラマの初めの頃よりまた綺麗になって…。その笑顔に周りも気付かないと思ってるのかい?」

 

「えっ!?」

 

 監督も最後の方は小さな声で言った為、キョーコの驚きの声の方が周りには聞こえた。

 

「ドラマのスタッフでも鈍い奴は分からなかったかも知れないが、京子さんの笑みも、彼の笑みも、ダダ漏れ状態だったからね」

 

「あっ…あの…」

 

 キョーコが慌てて言葉を探すが、頬を染めてしまうとまだ少女の顔に戻ってしまった。

 

「彼も君だけに見せる顔が何ともいい顔をしてたね。お互い限定の恋する顔だ。大事に育てて、また君達を撮ってみたいね。出来ればまた…数年後にでも…」

 

 監督の言葉は、キョーコが一言「違います!」と言えばすむ事でもあった。しかし、この気持ちを否定する言葉は出来るなら言いたくなかった。

 

 2人の交際もまだ隠している状態で、このままの2人がそのまま続くのかも分からない。
 だが監督という目を持つ人が…また数年後の2人を見たいと言ってくれるなら、分からない先の心配をするのは止めたいと思った。

 

「また…監督に撮って頂ける機会がありましたら、宜しくお願いします」

 

 キョーコは否定も肯定もせずにそう答えて綺麗なお辞儀をした。

 

 監督と話しているキョーコには、話しかけたい男性陣も軽い言葉はかけられないが、蓮には共演女優達がこれが最後のチャンスと蓮に迫っていた。
 蓮の忙しさを考えても、共演のチャンスを逃せば言葉を交わすチャンスは少ないからだ。

 

「近いうちに、お食事とがどうですか? 素敵なところ…知ってるんですよ」

 

「あら…敦賀さんは舌も肥えてるでしょうから、目も楽しめるロマンチックな夜景もステキな場所なんかどうです?」

 

 蓮にアタックする女性という意味では、見栄えは程々に魅力的なタイプを揃えてみたが、内面はそれほどではないと視線は冷たかった。
 何より京子に向ける暖かくも熱くもなる視線と、自分達に向けられる視線の違いも分からないらしい。

 

 マネージャーである社もその表情の違いに、呆れた顔で蓮を見つめていた。

 2人ともさ…少し見る目がある人間が見たら、本音ダダ漏れだから……。

 


 そして主役以下メインのメンバーも揃い、打ち上げ最初の挨拶は、ダブル主演の蓮と京子に乾杯の挨拶を任せてグラスが鳴った。

 

 キョーコは直ぐ横に立つ蓮に、呟くともなく言葉にしていた。

 

「何か…『ダークムーン』の打ち上げの時を思い出しますね…」

 

「そう?」

 

 まだほんの数年前の事なのに、キョーコには懐かしささえ感じる事が不思議だった。

 

「私…ドラマの打ち上げなんて初めてで、制服で参加しようかと思って居たら、貴島さんに声を掛けられ……って、…つ…敦賀さん?」

 

「ん? なに?」

 

 表面的には笑顔の蓮だが、微妙に怨キョが飛び出して妖しい電波を探り出した。

 

「敦賀さんから…妖しい似非紳士の顔が覗いてます」

 

「…ふん……」

 

 蓮は小さく溜息を吐いてから視線を上にやると、情けなさそうな視線でキョーコを見た。

 

「ゴメン…。昔話に嫉妬するなんて、情けない男だね。器の小さい男でゴメンね」

 

「敦賀さんが器が小さかったら、私はどうなるんですか? それに…私にだけが見てもいい表情は、私の特権でしょう?」

 

 まだ交際を公表していない2人だが、恋人だけが知る蓮の表情に隠した気持ちも、キョーコにだけが知る愛しい恋人だ。

 

 打ち上げが始まった直ぐは、主演の2人に気を使っていた女性陣も再び蓮と京子に集まり、京子を弾くようにして蓮を囲んで話しかけだした。

 

「あら、敦賀さんお酒は召し上がらないの?」

 

「ホント。お酒は強かったですよね?」

 

 一人が気付くと我先にもと、テーブルの酒を蓮に勧めだす女性達。
 だが蓮はその動きをやんわりと止めた。

 

「すみませんが車で次に行くので、アルコールは飲めないんです」

 

「折角の打ち上げなのに~。それにお仕事はこの後は入れずに楽しめるようにお知らせがあった筈でしょう?」

 

「ええ。今日の仕事ではないですが、明日の仕事の為にも車で帰った方が都合がよくて…」

 

「タクシーで帰ってもいいじゃないですか?」

 

 酔えば蓮と…少しでもお近付きになれると思う女性は食い下がる。

 

「そうだけど、車だけ置いて帰るのは余り気が進まないので」

 

 蓮は程々に車の必要も込めて言葉にした。

 

「敦賀さんって、そんなに車お好きでした?」

 

「好きですよ。それに…長く乗ってると愛着もあるしね」

 

「えー。そんなに好きな車なら私も乗せて欲しいわ」

 

 蓮が好きなものから絡めていこうと、図々しいほどに蓮のプライベート空間に近い場所まで入り込もうとして、他の女優達までがすり寄りだした。

 

「ん…でもゴメン。シートが狭くて何人も乗れないんだ」

 

「敦賀さんのお車って、外車ですよね? ステキだわ。ぜひ乗ってみたいわ」

 

「そう? でも仕事の移動中はマネージャーぐらいしか乗れなくてね」

 

 蓮はさも仕事の移動に使うのがメインであり、プライベートにドライブに出かけることもなさそうに答えた。

 

 あとは…キョーコという恋人しか乗せたくないんだけどね。

 

 蓮はキョーコを思って笑みが妖しいほどになると、迫る女性達も心を奪われて夢見心地になって蓮を見つめた。

 

 社も少し離れた場所で、蓮の言葉を聞きながら頭の中では大量の砂を吐いていた。

 

 まあね……。お前もキョーコちゃんもくっついて幸せならね、いいけどさ。
 でもお前も、キョーコちゃんも……周りにはダダ漏れだから…。気付かれていないと思ってるのか?
 俺だけレベルじゃないからな!
 蓮がキョーコちゃんと、隠れてでも付き合いだしてダダ漏れの笑顔がまぁ…共演した女優の勘違いも出てくるだろう。うん。わかるよ。嬉しすぎなんだろうね。気持ちがダダ漏れでも、止めようがないか?

