拾っては、匂いを嗅いで。
そうしながら、拾った時点で持ち帰ることは決めていたようなもの。
「なにがいい」
それはすでに僕の中でわかっている。
僕はいつだって人間に宿る感性ってものは、実は人間がどうこうできるようなちゃちなもんじゃないと考えている。
人として生きるということは、一つの社会を生きるということだ。
僕たちはどこまで行っても社会の上からは逃れられないけれども、同時にどこまで行っても個の思考性をもつ人間であるのだ。
「あれはしてはいけない」
「こういったことをすべきだ」
「なんて善い行いだ」
「それは大罪だ、とんでもない」
「それでこそ我が国の国民だ」
「なんたることだ、人種差別だ」
「お前ふつうじゃない」
「なんてつまんないやつ」
「人の気持ちを考えろ」
「這い上がれ、周りなど見るな」
「真面目にやりなさい」
「固いこと言わないでさ」
「うるさい」
「うるさい」
「うるさい。」
ときどき、そう思う。
誰に?僕にだと思う。
社会が社会として機能するために、エゴイズムが渦巻く中で少しでも円滑に物事が進んで行くために、人はいつも少しずつ譲り、受け入れ、気を揉む。
それを摂理と言えば収まりはいい。
だけども。
だけどもさ。
またここに戻ってきてしまった。
大人になりきれなくて、結局潰せずにいる秘密基地。
ここに潜んで雨露のぱちぱちとした音に耳を澄ますだけで、まだもう少し時間が止まってくれるような気がする。
でも、それはいつだってまやかしだ。
時計は決められた空間と空間の間をクリック音と共に裁断していくし、一度切ったスヌーズは再び誠実なまでに鳴り響く。
僕の髭はまた少し伸びるし、アネモネの植わった土は夜の雨を忘れるごとく潤いを失っていく。
失っていく。
渇きはじめる。
アネモネの赤が、くすんでいく。
血液で染まったチリメン紙のようになる。
ぷちんと糸を切ったように落ちる一枚の渇いた赤は、熱割れして剥がれる僕の心かもしれない。
やがて射す朝の光線がいびつに折れ曲がる時、僕は青春が終わることを知るのだ。
秘密基地は壊される。
ソフビ人形も、未開封でおまけカードだけ抜き取られたスナック菓子も、更地の下に埋まる。
僕だけが残る。
枯れてしまって、かろうじて茎にしがみつく一枚のアネモネを見つめる。
息を殺して。
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