181続き妄想…? 中編


セツの服を買いに行った帰り道、あの喧嘩の時のようなセリフに、キョーコは不安が増していった。


本気で頭の中で交差している……。俺は……俺は、クオンではない! クオンに戻らない!
あんな……暴力を振るうことを何とも思わない、いくらやられたことに対しての仕返しとはいっても、暴力が暴力を生み……その結果、リックと言う掛け替えのない存在を失うことになったんだ!
今は……そう、俺はカイン・ヒール。
そして、カインを演じるのは敦賀蓮という日本人だ!
クオンの闇を遠ざける不安から、最上さんを捜して、シーツを広げて抱き締めて、震える闇から抜け出した。


……抱き締めた?
俺が最上さんを…?
……でも今やわらかく抱き締めているのは……最上さん?
それとも……セツ…?
最上さんを抱き締めるのは、俺の闇が許すとは思えない。彼女を闇に引き込むことは…してはならないこと……。
でもカインなら……セツを抱き締め、心の寒さを暖めて欲しいと強請る事もあるだろう……。
今の俺は敦賀蓮よりも、カインやB・Jに近い……。無意識にその温もりを求めたのかもしれない。
君の温もりがあれば、俺は闇を乗り越えられるのか?
俺は君を選んだけど、君も俺を選んでくれるのか?
こんな闇に近い心を……クオンの闇にすぐに囚われる俺を、君は求めてくれるだろうか?
君はこんな俺を受け入れてくれるだろうか?
こんな俺は、許される存在なのだろうか?


……闇の心を持つクオン・ヒズリ。
B・Jを演るには必要な俺の過去の闇……。
だからといってその闇は深くて、知らぬ間に俺の心の全てを絡め取って闇から抜け出せなくしていく……。
足下から這い上がり過去の冷えきった心で俺を凍らすほどに、そして死の世界へと誘い込もうとする。
いっそのこと…その闇で凍ってしまえばいいと、あの時思った。君の温もりさえなければ、俺は……その闇に沈んだままだったに違いない。
……人の温もりが、君の温もりが凍り付き凍てつくほどの思いから救い出してくれるほどに、俺の心は君を求めて、君の温もりを求めていたのか……。


『大切な人は作らない』


そんな言葉の枷は、君を前にしたら意味をなさない。
俺の中で誰よりも大切な君…。
最上キョーコという大切な唯一の女の子。
君だけがくれる温もりが、俺の闇に光を照らしてくれる。


救われたいわけじゃない。
守りたい大切な人を、見つけてしまったんだ……。
それでもその思いは、どこか救いを求めているのだろう……。
これ以上は求めない……。ただ、闇に染まり切らぬように俺を守ってくれないか…?


『俺を一人にしないでくれ……。闇に呑まれてしまわないように……』


カイン・ヒールという兄のままで、セツという妹のままでいい。俺の御守でいてくれ……。


蓮は震えが再び納まってきたことを感じると、キョーコを抱き締める手でそっとその髪を撫でた。


敦賀さん……どうしたの?
少しは気持ちが落ち着いたの?
敦賀さんの中で、『御守』としてのセツカが必要な時なのに、私にはその力があるの…?


またいくらか少なくなったとはいえ、不安から震え出した蓮をキョーコは抱き締めていた。


「『御守』は、私はいるわ……。兄さんの近くにいる。貴方の近くにいる。ずっと居るから安心して…」
「……ずっと? ずっと居る?」


『兄さん』と呼ばれたことで、蓮は自分が本当は何を求めていたか自覚した。
自分が『カイン』でいいなどと言うのは強がる自分なのだとわかった。
妹のセツカではない……最上キョーコという一人の女の子だと……。
甘えられるなら……その腕の中で包まれるように甘えていたい……。


蓮の言い方が、わずかに幼さを含み甘えるような言い方になって、キョーコは宥めるように言い方を変えた。


「居るわ……。此処にいる。貴方の此処にいる。ずっと居るわ……」


……そう……。ずっと敦賀さんの傍に居る。
何かがあっても、敦賀さんの何かが変わっても、
……それでもずっと居る……。
尊敬する先輩でも、カイン兄さんでも、恋する人でも……。


「俺が兄さんでなくても?」


蓮は一歩だけ勇気を出して訊いてみた。


「兄さん?」
「兄さんじゃなく……カインと呼んでくれ……」
「……カイン…?」
「そうだ……セツ……。俺だけの……セツ…」
「カイン……カイン……」


セツとしてその広い胸に顔を埋めて抱き締めながら、心の中ではもう一つの名を呼んだ。


……敦賀さん。敦賀さん……敦賀さん……大好き…。


             《つづく》


まだ大丈夫な方は、もうちょっと…(;^_^A


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