 

 キョーコちゃんもさ、顔合わせから…どんどん綺麗になって、役の女性が恋をして綺麗になっていく設定もある。でも内からの輝きが女性として、ホントにキレイになったんだよ。
 本物の…幸せって、こんなに人をキレイにする魔法でもあるのかって…おもい知ったよ。
 そのまま2人で、ゴールかスタートかわかんないけど、婚約、そして結婚なんて…蓮の顔見てたら、そうなったらいいなって思うな。

 


「あれ? 京子さんもお酒飲まないんですか?」

 

「実は、明日も午前中からお仕事があって、まだお酒って飲み慣れてないので、余裕のある時に練習中なんです」

 

「あ、そっか。まだ二十歳になったばかりでしたっけ?」

 

 声をかけてきた俳優は、今気が付いたという言い方で京子に探りを入れてきたのだ。

 

「そうなんです。最近は嬉しいことに大人の女性を演じさせてもらっていたんですが、お酒も強いか弱いかもわからないので、親友と飲んでみたいなって思ってるんですけど、彼女も忙しくてなかなか…」

 

「親友って誰です?」

 

「琴南さんです」

 

「えっ!? 琴南…奏江…さん!?」

 

 京子の親友と言っても一般人かと思えば、京子に負けず劣らずに活躍する美人女優の名前に、周りにいた他の俳優も色めき立った。

 

「知ってますよね?」

 

 キョーコは知らない筈はないと笑みを浮かべた。

 

「知ってるよ。いつから仲いいの?」

 

「私が芸能界に入った頃からなので、5年近いですね。一番の親友なんです」

 

 

 キョーコが蓮の怒りをかいながら芸能界の門を叩いた時には、モー子さんは既に一流の演技者に見えたのに、「愛が無い」と社長に言われて私と2人でラブミー部でドピンクつなぎを着ていた時が、懐かしくなる日が来るなんて…。

 

 それもあの時に一番の怒りをかっていた筈の…敦賀蓮という人の恋人になっている姿は、想像も出来なかった。

 

『キョーコ。打ち上げが終わったら、家に来ない?』

 

 そんな恋人から…今夜の打ち上げ前にメールが届いていた。
 仕事で顔を合わせても、恋人の役をしていても、本物の蓮とは違う薄いベールがあるようで、少し寂しさを感じていたから、素直に嬉しかった。
 それに…この仕事が終われば、暫くは一緒の仕事もなくて、蓮との二人きりのデートもしたかった。

 

 でも…蓮の家だし…夜…だと////
 イヤじゃ…ないのよ。
 でもね、でもね……まだ恥ずかしい……////。
 それでも二人きりで会いたいから、「はい」とだけ返事した。

 

 キョーコはそんな遣り取りさえ、周りが大人美女という顔とは違う初々しさでほんのりと頬を染めた。

 

 蓮は長身の身長を生かして、時折キョーコへと目をやって姿を追っていた。
 そして時計にも目をやると、自分も時間を気にしている素振りを周りにも見せた。

 

「そろそろ時間が気になる方もあるようですので、一度区切りをさせて頂きます。時間の余裕のある方は2次会を用意していますので、ご出席願えればと思います」

 

「ね。敦賀さんも行くでしょう?」

 

 車で帰るなら時間など気にしなくてもいい筈と、蓮から離れたくない女優達の視線が注がれた。

 

「ゴメンね。明日の仕事もあるから帰るよ」

 

「え~~。そんなぁ~」

 

「京子さんはどう?」

 

 蓮にもキョーコを誘う声が聞こえていた。

 

「すみません。明日は朝からロケがあって、帰らせて頂きます」

 

 頭を下げてまで「ごめんなさい」と言われては、なかなかごり押しも難しいと、「残念…」と諦めの声がした。

 

「あれ? でも主役二人が帰っちゃうの?」

 

 監督は2人が帰りやすいように、残念そうに言葉にしてみた。

 

 「すみません」と言いながら目配せしているのは、見る人には筒抜けだ。

 


 二人は場所を移動しながら挨拶をして、少し間を空けながら…そっと何気なく並んで蓮の車へと歩いて行った。社もマネージャーとして近くを歩きながら、蓮と目配せをして姿を消した。

 

「今夜…泊まっていける?」

 

「イヤって言っても…いいんですか?」

 

「言って欲しくないね」

 

「今日の打ち上げで、暫く一緒のお仕事無いですから…一緒の時間は大切にしたいです」

 

「じゃあ一緒にいて…。朝までずっと…」

 

「…はい……」

 

 恥ずかしそうなキョーコの目線は、幸せに輝いて蓮を見た。

 

 

 

《FIN》&《つづく》 ( ´艸`)

 

 

 

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お次は、ちょっとだけ甘い限定でっす( ´艸`)