先日とあるネットの記事において、児童扶養手当の事実婚認定が厳格に過ぎるという趣旨の内容であり、行政がその裁量にて身分関係を決めるのは、憲法上も含め如何なものかという主張もある事から、改めて社会保障分野におけるそれを考察してみたい。
身分関係は極めて個人的な事であり、私人同士の合意なり意思に基づき決める事柄である以上、行政(国家)が勝手に婚姻関係や養子縁組をすることは許されないのは言うまでもなく、両人の合意によらないとすれば、裁判に依る他ない。しかしながら、社会保障分野においては、支給対象である配偶者と同列に、婚姻関係の無い配偶者、つまりは事実婚なり内縁関係を含めているのがほとんどであり、規定している以上行政として上記の様な状態にあるのか否かを判断する必要というより、義務が存在している。また、例えば遺族厚生年金の支給対象者である配偶者は法定婚のみと限定する事が、果たして法の趣旨から正しいのかと考えると、それは肯定できるものではなく、配偶者という文言を広く捉えていくべきであろう。そうなると、行政としてはある程度判断基準や材料を決め、恣意的又は主観的な運用の度合い低くする必要が求められる。
ところで、この様に法の要請として身分関係を判断する必要が行政にはある訳だが、それはあくでも個々の法律の中でのみ通用し、踏み込んで言えば何からの金銭を支給するために判断したのであり、仮に厚生年金保険法上内縁関係が認められたからと言って、他の法律においても同様の効果が無いのはもちろん、民法上の身分関係まで到底及ぶものではない。更には、この年金分野には、重婚的内縁関係なる言葉が存在する。要するに、法律上の婚姻関係は継続(離婚していない。)しているものの、その相手とは長年同居はもちろん金銭的、精神的、肉体的繋がりは無く、別な相手と婚姻関係の様な状態にある場合、元の法律婚が形骸化していれば現に婚姻関係と同視できる方を配偶者とする概念でる。これはまさに、行政が法律上の配偶者とは離婚状態にあり、現にいる相手の方が婚姻関係を判断できるので重婚を回避するためとも言え、相当私生活に踏み込んだ判断であろう。なお、法律上婚姻が認められていない3親等以内の男女をその時代背景、地域性等に基づき内縁関係とした裁決例もいくつかある。(この判断は同様判例が出た後ではあるが。)これは、最早民法上の身分関係を超えての判断であり、ここまで踏込む事には異論もあろう。しかし、前提として社会保険上の給付の支給要件判断にのみ有効であり、法の趣旨や目的からも要請されていると見るべきである。
そうなると、行政が支給要件等判断においでのみ身分関係を決することは妥当と言えよう。
次に問題となるのは程度の問題、何をもってして事実婚なり内縁関係とするのかである。これに関しては大きく差があるのは事実である。上記で示した、年金の給付は最もその認定が厳格であるものの、例えば健康保険の被扶養者では、協会けんぽ(日本年金機構)の要件判断の材料は戸籍と住民票のみである。要するに互いに重婚でなく同居していれば良いのである。この運用では、いわゆる同棲も結果としては(当人らは内縁関係と認識していると思うが。)認定されることになる。ただし、健康保険組合はこれより厳格な所も多い点と被扶養者となれば原則的には国民年金の第三号被保険者になる点も付言しておきたい。更に例を挙げると、国民年金の免除を審査するに当たり被保険者に配偶者がいればその者の所得も含める訳だが、配偶者が離婚状態で数年に渡り一切連絡を取っていない等にまで配偶者の所得を含めるのかという問題あり、これまでは保険者の判断にて除いていた。所が、厚労省が示した解釈変更により、上記の様な状態であっても行政が身分関係を決めるのは、私人関の自由に委ねられている以上相応しく無いとの理由から覆した事例もある。これは事実婚や内縁関係の逆である事実離婚とでも表現する事柄に関するものではあるが、ある意味行政が身分関係に介入しないと判断した珍しい案件ではある。(個人的には、戸籍上は配偶者がいたとしても音信不通なり長年絶縁状態であるならば、配偶者の所得は含めないのが法の趣旨に適っていると思う。)
このように、個々の法律なり制度によりその考え方は大きく異なり、金銭的給付なのか、現物給付なのか、それとも支払いの義務を減免するのかにより変えているとみるべきであろう。 ここで、この記事のきっかけとなった児童扶養手当の事実婚認定を俯瞰すると、概ね親族以外の異性の同居や定期的な訪問と相手方からの援助という2つの要件を柱に個々の事情に基づき判断している様だが、シェアハウスに異性がいたという理由から事実婚と判断した事例がある事から、厳格な事実婚なり内縁関係ではなく、ともすれば社会に一般にいう恋愛関係を事実婚と捉えているのだろう。ちなみに、児童扶養手当における事実婚認定する意味合いは、不支給にするか否かである。これまでは事実婚や内縁関係と認められることにより恩恵を受ける訳であったが、児童扶養手当においては不支給という不利益処分に繋がる事に特徴がある。
長くなってきたので次回に続きます。