アダムとイブが…この世から去って…いったい何億年の月日が経ったことだろう…

ここは西暦3963年地球第二惑星テンダーのイーザス研究所。


「ドクター…多分これで問題は無いと思うのですが…何分…時代背景がわかりにくい頃の話なので…つかいものになるかどうか?私も見当が付かないのです。


そういって私に話しかけてきたのは助手のマコビックだった。



「マコビック君…私たちが今作ろうとしているのは…伝説なんだ。

この第二惑星にも人がほとんどいなくなってしまった。悲しいことだが…

以前地球がまだ綺麗な星だった頃、アダムとイブと言う夫婦を祖先に人間は反映していた。

しかし…何故だ!

私たちがこのような研究をし、そして…伝説を復活させなければならないのか…

君…わかるかい?

私たちがここ…テンダーに移住してきてもう何年になる?

何故テンダーを作らなければならなかったのか?

わかるかい?」


私は自分が話していることに多少興奮しながら…助手のクレオの入れてくれた熱いコーヒーをすすった。



私の名前はイーザス。

人間工学研究所の所長なのである。

私は人類が犯してしまった大いなる犯罪をリセットするため、ここテンダーに研究所を作ったのである。


人類が犯してしまった犯罪…

それはあまりにも大きい。

そしてその罰を私たちも受けていることになっているのである。

それは…地球からの脱出。

いわゆる「ノアの箱船」で脱出してきた人類なのである。

そして我々の祖先が犯した罪はこれから明らかにされ…そしてその罪をリセットしなければならない。



マコビックは私の第一助手。

彼の研究担当は伝説の復活。

時代が荒れ果てた時代にさかのぼり、種族を温存すべく「愛」という非論理的で非物質的ではあるが…

人間そのものをコントロールしてしまう…ホルモン分泌機能を人間に注入する研究をしているのである。


いわゆる…

イエス・キリスト伝説である。


ここで注釈しておきたいことだが…

イエス・キリスト伝説は未来からの操作的につくられた物で…今、信じられているイエス・キリストはここでつくられたアンドロイドだと言うことを知ってもらっておきたい。


つまり…今3963年と書き下りがあったが…

私たちが実験によって彼…アンドロイドを送ったのが3963年前と言うことなのである。




「しかし、マコビック君…もう時間がないのだ。

今やらねば…い・今…」


「ドクター…私の研究データによれば…

アダムとイブに始まった私たちの祖先はある一定の時期までは憎しみあうことも争うこともなく暮らしていたようなのです。

しかし…人間が増えてくると自己顕示欲、物欲・性欲…人間同士が憎み合い…そして奪い合う時代がやってきたようなのです。

苦しんだ結果…我々の祖先は救世主を望んだようなのです。」


「しかし…現れなかった…」

私は彼の話に割り込んだ。


「そうなのです。

結局、救世主は現れることなく、時代は流れ暴力と権力が地球の時代を支配していったのです。」


「だから君はその時代に救世主を送ろうとしているんだね。

が…しかしだ…

その時代背景をきっちりと把握しておかないと…

いくら私が人間工学に詳しいとはいえ…考古学者じゃない。

もともと考古学というのは非論理的で考古学者というロマンチストな学者がでっち上げた…」


「ドクター…」

マコビックは皮肉なほほえみを浮かべながら私をのぞき込んだ。


「あっ…すまない…」

私は考古学が嫌いなのである。

今や地球が死の星になってしまった以上なにをどのように証明するのか?

わかったものじゃない…

あんなものはロマンチックな小説に過ぎん。

というのが私の持論なのである。


「ただいま戻りました。」


私たちが振り返るとひげ面のひとりの薄汚れた男がそこに立っていた。


「ヨハンソン!」

いちばんにヨハンソンに気がついたのはクレオだった。


「おぉ!ヨハンソン!最近見かけないと思ったら…どこに行っていたんだい?

