「監督。申し訳ありませんでした!!」


 キョーコとしてなのか、セツカとしてなのか、深く頭を下げて謝罪した。


「最上さん!?」


 監督も蓮も、キョーコに非がない事で謝る姿に驚いた。


「最上さんが謝る事は無い! 俺が勝手に暴走しただけだ!」
「でもそうしたら、私は何の為の御守なんですか? 社長さんにも私が御守として敦賀さんの為に傍に居る事が、セツとしての御守になると言われたんです!!」


 二人の言い合いのような庇い合いに、監督は一人…蚊帳の外になってしまった。
 カイン・ヒールは監督が作り出した架空の人物だったはず。蓮のB・Jを演じる姿勢の中でのめり込み暴走したのに、サポート役である京子が謝る展開とは、監督も二人の間に入る事が出来ずに見つめてしまった。


 この二人は、僕に謝りたいのか?
 じゃれ合っているのか?
 痴話喧嘩か? 


 監督はいつまでも続く二人の言い合いに、怒るよりも呆れてきてしまった。


「だから悪いのは俺一人なんだから!」
「だって私は、『御守』なのに…」


 パン!
 二人の言い合いに、大きな音が部屋に響いた。
 それは監督が両手を合わせた音だった。


「敦賀君。貴方が謝罪したい気持ちは分かりました。京子さんは敦賀君のサポートが上手く出来なくて…仕事が果たせないと謝罪した。…ということですか?」


 監督の言葉に、蓮もキョーコも見合わせていた顔を監督に向けて、「はい…」と頷きながら言った。


 近衛監督は兄妹の役をやると言うだけでなく、仲のいい先輩後輩だけでもなく、二人を繋ぐ不思議な空気を感じた。
 素に戻っているせいか、カインとセツとしての兄妹の時とは違う、別の繋がりを感じる空気。
 もちろん二人はヒール兄妹を演じているのだから別人ではある。だが、只の仲のいいだけの男女のモノとも違う空気がある。 
 それに、敦賀君の彼女に見せる表情は、僕の知っている敦賀蓮とは別人に見えるのは気のせいではないだろう…。
 京子さんの言っている事に意味の分からない部分はあるが、社長さんが付けたサポート役だ。何か訳があるのかも知れない。
 敦賀君も、あの温厚な彼が役とはいえ…暴走した事にも何か訳があるのか?


「今日の撮影は、敦賀君の頭を冷やす為にも中止にします。役に集中し過ぎたとはいえ、暴走し過ぎました。まだこれからも仲間として映画を作っていく為には、謝罪の場は作ります。それでいいですか?」


「はい。ありがとうございます」
 頭を下げる蓮に、キョーコも隣で頭を下げた。
「正直に言えば、先程のB・Jは僕の予想を超えた凄みまでありました」
「……監督?」
「ですが、貴方は役者です。本当の暴力を使ってはいけない」
「はい……。申し訳ありません……」



 わかっている……。
 押さえ込んだ筈の蓋が、またズレて…開いてクオンが顔を出してしまった。
 暴れ出した時のアイツは手に負えない!
 ……俺の意識さえ薄れてしまう……!!
 だが、俺は負ける訳にはいかない!!
 もう…あの闇の中には戻る訳にはいかないんだ!!


「「本当に、申し訳ありません!」」


 再び被った二人の声。


「本当に仲がいいですね、お二人は…。ただの兄妹役だけには感じられない」


 近衛監督の言葉に、二人はそれぞれに複雑な思いを抱いた。


           《つづく》


次、ラストです…(^▽^;)

もう少しお付き合いを……。


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