182続き妄想 2



 セツと同時に最上キョーコにも、「大丈夫。心配するな」…そう言って、俺にもセツを心配させるなと言っていた。
 『御守』のセツには少しだけ甘えてくれたけど、それ以上には今の…『昨夜の彼』の事も他の人に知らせたくないみたいだった。
 敦賀蓮としての弱みを見せたくないのではなく、他の人に心配させたくないのだ。……それも、心配だけじゃない感じがする……。
 
 ……『彼』は何か不安定で、危うくて、守ってあげたくなるような存在。『御守』の私にだけ、震える身体を預けもする。
 カインの顔をしているようで、その目は危うく心細そうな子犬の目。不安も抱えて冷えた手は暖めて欲しかったのだと思う。


 社への連絡が出来なくなってしまったキョーコは、カインの言葉通りに控え室でイスに座り、机に突っ伏して目を閉じた。
 社からは連絡を待つしかない。それとも事務所を通じれば連絡も出来るだろうけど、多少の時間は必要だろう。


 どうしよう……? 
 誰に相談するのがいいの?
 誰に訊けば敦賀さんの悩みを、『彼』の事がわかるのだろう?
 ……敦賀さんに直接訊ける事じゃない。
 訊くことを……やんわりと、でも壁のように拒否された。
 軽く訊けることではない。
 ……そして、とても敦賀さんにとって、心の奥深くの事で、簡単に口に出来ることでもない……。
 多くの人が知らないこと?
 ごく僅かな人しか知らないけれど、敦賀さんにとってはとても重要なこと……。
 だったら誰なら知ってるの?


 そんなことを考えながらテーブルに突っ伏して腕に顔を乗せていると、キョーコの閉じられていた目が気持ちまで眠りの中に引き込んでいった。
 昨夜は一睡も出来なかった。
 ただでさえヒール兄妹の生活では、睡眠時間が少なくて、タフなキョーコも睡眠不足が重なり、睡魔には勝てなかった。
 そして夢の中でも捜し物をしていた。
 大事なもの……。
 とっても大切で、壊れやすそうで、繊細で、見つけるのは難しいけれど、でも見つけなければ『御守』で居る意味がない。
 ……お願い…。敦賀さんの心が欲しいなんて、そんなことは思わないから、敦賀さんを助けたいの……。
 ただ助けられたらそれでいいの……。
 敦賀さんは自分の強さで大丈夫だと言うけど、でも……人が乗り切れる強さにも限界があると思う。
 それが『昨夜の彼』として現れたものだとしたら?
 敦賀さんにも制御できない何かがある。
 だから探さなければ……。……『彼』を…。
 たとえ敦賀さんに嫌われても、敦賀さんの助けになれるなら……。




 蓮はカイン・ヒールとして、B・Jの特殊メイクを受けていた。
 それは最初の打ち合わせから訊いていたことだから、1時間や2時間のメイクは苦にならない。仕事によっては様々なメイクをされる。メイク係の言うことを訊いて、ほとんどじっと座っていればいい。
 偶に「視線だけを上げて」「横を向いてもらえる?」…そんな指示を受けて少しだけ動くだけだ。
 だがいつもと違うのは、メイクスタッフが俺=カインを怖がっていることだ。敦賀蓮ならない反応……。
 仕事のプロとして必死なのは伝わってくるが、指示の声が言葉を選んで丁寧に言ってくる。
 昨日からのカインを見て、その怖さが本物だと思い込んで恐る恐るの態度が見える。
 目を開けていては、つい…目が合う度に反らされてしまう為、出来るだけ目を閉じて特殊メイクをされていた。
 メイクの手が顔から離れたのが目を閉じていてもわかった時、目を開けてメイクスタッフに言ってみた。
「俺もプロだがあなた達もプロだろう? 俺は仕事の為、役柄の為に本物になり切る。特殊メイクはその為の手助けじゃないのか? だったら俺はあなた達の腕を信じてメイクを受けるまでだ。頼むぞ」
 カインの言葉を訊いたメイクスタッフは、互いに顔を見合わせて、驚いた顔をしてから頷き合った。
 その横でカインのメイクの出来上がりを見ていた監督は、途中ながらもいい出来になりそうだと思っていたが、メイクスタッフの緊張が気になっていた。

      《つづく》


キリが悪いトコですが…(^^;;

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