道化師と詐欺師 5

 そして収録途中にドラマ制作の記者会見が開かれた。
 抱かれたい男のトップが結婚詐欺師など、話題は豊富な上に、京子との交際が噂として流れてきたのだ。記事に出来ればトップニュースだ。

”では、素敵な男性、良い人のイメージの敦賀さんですが、そんな敦賀さんが詐欺師という役柄は、ご自分ではいかがですか?”

「素敵な男性ですか。…お褒めの言葉、ありがとうございます」

 少し間をおいて、女性をエスコートするように蓮がお辞儀をすると、会場は笑いで沸いた。

「素敵な男性や良い人というイメージは、今までの役や普段の何処かをクローズアップして、その部分を見てのイメージだと思います。俺も全てが良い人とは限りません。詐欺師の才能は何処かに持っているかも知れませが…」

 意味あり気に蓮が笑みを浮かべてみせると、勿論質問はそこに飛びついた。

”どなたかにご指摘されたことでも?”

「以前、京子さんに」
「えっ!?」
 話を振られたキョーコは驚いて、蓮を身長差のせいで下からジトッと睨んだ。
「かなり前のことですが」
 そう蓮は言ったものの、キョーコは話の流れから自分に質問が来ることに焦った。
 蓮としてはリップサービスと、キョーコにもこういった会見で話しながら注目を集める主役になって欲しかったのだ。

”何があって詐欺師と? 敦賀さんは騙すような方ではないと思いますが?”

「あの…優しい先輩ですが、言葉巧みで、裏を返せば詐欺のようだと言ったことがあるだけです」
 これ以上は突っ込まれたくないと、キョーコは当たり障り無く答えた。
「でも、詐欺師だって言ったよね?」
 記者からの質問から逃げられたと思った時、似非紳士の笑顔で恋人が罠をかけてきた。
「それは…」
「それは?」
 恋人の意地悪な質問に、周りの記者達は噂も手伝って、マイクを集中していた。
「それは、敦賀さんなら、プレーボーイでも、どんな役でも演じられる方ですから。それに女性ファンも多い素敵な男性ですから、詐欺師になったらどんな女性もイチコロだと思いませんか?」

 キョーコは必死でバトンを記者達に回した。
 それも最高の笑顔付きで見つめられれば、男性だけでなく女性記者も僅かに頬を染め、蓮なら詐欺師も全ての役も演じられるだろうと頷いた。
「皆さんまで納得されるなら、役者を辞めて詐欺師になってみましょうか?」
 蓮がジョークで肩を竦めながら言うと、どっと笑いが起こった。
「敦賀さんなら、ずっと詐欺師で生活出来そうですものね…」
 キョーコが本気の籠もった目で蓮を見ながら言うと、記者も流石に真顔で言われた蓮の顔を見ながらとなり、苦笑いの記者と、共演者はキョーコの性格を分かってきたお陰で思い切り吹き出していた。
「京子さんったら、何処まで本気よ!」
「やだ~。笑いすぎて、メイク取れちゃうじゃない、京子さん!」
 その声に、ドラマキャスト達の仲はかなり上手くいっている様子が伝わってきた。

「それは、今回のドラマを見てもらって決めて貰おうかな? 京子さん」
「そ、そうですね。敦賀さんの新しい一面も、楽しみにしてください」

 上手く主役の二人に話を締められてしまい、その二人の交際にメスを入れられなかった記者達は、がっかりと肩を落とした。
 息の合う姿から、以前からの噂通りに「仲の良さ」は分かったものの肝心な付き合っているかは触れるチャンスもなかった。
「結局どうなってる訳?」
「京子のデビューからずっと仲は良いが、男女でいつまでも『良い先輩後輩』が続くとも思えないが…」
「でも京子があんな風に切り替えしてきたのは、初めてじゃない? いつもは敦賀君を先輩として立てていたけど…」
 確かに僅かだが距離間の違いを感じると、記者の目はニヤリと笑った。
「やっぱり付き合っている…か?」
「張り付きましょう!!」
 顔を見合わせてやる気を出すと、何処の記者がスクープをとるか、今までよりも取材の張り付きが多くなった。

               《つづく》

恋人に遊ばれてみたり、忙しそうです…(;^_^A