すみません。時間にセットしながら、アップを忘れていました!m(_ _ )m    



  主人公ーヒロインー  7話 最終話



 そして再び長谷部がマイクを持つと、穏やかで遠くを見るような視線になった。
「ちょうど…私も彼女の年頃から演じさせて頂いた役で、演じながら一緒に成長してきた役でした。だからこそ、新しいなぎさに生まれ変わる時を、託せる方を探していました。この最後としたドラマで、お二人に出て頂いたことで、その実力も皆様にわかって頂けたのではないでしょうか?」

 つまりは、長谷部が京子と敦賀蓮を、最後になぎさを演じる回に呼び共演したことは、長谷部の我が儘というよりも二人の実力を見せながらのお披露目だったということだ。

「長谷部さんは、以前に”なぎさは自分の一部”ともおっしゃってましたが」
「そうですね。私の一部だからこそ、納得のいく人に…受け継いで欲しいと思っていました」
「京子さんはなぎさにふさわしいと?」

 落ち着いた長谷部の笑みが、ふんわりと優しくなった。

「私はそう思っています。でも、本当のところは、このドラマのファンの方々が決めること。ただのなぎさの2代目と思われるか、京子さんのなぎさの良さにファンになられるかは、私が感じられることではありませんから」

 キョーコは長谷部の言葉に、長谷部からの”なぎさ”というバトンを渡されはしたものの、そのバトンを自分のものとして大切にしていけるかは、京子自身のこれからだと言われたことを感じた。
 長谷部の推薦が自分を押しはしても、”なぎさ”を楽しみにしていたファンはそのまま続くものではない。
 改めてそのバトンの意味を重く感じた。

「では、その新しい主役のお二人に」
 その言葉に蓮とキョーコにも、先程とは違った緊張が走った。

「京子さんは、”なぎさ”役の2代目をどう思われますか?」
 キョーコはマイクを渡されるが、嬉しいと同時に重く感じる思いを、迷いながら口にした。

「あの…、今回の会見も、本当のところ…今朝になって”なぎさ”についてのお話を聞いたばかりで、また混乱しています」
「制作会見の時と同じですか?」
「そうです。でも嬉しくないわけではありません。とても光栄に思います」
「京子さんは今朝、聞いたばかりとのことですが、一番に思われたのはどんな感想ですか?」
「それは…驚きでした」
 キョーコの表情が微かに曇るように変化して、それがその時の本当のキョーコの感想だと記者達にもわかった。
「嬉しいよりもですか?」
「はい。長谷部さんのなぎさは、とても大好きですから。今回も事件のヒロイン役としてご一緒出来た事がとても嬉しくて、まさか…そのなぎさ役をと言われて、驚きの方が先でした」
「ご自分がなぎさ役にふさわしいと思われますか?」
 少しばかりキョーコには厳しい質問だ。
「それはその…、まだまだ未熟な私が、長谷部さんのなぎさは無理だとも…思いました。でも…私の、京子のなぎさを長谷部さんは見たいと…そう長谷部さんに言われて、やってみたいと思いました。尊敬する大先輩の長谷部さんが、私に…と、大切ななぎさを演じてもいいとおっしゃって頂けるなら、このバトンを喜んで頂きたいと思います」

 キョーコのやる気の目の輝きに、記者達は目を奪われた。未熟と言いながらも、実力は認められて成長する女優に、フラッシュは目が痛い程にたかれた。
「同じようにシリーズとしてやっていけると思いますか?」
 キョーコに…20年の歴史があるドラマを、そのヒロインをやっていけるのかという、少しばかり意地悪な質問だ。
 その答えにキョーコは首を振った。
 記者や、ドラマ関係者からもどよめきが起こった。