まさか地球にでもいっていたんじゃないんだろうね?」


「はははっ…

そう!地球ですよ。」


「な…なんだとっ…?」

私は驚いた。

すでに地球は人間はもちろん草木も生えない死の星になってしまってる。

しかも地表の温度は1000度を超え、放射能に支配されている星になってるはず・・・


「ど・どうしてなんだ…?」


「ドクター…心配には及びませんよ。

彼はこうしてちゃんとここに帰ってきたじゃないですか。」

マコビックはヨハンソンにコーヒーを渡しながら私に答えた。


「ドクターご心配かけて済みません。

私はマコビックと話し合って視察に言っていたんです。

そう…彼が今からこのアンドロイドを送ろうとしている時代を…」


「ドクター!準備はできました。

ヨハンソンが持って帰ってくれたデータを分析し、後はこいつを送り込むだけですよ。

心配には及びません。」


マコビックは少々顔を紅潮させながら彼の研究結果を話し始めた。

確かに時代は荒れていたようだ…


人々は飢え、そして奪い合い…権力者が支配している時代。

もしこの時代がなければ…

私たちは地球から離れることなく暮らせたかもしれない。


きっと…あの事件も起こらなかった…


私はマコビックのデータを何度も何度も分析してみた。

問題はない。

しかし…予測も付かない…

もし…この計画がその時代の誰かにリークしてしまったら…どうなるのか?

パニック!

技術力の無かった時代…

このアンドロイドを神として崇めないだろうか?

アンドロイドは神ではない。


今…ここに…小さなマイクロチップが大切に保管されている。

これが…あの綺麗な地球をまもってくれるのだろうか?

もし…パニックがおこったら…


私は歳のせいもあって少々臆病になっているのだろうか?

いや!違う!

科学者はいつも最悪のことを想定したなかで行動を起こさねばならない…


マコビック…

彼はまだ若い…


私は考えた…いちばんいい方法は…

そして…やめていたタバコに火をつけた。

私の癖なのだ。

吸っている訳ではない…ふかしているのだ。

いつもそうだった…

私が決断をする時はこうしてタバコに火をつけるのだった…


誰も残っていない研究所…

ここにいるのは私と…

命を吹き込まれる前のアンドロイド(まだマイクロチップの状態)…

私はアンドロイドを指先でつまみ…研究室の奥へ入っていった。





「おはようございます。」


「あっ…マコビック…お・おはよう。」


「ドクター…いよいよですね。」


「あぁ…」


「どうされました?顔色が悪いですよ。」


「い・いや…なんでもない。

夕べは興奮して眠れなかったかもしれないな。」


「僕も眠れませんでした。」


彼の顔は子供のように輝いていた。


「おはようございます。」

「おはようございます。ドクター」


続々と助手達が集まってくる。

ヨハンソンもクレオの顔もある。


「ドクター…はじめてもいいですか?」

私はカラカラになったのどを何とか潤そうと…つばを飲み込んだ。


「あぁ…いいとも。」


マコビックはペンの先をマイクロチップに開いた小さな穴の中に入れた…


ピー…


かん高い音が響いた…

そして…マイクロチップの赤い発光ダイオードが

チカッチカッ…

とリズムよく光り始めた。


私は胸をなで下ろした。

成功した…ここまでは…



とうとう…アンドロイドは鼓動をはじめたのである。



「あっけないのね。地球を救う救世主がペンの先で鼓動をはじめるなんて。」

クレオがからかうように声をだした。


緊張していた空気がとけた。


「やったぁ~!やったぞ!」

わぁ~と歓声が上がった。

私も嬉しい。というより安心したと言う方が適切であろう。


昨日の夜…

私はアンドロイドを改良してしまったのだ。

緊急脱出回路の改良。


万一、アンドロイドが向こうの世界で人間では無いことがばれるような事になった場合…

形跡を残さず改修する回路…


マコビックは若い研究者…

私が彼のアンドロイドを改良したことがわかったらプライドに傷をつけてしまう。

私との関係も壊れてしまうであろう…

しかし私もこの実験は成功させたい。

時間が無いのだ…

早くしないとあの地球は核の爆発によって宇宙の塵になってしまうだろう。

そうすれば…惑星であるテンダーは引力を無くし、たちまち太陽に飲み込まれ私たち人類は…

全滅…


まだ…火星への移住研究は進んでおらず…

逃げ道はない…

この実験を成功させねばならない!



