まじ―ん様の罠リクより

 

  知らぬは彼女ばかりの噂 3

 


 蓮がキョーコとの電話を切ると、社は蓮の心配ではなくキョーコの受け答えを想像して小さく溜息を吐いた。

 

「相変わらずだけど、キョーコちゃんって自分の成長とか変化に鈍いよね」

 

 社の言葉に蓮も頷いた。

 

「彼女所以の奥ゆかしさというか、謙遜する気持ちであるところはありますが、もう少し自分をしっかり見てくれないと困りますね。周りの目は…すっかり彼女の魅力を認め、一人の女性としても認めているのに…」
「お陰でお前は馬の骨の処理に大変だしな」
「結構太くてしつこいのも混じってますから、今度のパーティーで一掃できるように努力してみます」

 

 いつもなら…社の言葉にも適当に逃げていた蓮が、キョーコへの思いを肯定的に答え、なおかつ馬の骨のライバルは片付けると明言した。

 キョーコに対しての本気の蓮の言葉に、社は珍しく見つめた後、にんまりとした笑みを浮かべた。

 

「お、やっと本気になったわけか! 俺のペアに手を出したら……氷点下で凍らせるか?」

「いえ、その前に逃げたくなるような完璧なペアで、彼女の横には俺だけだと知らしめればいいのでしょう?」

 

 蓮の顔は笑顔だが、社には何かよからぬことを考えているのではないかと蓮の表情を探るように見た。

 

「ただ…彼女を幸せにするのが俺であれば、彼女がそう感じてくれるならいいんです。自分では幸せを欲していない彼女だから、幸せになることが当たり前だと知って欲しい。努力して芸能界の階段を駆け上がる彼女は、誰よりもその積み重ねが華を作らせて成長させたのに、その華を自分が気付かないなんて勿体ないですからね…」

 

「それでお前はその華を開いた彼女と幸せになりたいわけだな」

 

「ただ大きな華があれば良いわけではありませんよ。努力して積み上げて開いた花は、その努力の分も強く、そしていつまでも咲誇れる大輪の花へとして長く咲誇れるでしょうから」

 

「その華を、お前は待ち続けて手にしようとしているんだからな、お前にも嫉妬の視線は痛いだろうな。それもパーティーの後は2倍! いや、3倍か4倍にもなってるだろうがな」

 

 社は確実に面白がっている風にも感じられるが、笑みの中に優しく柔らかな光も感じた。

 

「……前はそう思っていませんでしたが…。自分の幸せは目標の向こうに行ってからと考えるほど、遠いものでしたから。いや、考えてもいなかった。それほどに遠かった」

 

「でも、今は近くなったわけだ…」

 

「人を幸せにできる人間ではないと思ってもいましたが、人を幸せにしながら自分も幸せになれるならいいと思えるように変わってきました」

 

「『人は幸せになる為に生まれてきた』っていうのはありきたりな言葉だろうけど、努力をして生きてきたお前とキョーコちゃんになら、幸せを掴む資格はあるんじゃないのか? まあ、幸せなんて人によって形は違うけど、同じ何かを思ったり感じたり出来るならお似合いだと思うよ」

 

「何を幸せと感じるか…ですか……。今の彼女には演技する幸せは切り離せないことで、俺の幸せは彼女との時間がないのは寂しいことで……」

 

「好きな女の子と会えないのは誰でも寂しいもんだ」

 

「彼女の…役者としての飛躍は目覚ましいことを回りも認めていますから、それを邪魔することはしたくありません。ただ、その世界以外にも幸せになることが出来ることには…」

 

「もうそろそろ気が付いてもらわないと、お前が困るな」

 

 社が蓮の本音を続けた。

 

「……そうですね…」

 

「なんか今日のお前は言葉が多いな。待ちくたびれた愚痴か?」

 

「……充分待ちましたから、本気でいかないと…」

 

「痺れ切らして、キョーコちゃんをかっさらって自分だけの場所に閉じこめかねないな」

 

「……そこまでは思っていませんよ」

 

「理性で思ってなくても、行動しちゃうのが本気の恋だと思うけどな?」

 

「……その辺りは自制するしかないですね…」

 

「それが出来るなら、キョーコちゃんを何があっても守れる男にならないとな。キョーコちゃん自体もだけど、キョーコちゃんの周りからもな」

 

「それはこのコラボ企画で堂々と彼女の横に立ち、共に二人で立てるペアだと知らしめればいいことです。彼女の横には俺だけで、俺の横にも彼女だけだと…」

 

「最強カップル誕生って感じか?」

 

 社はにやにやとからかうような笑みを浮かべるが、蓮の表情は真剣なままだ。

 

「誰も入り込めないカップルとして、これ以上はないペアとして、やり遂げて見せますよ」

 

「お前の辞書には『有言実行』の文字がでっかく載ってるからな…」

 

 歴史に名を残す英雄のように、蓮がこれまでの仕事の中で成功してきた一番の理由を社は告げた。

 

「それ以前に、彼女の居ないこれからは考えられないだけですよ…」

 

「だったら、どうせなら恋人宣言じゃなくて婚約宣言でもしたらどうだ? それともいっそ、結婚宣言とか?」

 

 少しばかり先走る社の言葉に、蓮はクスッと笑ってしまった。

 

「…いきなりそれは、彼女が逃げそうな気がしますが…」

 

「逃げないように捕まえるのがお前の腕の見せ所だろ? キョーコちゃんの気持ちがお前にないならともかく、お前の気持ちを押せるぐらいにはキョーコちゃんの気持ちを知っているつもりだし、キョーコちゃんの幸せを願う一人でもある」

 

「…彼女を…幸せにしなかったら怒られますか?」

 

「怒ってやるよ。まず無いとは思うけれど、お前とキョーコちゃんが幸せになれないとは思ってないからな」

 

 社も優しい笑みがこぼれると、蓮の目が更に優しくなる。

 

「彼女のくれたもので、救われた思いで、彼女に幸せを返せなければなりませんね…」

 

 そう答えた蓮の笑みはキョーコへの愛おしさで溢れていた。

 

 

 

≪つづく≫

 

社っちのセリフに

某しゃちょーの企画が頭を過ったなんて

ナイショナイショ( *´艸`)