「それはわかりません。私はなぎさを好きで、精一杯私のなぎさになっても、見て下さる方々に愛されるなぎさでなければ、続けさせて頂けるとは思っていません。長谷部さんが下さったなぎさのバトンをいつまで演じさせて頂けるかは、京子のなぎさを見て下さる方がいらっしゃるか…ですから」
 キョーコは長谷部が押し、その後ろ盾だけで続けられるものではないと、有頂天になる訳もなく、若くともはっきりとわかっていると言葉にした。
「ですが、敦賀さんというもう一人の主役のお陰で、人気が続くとしたらどうですか?」
 また同じ記者が突っ込んできた。
「それは敦賀さんに失礼な質問です!」
 キョーコは自分の事ではない蓮の人気を、ただの人気役者と言っているとばかりに、ビシッと切り替えした。
「確かに敦賀さんの人気は、私の比では無いほどにある方です。敦賀さんが出れば、それだけで視聴率を稼ぐ、人気が付いてくると思われるなら、それは何か別の形で出てきます。ドラマは一人の方の人気だけでと言うことは、失礼ですが、それだけで続くものではないと思います」
 大役の指名に、恐縮していたキョーコは何処にいったのかと、記者を睨み返すような視線で答えた。
 それはこれまでの続いたドラマも、なぎさだけでなく、ドラマ全体を作ってきた他の役者達一人も欠けることなく「ドラマの一部」なのだと、ドラマを作るのはたった一人では出来ないのだという意味も込めていた。
「敦賀さんは役者として素晴らしい先輩です。演技力も、ずっと追いかけてきた、演技することを愛する先輩です。本物の役者さんです。だからこそ、ぶら下がったような役者でいたくないと思っています。京子のなぎさは、長谷部さんと同じ魅力を出せるとは、思っていません。違う魅力を持ったなぎさが愛されればいいと思っています」
 新たなヒロインではあるが、力の程はどうかという意地悪な質問が飛んだが、先程差し込むようにして二人の婚約も発表されたのだ。これに割り込んだ質問は可能だと声が飛んだ。

「その京子さんを射止めた敦賀さんに、お二人のシリーズとしてやっていけると思いますか?」

 つまりは蓮だけでシリーズを引っ張ることにはならないかと、キョーコの実力を、恋人として甘く評価するかを試した質問だ。
 その意図するところを蓮は直ぐに理解し、渡されたマイクを持つと、顔は笑顔でも目はその記者を射るように見つめて答えた。

「皆様が何を心配していらっしゃるかわかりませんが、俺は出来ないことが出来るとは言いません。シリーズとして努め上げる実力があると知っているからこそ、その相手役も引き受けました」

 それは、京子という役者が、敦賀蓮の相手役として見劣りするような役者ではないと、演技には厳しい蓮も認めているという答えだ。

「京子さんだから出来ると思います。彼女も俺を本物の役者と認めてくれたように、彼女も本物の役者の一人です。この度の指名も、俺も驚きましたが、京子さんならやれると、俺もオマケで付けてもらえたと思いました」
 
 この発言に記者だけではなく会場中がざわめいた。

「そ、それは確かに京子さんのなぎさが主役ではありますが、その…京子さんがメインであって、敦賀さんほどの役者さんの方がオマケだと言うことですか?」

 記者も驚いているのか、慌てながらも言葉を選んで、蓮の”オマケ”発言に質問した。

「違いませんか?」
 蓮の言葉ははっきりと、キョーコへの不躾な質問に怒りを発していた。
「このドラマは、なぎさと、その恋人の神田が振り回されつつも手伝う役柄。なぎさが役として立っていなければ、ドラマは続きません。ああでも、大村さんの神田がオマケという意味ではありませんので」
「それはよかった」
 大村の呟きをマイクが拾うと、小さな笑いが起こった。

 蓮の発言は大きな問題発言かと思えば、長谷部は呟いた大村と顔を見合わせて呆れていた。
 そして長谷部がマイクを取ると、やんわりと笑みを浮かべていった。
「敦賀君。あまり勘違いをしないでね」
 キョーコに対しての質問に、いつもの穏やかな蓮とは違う顔を見せた事に、長谷部は笑みを見せていた。
「なぎさを京子さんにと思ったことが初めなのは確かよ。でもね、それなら神田をお願いしたいと思った時に、貴方しか思い浮かばなかったのも事実よ。敦賀君以外に京子さんのなぎさの隣は貴方しかいなかった。オマケでじゃなくて、本当の事よ」
 
 長谷部の言葉は、京子同様に蓮にも期待していると、二人だからこそのこれからを楽しみにしているとわかった。

「オマケじゃなくて…良かったです」
 蓮がボソリと呟くように言った言葉と、ジョークか本気かわからないといった表情に、出演者サイトからも笑いが出た。
「では、オマケとしてではなく、京子さんとの新しいシリーズを始められたらいいと思います」
「敦賀さんの意気込みは?」
「オマケで無い事がわかりましたので…」
 なおもそこを強調する蓮に、クスクスと笑いが漏れる。
「でも、例え最初はオマケだったとしても、役者として、本物の神田を目指して頑張ります。……なにしろ、相手が京子さんですからね…」
 意味深な発言だが、恋人だからと言う意味ではなく、蓮が向けるキョーコへの視線も、笑みを浮かべながらも含みを持たせたものを感じた。
 記者達も、「何が? どんな意味が?」と色めきたった。