「ドクター…行って来ます。

私がこのアンドロイドをあの時代に届けてきます。

なに・・大丈夫です。

私が天使というのになって…女性の身体の中にこいつを埋め込んでくるだけですから…

すぐに戻りますよ。」




そう言うと…マコビックとヨハンソンはタイムマシーンに乗り込んだ。



「ヨハンソン!

時限設定はこれでいいのかい?間違いないね。」


「3963年AGO…間違いない。マコビックおどろくなよぉ

想像も出来ない世界が俺たちをお迎えしてくれるぜ。」


3・2・1…GO!


シグナルが赤から青に変わった瞬間…

コード【J】と名付けられたアンドロイドと共にマコビックとヨハンソンを乗せたタイムマシーンは蜃気楼のように消えてしまった。




無事に帰ってきてくれよ。

マコビック…ヨハンソン…





第3話に続く…

時代は創世記…


神は6日間をかけて空と海と地を創り7日目に休まれた。






そして「エデンの園」にすべての生き物が暮らすことを許し…

アダムもこの園に住んでいた。

毎日が楽しい毎日であったが、アダムは一つだけ神に願うものがあった。

心の中にドロドロした感情がわいてくる。

それは今までに感じたことのない感情…

寂しさ…だった。


神は彼の願いを叶えてやろうと、そのあばら骨からイブを創りだした。

ここにはじめて「男女」という人間の元素ができあがったのである。




「ねぇ・・・アダム・・・この園の真ん中にある木って何の木なの?」

「う~ん・・・僕も知らないんだけど…神様があれに近づいてはいけないというから…僕は近づいたことがないんだよ。

だからイブも近づいちゃいけないよ。」

「わかったわ…」









「イブちゃん…イブちゃん…」

そう声をかけてきたのは、この園でも悪名高き蛇のサタンだった。


「イブちゃんはあの木の実を食べたことがあるのかい?」

「ないわ!あの木には近づくなってアダムに言われているの。神様がそう言われたそうよ。」

「ありゃぁ…イブちゃんは可愛そうだね…アダムに騙されているんだよ。だって…アダムは毎晩イブちゃんが寝静まった後、一人であの木の実を食べているんだ。」

「えっ…!?ほんと?…まさか…アダムが…?」

イブは信じられなかった…

でも…サタンが言うにはこの園で死なないのは、みんな、あの実を食べているからだと言うのである。

たしかに…この園の動物たちは誰一人いなくなったことがないのだ。


アダムに騙されている…

イブは不安に思った…

私だけが…この園から無くなってしまうのではないだろうか?

もしかして…アダムは私がいなくなってしまった方がいいと思っている?

私がいることが邪魔なんだ…


えっ…でもほんとかしら…?





その夜…

イブは夜遅くまで起きていた…というより…寝たふりをして起きていたのである。

深夜…もう月が昇りきって今から下っていこうとしていた頃このこと…

今まで寝ていたアダムがムクッと起きあがった。

そしてエデンの園の真ん中にある木のところに歩いて行くのである。



やっぱり…

私は騙されていた…



アダムは木のところに着くと実をもぎ始めた。

たくさん…たくさん…

「今日はこれくらいでいいだろう。もうすぐ夜が明けるから…イブが起きてしまう…」

そうつぶやいた。

その小さなつぶやきはイブの猜疑心を確定的なものに変えてしまうのに十分であった。


立ち去るアダムを茂みに隠れていたイブは見送るように目で追いかけていた。

「そうは行かないわ…アダム…私は知ってしまったのよ!」

そう心の中でつぶやくと…アダムがもぎ残した実をその手につかみ取った…

「これで私は死なないわ…アダム…おあいにくさまね…」

そう言うと…イブは手にした果実にむさぼりついた。





「あっ!」

イブは悲鳴を上げてその木の下に崩れ落ちるように倒れてしまった。


「ん…」

アダムは振り返った。

悲鳴が聞こえたような気がしたからだ…

「まさかっ…!」

アダムはあの実がなる木のところに走って戻った。


「イ・イブ…どうして…?」

「アダム…あなただけずるいわよ…ふふふっ…わ・わたしも…た・食べたわ…この木の実を…これであなたと同じ。ずっとこの園で暮らしていくことができるのよ。残念でしょ…ねぇ…アダム…」


