蓮は、横に立つキョーコをチラリと見た。


 最上さんは今はセツカという妹として…サポートをしてくれる。それは社長の作り出した『御守』としての存在、カインの妹だ。
 折角のサポートを俺はぶち壊して迷惑をかけてしまった。
 挽回できるだろうか?
 リックよりも君を選んだのに、俺はクオンに勝てるのか?
 前に進めるのか?
 村雨の存在は…あの頃の正論と抑圧を刺激する!
 クオンよ…出てくるな!
 俺はオマエになど負ける訳にはいかないんだ !!


 キョーコは、申し訳ないと俯いたまま、自分の行動に後悔を抱いていた。


 悩みながらも社長さんに電話してまで聞いた事。セツとしての言葉と行動で示す事が、カインを演じる敦賀さんをサポートする事になるって言われたのに、どうして寝ちゃっていたのよ!!
 ……こんな私では、力になれませんか?
 自分と戦っているという……敦賀さんの力にはなれませんか?


 監督が他の共演者達に声をかけてくると部屋を出ると、蓮とキョーコは同時に口にした。


「迷惑をかけてごめん……」
「申し訳ありませんでした!!」


「どうして謝るの!?」
「どうして謝るんですか!?」


 同時に発せられる言葉に互いの顔を見合わせて、事態の緊張とは別に笑い出してしまった。
 お互いの思いは同じだと……その言葉が示していた。


「私は……社長さんに教えて頂いたんです。セツとしての言葉と行動で敦賀さんを支えられると……。それなのに寝てしまって、出来なくて悔しいんです!!」
「社長に!?」


 蓮は下手な事を吹き込まれていないか心配になったが、キョーコからその感じは見受けられなくてホッとした。
 それにあの人が、俺の為にならない事を口にするとは思えない。


「敦賀さんはどうして謝るんですか? 私なんかに…」
「君に……迷惑をかけただろ…? 一緒に謝るほど……責任を感じさせた。だからゴメンね……」
「いえ、私がセツとして一緒にスタジオ入りしていたら、もう少し違う事になっていたと思うんです! 思い上がりかも知れません! でも、敦賀さんの力になりたいんです!」


 強く主張するキョーコの瞳に、蓮はクオンに心を奪われる不安と、カーアクションで凍り付いてしまった自分を、現実に引き戻したキョーコの手の温もりに重なって、心が澄んでいくような感じがした。


「でも、君のお陰でカインに戻れた。セツの御守はちゃんと効果を出しているよ。最上さん」


 彼女が居てくれたら、……いける!
 クオンに負けない自分で居られる!
 昨夜…抜け殻になった俺が彼女を抱き締めてなら眠れたように、クオンの闇に蓋をする事が出来る。


 蓮が強く思った時、監督が現れて謝罪の場を用意した事を告げた。
 蓮はカインとしてセツと共に謝罪に回り、今日の撮影は明日に繰り越すことになった。
 カイン・ヒールとしての仕事以外はなかった為、二人はホテルへ戻って反省と休みとなった。



「セツ……。そんなに俺が心配か?」
「なによ、兄さん……。勿論、心配だわ」
「出来るなら……ずっと俺の御守で居てくれないか?」
「あたしはいつでも兄さんの傍に居るわよ!」
「……そうじゃなくて、一生だよ? 一生、俺の御守でいてくれる?」
「……どう言う意味……ですか?」
「いつか俺のモノになって。……最上さん」


 キョーコの壊死した思考に辿り着くには時間がかかった。


「……えーーーー!?」


 教習所仕込みの絶叫が響くと、蓮はいつもの事と笑みを浮かべたままだった。


「一生のパートナーとしてね…!」
「…………」
 キョーコは口をパクパクさせて言葉が返せない。
「決めたからね……」
 キョーコは口を開けたまま、セツの仮面を付ける事は出来なかった。


 ……ど、どういう事ですかぁーーー!?



      《Fin》 ?


(^^;;……終っても良いですかぁーー?(苦笑)


次からは『ディスプレーに』戻ります(^-^)/

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