「本物の恋人だから…という、意味だからですか?」
 だがそれ以前に、二人はまともに恋人らしい発言をしていない。
 それ以上に役者の先輩後輩としての仲のいい付き合いが長いことは、芸能関係者では知れ渡っていることだ。

「それは関係ありません。役者としての京子をご存じなら、一度スイッチが入ると別人にもなります。外から見ている時はおもしろい役者としてすみますが、相手役になると『化ける』ので大変なんですよ」
 肩を竦ませ、困ったというジェスチャーをする蓮に、カチンときたキョーコのいつもの顔が出てしまった。
「それは敦賀さんも同じではないですか? 私も今まで、何度も化けるとか色々言われてきましたけど、敦賀さんに操られるように演技させられてしまう時は、本当に悔しいんですよ!」

 蓮の言葉に操られ、キョーコが素の顔で、蓮を恋人や先輩として見るよりも、役者としての本音で本気で文句を言っているのには、周りが呆気にとられた。

「あのね、京子さん…」

 くすっと笑いながらも、このまま言い合いになればどうなるか、見てみたいと思いながらも長谷部が口を挟んだ。
 長谷部には蓮がキョーコを煽る為に、役者として自分をどう思っているのか本音を吐かせようとしただけの事。それによって、キョーコが蓮にも、長谷部が押してくれたなぎさの役も、甘えている訳では無い事が直ぐに素直な口からでると察したのだ。

 キョーコは長谷部の声で、ここが会見の場で、蓮の言葉に乗せられて口走ってしまった言葉に青くなって、我に返った。

「す、すみません!!」

 先輩であり恋人の蓮を、会見という場で大声で言い返したのだ。
 キョーコは米搗きバッタのように、蓮や長谷部、監督など周り中に頭を下げた。
 その様子に、会見中が笑いに包まれた。

「今の言葉が京子さんの本音です。彼女の良いところは、なぎさによく似ていると感じてます。真っ直ぐで、頑張りやで、曲がったところが大嫌いななぎさを、京子さんなら私とはまた少し違うなぎさを、皆さんに見せてくれると思っています」

 長谷部は、蓮がほんの少し企んだ、京子という役者の本当の姿を見せる事で、新しいなぎさ役に長谷部が選んだ理由の一端を見せたのだと、蓮を見て笑みを浮かべた。

 記者会見場は、新たなヒロインの誕生と、婚約会見の場となったはずが、恋人同士のノロケもない。それどころか役者としてのお互いに対して、恋人とはかけ離れていきそうになったやり取り一歩手前に、長谷部が間に入らなければどうなったかと、熱愛の恋人会見はあるのか目を点にした。
 ドラマの会見中の婚約発表は、どちらも役者バカだという会見になって落ち着きそうな気配を見せた。
 だが、時の人と言っていい敦賀蓮の恋人が、ノボセきった顔を見せる事がないとは、記者達からは信じられないことだった。記事にしてみたところで、写真にしてみても”抱かれたい男No.1”の敦賀蓮なら、相手が惚れきった写真の方が納得がいく。今までのドラマでも、相手を本気にさせる男として誰もが知っているからだ。
 それが、京子自身の実力は、若いながらも認められてはきているものの、まだ未知数という存在。
 それでいながら長谷部にも認められ、演技には厳しい敦賀蓮も認める役者、京子。

 今回の主役は、蓮とキョーコではなく、『京子』が二つの花を受け取ったことで、京子へのフラッシュも止められるまで続いた。
 敦賀蓮という若手スターの手を取るという花と、長谷部からのなぎさというバトンの花。

 会見が終わると、蓮とキョーコへのツーショットのインタビューが始まりそうになるが、後日へと蓮が宣言していたことで、メインは写真撮影となった。
 それも京子単独のものも増え、今までに京子を撮った者にならわかる変化も感じた。

 蓮とキョーコの婚約会見よりも、ドラマであり、新しいなぎさの注目される記者会見となった。


 長谷部が年齢を重ねても可愛らしさを感じさせたなぎさは、京子によってどう変わるかは、半年先の第1作目によってわかることになる。


       【FIN】




ど、どうにか終わりました(^▽^;)
飽きずに読んで頂けた方に感謝です!
で、言い訳だらけのあとがき書いてもよいですか?(^▽^;)
(お疲れしてるんで明日か明後日にでも…)