その時…雷鳴が響き渡り…横殴りの雨がエデンの園を打ちひしいだ。



雷鳴の間から声が聞こえてくる。

神様の声だ…

「アダム…なぜすべての実をもぎ取らなかった!?お前がすべての実をもぎ取ってしまわなかったからイブは猜疑心の中で苦しみ、そして禁断の果実を食べてしまったのだ。

お前達はもうこの園にはおいておくことができなくなった。立ち去れ!この園から立ち去るのじゃ!

そしてアダムは私の掟を守らなかった罰を受けねばならない。

お前は生きていくために働かなければならない…食べ物を作り、狩りをし働いて生きていかなければならない。

イブ…お前も罰を受けねばならない。

子供を産み乳をやり育てていく苦しみを味わうのだ。

そして…アダムとイブよ…お前達の子供すべての子孫に至るまで、その苦しみを背負い続けなければならない。

立ち去れ!

私の園…このエデンの園から立ち去れ!

サタンよ…!」


蛇のサタンはこの様子を茂みの中からそっと盗み見していたのだ。


「サタンよ!お前はイブに嘘をいって私との約束の果実をイブに食べさせたのだ。お前の罪も深い。お前とその子孫すべてのものは手足をもぎ取られ地面を身体をくねらせはいずり回るだけの生き物となってしまうのだ。」

そう言うと神様はサタンから手足をもぎ取り紐のような…生き物としてしまったのだ。



そして…それっきり…嵐はおさまり神様の声も聞こえなくなってしまった。



「アダム…私…私…」

「イブ…僕は君がこの実をほしがってることがわかっていた。だから僕は君に気づかれることの無いように夜中にこの実をもぎ取っていたんだよ・・」

「なぜ…なぜ言ってくれなかったの?私に本当のことを言ってくれなかったの?」

「君は信じてくれたかい?僕のことを猜疑心の固まりとなった君の目が僕の本当の言葉を信じてくれたかい?」

「…アダム…」



二人はエデンの園を追われる形で出て行かなければならなかった。

エデンの園の外は荒れ果てた土地ばかり…

もちろん食べ物などなにもなかった…

アダムは神様の言ったとおり自分たちが食べていくために食べ物を作り…狩りをして飢えをしのがなければならなかった。

そんなアダムをイブは尊敬していた。

私があの実を食べなければ…

イブは働くアダムを支え続けた…

二人は今までに感じたことのないもやもやした気持ちを知ることができなかった…

なぜか…二人はお互いの肌を寄せて眠ることにより、その気持ちがスッとおさまっていくことに不思議さを感じてはいたが…心にもとめてはおかなかった…

その日が訪れるまでは…


そして…

花の咲く春…

熱帯の夏…

実りの秋が終わる頃…


「アダム!アダム!」

畑から戻ったアダムは自分の目を疑った!

「イブ!どうしたんだ!?何があったんだ?」

イブは下半身を血で染めて小さなアダムを抱いているのである。


「なんなんだ!?この生き物は?なんなんだ?イブ?」

「わ・わからない!わからないの…おなかが痛くなって…血が血が…助けてアダム!…そして…そして…」


二人は神様のあの言葉を思い出した…

「子供を産み乳をやり育てていく苦しみを味わうのだ。」

子供…私たちの子供…



神様の計画は実行された。

イブは子供を産む苦しみを経験したのだ…

そしてこれから乳をやり…子供を育てていく苦しみを背負っていくことになるのだ。」





未来永劫…

アダムとイブは幾千・幾万と子供を産み・働き・育てていく苦しみを味わうことになるのだ。



しかし…

神様は節操なくあふれかえったアダムとイブ…そしてその子供達を罰することも考えておられるのであった…

この計画は何億年も先に神の手で実行されることになるのである。