今日は、良い天気。いい目覚め。

僕は、7:00a.m.にセットしてあった目覚まし時計のアラームを止め、休日の清々しい朝を迎えた。

"今日は、大学の学祭で展示する写真を撮る日だ…!!白池公園に咲いている菜の花をさっそく撮りに行こ〜っと♪"

僕は、バッと布団から身体を起こし、すぐに朝食の準備に取りかかった。

休日だからと言って、ダラダラと過ごしたくは無い。

これは、僕の中での決まり事だ。

僕が小さい頃からしっかり者のお母さんの背中を見てきて、自分もそうでありたいと思うようになったからだ。

一人暮らしになった今も、たとえおじいちゃんになったとしても。

いつでもシャキッとした自分でありたい。

うきうきしつつも、平常心を装いながら朝食の準備に取りかかった。


食べ終えた後は部屋の掃除。

大学の宿題を終わらせてから、昼食をとった後、やっと家を出る。

全ての事を済ませ、2:00p.m.に家を出た。

僕の大切なお気に入りの一眼レフカメラを持って、白池公園へ行く。

誰かを誘って行く相手はいない。

今年の4月から大学に入学し、1ヶ月が経とうとしているが一向に友達ができる気配がない。

皆、大学生になったからと言って髪を染めてウェイウェイしている。

みっともない。。。

この間なんか、そのウェイ系らが教室の隅に座っている物静かな女子に対して、後ろからクスクスと笑い合っていた。

「おい。ああいう奴には近づかない方がいいぞ。あの細い目を見ろよ、怖えぇ。下手に話しかけて優しくされたー♡とか勘違いして付きまとわれて、こっちが振り払ったら一生恨まれるやつだよこれ。怖い話とかでよくあるやつ~!!」

"そんな事言うなよ。大学生にもなってみっともない…"

僕は心の中で呟いた。

…っといけない。

つい、大学での嫌な出来事を思い出してしまったようだ。

僕は友達0だ。

でも、寂しいどころか1人の方が思いのまま居られるし好きだ…!
(僕もウェイ系に陰でコソコソ言われているのかもしれないけど、そんなのどーだっていいし…!)

家から、電車に乗って2駅目にある白池公園。

こんなによく晴れた休日だっていうのに、人は誰一人いない。

……まぁその分、思う存分写真が撮れるじゃないか!ラッキーと思おう!

僕が写真を撮っていると、白池公園の駐車場の傍らに、40代くらいの中年で、体格は大きく、髪は長くてチリチリのおじさんが石段の上にポツンと座っていた。

全身黒のジャケットとスエットパンツで、
大きな黒色のリュックを背負っている。

5月のポカポカ陽気には似合わない格好である。

猫背で無精髭で、ボーッと一点を見つめている。

僕は、その男性が何を見ているのか気になったので、花の写真を撮っている風を装い、少しずつ近づいてみた。

特に何かある訳でも無さそうだ。

目が若干白かったので、白内障かなと思った。

その男性は、一人でぽつん、と。

だが、1人でもどこか楽しそうだった。

何故か僕と似ている気がした。

歳も体型も服のセンスも違うこの人に。

1人でも、孤独を感じていなさそうに見える所に親近感を覚えたのか。

無意識にじっ…と見てしまっていたようだ。

その男性がこちらに顔を向けた。

無表情だが一瞬目が緩み、微笑まれた気がした。

僕は吸い込まれるかのように男性に近づいた。

僕は、大学にいるあのウェイ系達みたいに、見た目で人を判断しない。

この男性はきっと、少年のように優しく純粋な心を持っているに違いない。

少し格好や雰囲気が人と違うだけだ。

僕の親も、"人を見た目で判断するような子になってはいけないよ"と教えられてきた。

そっと、男性の正面に立ち、しゃがんで目線を合わせた。

男性が背負っている大きなリュックの中から微かにカチャカチャ、と物同士が当たっている音がした。

何が入っているのか気になったが、そんなのはどうでも良かった。

男性の目を見つめながら、僕の手が自然に男性の前に出た。

「僕と友達になりませんか?」

僕も目を細めて微笑んでみた。

すると、男性は白内障であろう白い目でぼーっと僕と目を合わせながら、ジャケットのポケットからゆっくり手を出した。

その手を見た瞬間、僕は自分の顔が歪んだのが分かった。

男の手は、ガラスの破片で切ったような傷が手のひらにぎっしりとあり、血まみれの手だったからだ。

その血まみれの手には、ガラスの破片が所々に刺さっていた。

地面にポタポタと血が落ちている。

その手を見た瞬間、僕は

「わーーーーーー!!!!」

と叫び、ひたすら走った。

「気持ちわりぃ…気持ちわりぃ…!!」と言いながら、一目散に近くのスーパーに駆け込んだ。

スーパーに入ると、ホッと安心した。

普通の人々を見て、安心したようだ。

衝撃と気持ち悪さで1人では耐えきらなかったが、普通の人々を見ると安心した。

安心したので、僕はスっとスーパーを出て家に帰った。

手洗いうがいをしないまま、ベッドにダイブした。

そのまま10秒ほど思考停止した後、今度は仰向けになり、組んだ腕を枕にしてぼーっとした。

「心で思った事を正直に言うって、こんなにも気持ちいい事なんだな。」

と、ぼそっと口にした。

続けて、

「何か俺、急に男らしくなった気がするな。」

と、口にし自然に口元が緩んだ。

何故かとても自分が可笑しい気持ちになり、笑いが止まらなかった。

「今日は、男らしくなった記念日だな。よし、今日は、初めて酒でも飲んでみるか!!」


大切な、お気に入りの一眼レフカメラを玄関に置きっぱなしのまま、ウキウキで近くのコンビニに出かけた。