187続き妄想…?


「大切な存在は作れない」と俯き呟いたあの日の敦賀さん。
キョーコは蓮が何処に、闇の中奥深くにいるのか片鱗を感じた。


……敦賀さん……。
自分は幸せになる気がないの…?


誰かが手をさしのべても届かない。
敦賀さんの心の奥までは届かない……。
とても奥深くの闇の中だから……。


私も知ってる心の奥の奥……。
誰にも触れて欲しくなくて、いくつも鍵をかけて箱にしまって隠してしまった心。


でも敦賀さんには「キョーコちゃん」という存在がいたはず。
熱で寝ぼけた感じの敦賀さんが、愛おしそうに呟いた名前……。


その「キョーコちゃん」を思う気持ちに蓋をして、それとも気が付かないふりで、誰にも胸の内を打ち明けないで、これからも生きていくつもりですか?
「大切な存在」がいるのに、「キョーコちゃん」になら敦賀さんの心の闇が溶かされていくかもしれないのに?


……まだ間に合うかもしれない。
まだ「大切な存在」がいるのなら、気ついてその人に心を開くことができれば、心の奥の闇を埋めることができる。
私みたいにそんな気持ちを捨ててしまっていないのなら、まだ間に合うのかもしれない。
「キョーコちゃん」を思う気持ちが本物なら、敦賀さんを救ってくれる。
セツじゃなく、「キョーコちゃん」が本当のお守りになってくれるかもしれない。


……セツでも、最上キョーコでもなく……「キョーコちゃん」だけができる敦賀さんの心を闇から救える……。


…………どうしてだろう…?
私じゃないことが寂しいなんてどうして?
敦賀さんを救うことが大切なんでしょ?
でも……でも、敦賀さんの力になりたい……私が…。


もうあんな気持ちに捕らわれるなんてバカなこと、それも敦賀さんに対してなんて叶うわけない気持ちを、持っていても仕方がないのに……。
……ただの後輩でいいのに、すぐ傍にいたい。


でもそれは本音?
傍にいて「特別な存在」になりたいとは思わないの?
……こんなことを考えていること事態が、一縷の望みをかけている証拠?


キョーコはもう授業が頭に入ることはなく、蓮を助けたいが為にどうしたらいいか考えるばかり……。



蓮は社と共に数日振りに「敦賀蓮」としての仕事を笑顔でこなしていた。
しかし社は時折、違和感を覚えた。


社としても、蓮のマネージャーとして殆ど1年中と言ってもいいほど行動を共にしていた。しかし蓮の謎は多く、マネージャーとしての仕事のしがいはある男だが、自分に弱みを見せることもしない姿は、本当に信用されているのか寂しくもある。全てを見せろと言うわけではないが、信頼されていると思えるほど頼ってくることはない。


そして今回のB・Jについては、キョーコちゃんが付き添うことでカバーされることが多いとはいえ、その影響なのか作り笑顔が多すぎる。
元々が本音の笑顔を見せることの少ない奴だから、周りの殆どが気付かないだろう。
でも蓮の本当の笑顔を知っている者なら微妙な空気を感じるはずだ。


「何かありましたか? 社さん」
「おおありだよ。いつもより笑顔が作り笑顔だ。だからといって普通に付き合っている人間なら気が付かない程度だが、俺や、多分キョーコちゃんならわかる。今回の役で疲れてでもいるのか? それともキョーコちゃんとの生活が負担になったのか? もしそうなら……」
「多少の疲れはありますがたいしたことではありません。彼女との兄妹生活も問題ないです」


蓮は社の言葉を遮って、今の仕事が大丈夫だと告げた。
実際のところは自分の中のクオンが早々に暴れて、自分でもブレーキがかけられないところを、キョーコであるセツが現実に引き戻してくれている状態だ。
とてもじゃないが大丈夫と言うにはほど遠い状態だ。
それでも今日のように、敦賀蓮に戻れる時間があることは少しばかり闇であるクオンを遠ざけられるようで助かる。


「……キョーコちゃんとの生活が問題ないのも普通じゃないぞ! 好きな女の子と同じ部屋で寝起きしていて何ともない!? それこそ異常だぞ!」
「最上さんは関係ありません。逆に……助けて貰っている状態です」
「……それって何かあったってことじゃないのか? 助けてもらっているって?」


訊くのを戸惑いながら社がいうと、蓮はその視線から逃げるように前を向いたままだ。


「少しだけありましたが、監督との話し合いでこのまま進めそうです」
「監督? 近衛監督か? 仕事の面でのトラブルでもあったのか? キョーコちゃんも心配して……」
社が言い掛けて、蓮に言ってよかったのか言葉にすることを止めた。
「最上さんが社さんに連絡を取ったんですか?」
「……内容はわからないよ。俺もうっかり素手で携帯持って話は聞いてないから」


諦めたように本当のことを社は言った。
キョーコに心配をかけてしまっている状態に、蓮は心の中でため息を吐いた。
蓮であるなら守りたい存在。
カインでは世話を焼かれながらシスコンのバカ兄貴。
B・Jへの変貌は、村雨が絡んだ時にはクオンへと近づいている。
……俺は前に進むためにもこの役を引き受けたのではないのか?
俺はクオンに勝つために、この役を演じきるんじゃなかったのか?
カイン・ヒールを演じる敦賀蓮として…!?


「社さんには申し訳ありませんが、仕事の方はそれなりにうまくいっているとしか答えられません」
「それはお前の中の謎で危うい部分に触れるからか?」
「…………」
「……お前は仕事にはバカ正直に頑張るが、自分の目標のためには無茶をしかねないように見える。近衛監督とも話が出来ているようなら問題はないと思うが、キョーコちゃんに心配をかけるなよ。キョーコちゃんはお前のためなら全力を尽くす子だ。仕事としてだけじゃなく、お前が苦しんでいるなら助けようとする子だからな」
「はい……」


蓮は社の言葉に、キョーコが自分のために心を尽くしてくれるのはわかった。
ただの先輩後輩と言うだけではなく、セツを演じていることで義務感を持っている気がする。
……それ以上の距離になることは、彼女はまだ傷が癒えていない。
出来るなら癒してあげたい……。
でも今は俺の中のクオンで手いっぱいだ。
それも彼女の手を借りて、どうにか戻ってこられる状態。


クオンの闇を、俺一人で克服しなければ、「B・J」をやる意味がない。
俺は闇に喰われるのか?
それともクオンの闇を、自分の中で克服できるのか?


「社さん。……いつかお話できたらさせてください。俺はこの戦いに負けるわけにはいかないんです」


社は蓮の真剣な眼差しの向こうに何があるのか、その戦いに勝って話が聞ける日を待つことにした。


                    【Fin】


続き妄想と言いながら書いているものの、
妄想?…と?マークをつけっぱなしですがいいのかな…(^▽^;)

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