167続き妄想…? 
 



 主役は勿論、注目を浴びる。「嘉月」と「美月」。

 しかし、ドラマでは見たこともない人物が居ると、観客席からひそひそと声がしていた。

 それは、ナツではないが、未緒とは別人の「京子」の姿。憎悪をまとった暗い姿の笑みとは真逆の、明るく可愛い姿に、観客からは「別人だ」と主役並に注目を集めていた。

『未緒役の京子さんは、別人みたいに雰囲気が変わると聞いていましたが、本当に未緒をやった京子さんですよね?』

 司会者にそう言われて、「そうですか?」とはにかむ笑みは、未緒には見えない。

『そう思われた共演者の方も多いのでは?』

 そんな質問に、ほとんどの者が頷いていた。

『敦賀君なんか、先輩として驚いたでしょう?』

 司会者は、同じプロダクションの先輩として、無難な蓮に声をかけた。

 そう言われて、一瞬の間の後、頷いた。

『最初の時、未緒になりきって、睨まれましたよ。先輩なのに…』

 蓮はジョークっぽく、「怖かったですよ」という感じで返して、周りの共演者の笑いを誘った。

『睨んじゃったの? 敦賀君を?』

 キョーコは問われて言葉に迷った。

『あの…、未緒なら…嘉月を睨むと思って……』

 委縮しながらも、「未緒なら」と答える様子に、共演者は「そうそう…」と、その時のことを思い出して頷いていた。

 姿を消したと思ったら、さっきとは違う『未緒』で現れ、原作とは違うけれど、『ダークムーンの未緒』がそこに生まれたのを監督が認めた。

『なんか、最初から現場は凄かったみたいだね?』

 今度は美月に矛先が向けられた。

『今は美月の味方ですが、初めは私も怖かったです。それだけ未緒になりきっていたんですね。カットがかかると、いい友達ですけど』

 ヒロインである美月が誉めると、キョーコは嬉しそうに微笑んだ。

『それに、京子ちゃんって、手先も起用だし、お料理も上手だし、女の子としても憧れですよ!』

 姉である操の言葉に、美月が「そうそう」と頷き、京子のしていたネックレスを指さした。

『今、京子ちゃんのしているネックレス。あれも彼女のお手製なんです』

 これには共演者でも知らない者も居たのか声を上げた。

『それを自分で作ったの? ちょっと見せてくれない?』

 遠目に見ても複雑な作りは分かると、司会者がキョーコにお願いする。

 新人のキョーコには、それを断る言葉も分からず、外して渡した。

 司会者の男は隣の女性司会者にも見せ、まじまじと作りの細かさを見た後に、真ん中に輝くピンクの石に目を付けた。

 そのまま視線だけをチラリと共演者の席に向けた。

 その中で…その視線に、にこりと笑みを向けたのは、蓮一人。別段意味はないように見えて、一人だけ視線を受け止めた目に、司会の男は小さく口元で笑った。

『ほんと、凝ってるね。素人の作りじゃないよ。店でも出せそうだ』

『それほどでは…』

 キョーコが謙遜して答えると、蓮が声を挟んだ。

『ある役の、アイテムの一つだそうですよ。それ』

 他局の事でもあるため、蓮はさりげなくキョーコに注目させつつ、謎かけの様に言った。

 キョーコが、クインローザの石と言い、蓮がバラに紛れて送った誕生日プレゼントを、ネックレスの一部として目立たなくなるような説明にすり替えてしまった。

『へぇー。このネックレスが似合うなんて、カッコいい役なんだろうね』

 司会者も、その一言で話を流し、「ダークムーン」の話題へと切り替えていった。







「あの時にも、最上さんは注目されていた。『未緒』に見えないけれど、別人のように演じている新人としてね」

「そうでしょうか…」

「まだあの収録はまだ放映されてはいないけれど、『ナツ』の収録は外でもしているよね?」

「時々ですが…」

「最上さんが『ナツ』の空気を出していないときは、普段の最上さんだと分かるようになってくるよ。君という原石は、確実に…磨かれて……」

 待て、俺は……何を言う気だ?

 イヤ、自覚を持たせることは必要だ!

 そして離れていくのか? 俺の手の届かない処へ……?

 それは、イヤだ!! 離れていかないでくれ!!

「あの…? 敦賀さん? もしもし?」

「……ああ、ごめん。収録の時を思い出していた」

 気持ちがぐらつく……。

 先輩としてのアドバイスなら、いつもしていた事じゃないか?

 それさえも出来ないほどに、俺は気持ちを揺らしているのか?

 こんな不安定な俺の元に、最上さんを呼んで大丈夫か?

 俺は心の箍を…失ってはいないか?



          《つづき》


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