1980年代。犯罪が蔓延し始めた時代――
経済の落ち込みを要因として犯罪が著しく増えていた。
日々何百件と起こる犯罪。対応すべく、警察官の数を増やす。税金が上がる。悪循環。
国の経済は追い込まれていた。そして、増え続ける犯罪に歯止めをかけるために、政府はある決断をしたのだ――ある男の手を借りようと――
男の名前は小林隆一。
年齢は26歳と若干若くも都内の高級ホテル内の三つ星レストランでディレクターを務める一流のソムリエである。犯罪とはまるで縁のない職業である。
しかし、彼は他のソムリエ・・・いや、他の人にはできない特殊能力を持っている。
人の足跡から、人物を特定できるという非凡な能力。
体の一部を使って――
足跡をペロペロ舐める小林。
人が残した足跡を、舌で成分解析するというもの。
彼曰く、人皆それぞれ特異な成分を分泌しており、足跡から識別できるらしい。
過去に一度、この能力で殺人事件を解決している。
増え続ける犯罪、国の経済危機、小林の協力を必要と考えた政府は、彼に手を借りることとした。正確にいえば舌を借りるのだが。
妻と子供がいるし、犯罪にもかかわりたくない為政府からの依頼を拒み続けていた小林がようやく依頼を受け入れてくれたのだ。
日々報道される悪質事件の多さに小林も協力する考えになったのだろう。
犯罪が減ること必至である、政府はそう思った。
しかし――
小林が都内警察庁本部に出向く日の朝
小林が何者かに殺されたのだ―