About John Adams
Amebaでブログを始めよう!
これは、彼と砂漠を旅した時の話である。

毎日、仕事仕事でうんざりする忙しいこの街の夏を抜け出して砂漠へ行った。

彼も僕も恋人を街に残して突然の軽いノリで行ったのだが、まんざらその場の勢いだけで来たという訳ではないと、現地に着いた時すぐに分かった。
なぜならば僕たちは恋人の束縛に二人とも飽き飽きしていたし、彼女達の女心が分からず悩んでいたし、なにより解き放たれたいという思いが溜まりに溜まっていたんだ。
毎日のように見る悪い夢をどうにか良い夢にしようと冷房を効かせた部屋で、おまじないのつもりで掛け毛布をブラシで整えたりしたがいっこうに良くならなかった。
この行動は馬鹿げている。

ストレスの溜まる社会と彼女達の結婚への焦りに僕ら精神的に追いやられていた。
だから今一度少年の心に戻ってみて自分を見つめ直す必要があった。

僕らが歩んできた曲がりくねった人生の道、これから歩んでいくひどく険しい人生の道。そんな想像は全てまとめて蹴飛ばして砂漠を歩いた。

途中すれ違う砂漠の民族は僕らのTシャツ姿を見てニヤニヤ笑ったが、ここまで来ればどう思われていようと気にならなかった。

夜は癒しのオエイシスで紅茶を飲みながら砂漠の民族のベルやシタールを借りてゆったりとした曲をいくつか演奏したり、かち割った氷をたくさん入れたワインで朝まで飲みあかした。

砂漠に行って来て僕らが得たものは特になかった。バージンロードを歩くことを夢見る女達の気持ちも僕らにとってはよく分からないままだった。
ただ、砂漠を後にする時、自分のわがままな生き方から蓄積したわだかまりの一部が欠落していることに気がついた。心にあった捨てられない荷物がなくなり、僕らは久々にすっきりしていた。
たとえ帰りの飛行機が着地に失敗し、僕らがそこで一生を終えても棺桶に入りきらないぐらいの充実感がそこにはあった。

愉快な日々だけが永遠に続いてほしいと強く願った。それができないのであれば、これからの人生でこの旅を振り返る時、何度でも同じ輝きをどうか僕らに与えて欲しいと心から思った。
そのためには忘れてしまうものだけは書いて置かなくちゃいけないと思い、街に帰ってゆっくり旅の思い出を二人でノートにまとめたさ。

僕たちは、遠くまで行ったんだ。
もう帰る理由も忘れるぐらい遠くへね。二人で。

P.S
僕は今年結婚したよ。
君はどうだい?

From  Andy Smith
最後は彼と激しい言い争いになって別れたわ。鮮明に記憶に残っているせいか昨日のように思えるけれど、そこからは何年も街で彼の姿を見かけたことはない。

彼はいつの頃からか意思を言葉にしなくなった。自分の意見を伝えることが面倒になり、衝動的行動が滑稽に思えて仕方がないと言っていたわ。
意見を求められてもはぐらかし、相談を持ち掛けられても相手の言って欲しいことを言ってやっていつもその場を凌いでいた。
たちまち悪い噂がたち、性格の悪い八方美人とレッテルを貼られてしまったの。

彼自身としては誰も傷付けないよう毎日を生きていたつもりだったのに、より自分を大事にして欲しいと願う人達のエゴが彼を追い込んだのよ。
彼は未来を作り出すことができなくなってイエスとノーさえももう運命に委ねてしまった。

吹きすさぶ風が止んだら、時間は彼を素直にできるだろうか。
カメレオンのように無理矢理現在の色に体を染めて本心を隠し、照りつける灼熱の太陽のような社会を背に嘆き、折れてしまった心をどんどん煩わせ、落ちていってしまう彼が想像できる。

もしかしたら持っていた全てを投げ出して夢の中で大きな岩にでももたれ、まぶたを押さえつけて一人で涙を流したいとずっと思っていたのかも知れないわ。

私が女でなければ、親友になれたかも知れない。
別れなど不必要だったかも知れない。
彼にはどうか幸せをと今でも願うばかりよ。

P.S 楽しい日々をありがとう。

From Julia Rose
彼は良い友達だったよ。
今でも瞳を閉じればレモン色のファーのコートを着た彼の姿がそこにある。

あの頃、必ずみんなは彼を中心にして動いていた。いわばあの環境は彼の正義感で作られたものであり、僕らにとってとても居心地の良い空間であった。
彼はまとめ役を嫌がりつつもそれを言葉には出さず何か理由をつけては僕達を集め毎日を楽しく過ごさせてくれた。
きままにビーチの真ん中でパーティを開けば、彼の弾くギターに合わせ海賊のように酔いどれの歌をみんなで歌い上げたり、幽霊が出ると噂だっていた灯台でジョン・レノンや映画の話を朝までしたり、深夜の無人駅で星空の下たむろしたり、朝日を浴びて顔を洗うかのように月の光を浴びながら清流を泳いだり。

僕は一足早く街を出て都会で暮らし始めたのでみんなとは疎遠になったが、彼はあれからも毎日をファンタジックに彩り、終わりのない日々を作り続けたに違いない。

そういえば、彼は当時年上の女性と付き合っていたな。
地元で有名な美人だった彼女はスカウトされたのをきっかけに都会に出てバンドで歌手をやっている人だったよ。彼は遠距離恋愛にひどく苦しんでいて、よく僕に悩みを打ち明けてくれた。
歌手という仕事は真っ直ぐに夢を追いかけながらも我を忘れるほど自分を売って稼ぐ商売であり、上乗せで色気を作るが、時代が変わればそのほとんどは人々に飽きられて無数にちらばる星屑のひとつと化してしまう。だから彼女が心配だ、とね。

話は少し反れてしまったけれども、とにかく彼のおかげで今日の僕がある。映画も詳しくなったし、レモン色のファーのコートもついこの間買った。
彼と見た夢のような思い出はしっかり冷凍保存できている。
刺青のように深く刻まれている。でもあんな日々にはもう二度と戻ることはできないだろう。

今頃どうしているのかな。
大人になった今でもあの幸せを今でも僕は思い出してしまうよ。

From Tom James
彼は子供の頃からつぶらな瞳をしていた。
その広く大きな瞳に良い未来だけをかき集めればいつだって運命は操れると考えて生き急いでしまったんだ。

今では心を惑わすピエロのような人間にいちいち気をとられてしまったり、人がため息をつくような大雨の日に感動し、夜が来ることを忘れるぐらい涙を流している。
太陽の光がうまく差し込んでも木漏れ日がいくつか届く程度だろう。

私は彼の中で轟々と荒れ狂う感情の波間に浮かぶもつれた糸を一瞬でも紐解いてあげることができたならと強く思う。
けれども、彼は一度たりともその傷を見せてはくれず、もう何年も刺々しい殻に身を潜めて、廃墟になってしまった自分の心の海をじっと見据えているのだ。
愛する人と引き裂れ、政略結婚を決められてしまった婚約者のような行き場のない瞳を、さらに細めた眼差しで。

本当は輝かしい記憶を思い出せるはずだ。
今だってその気になれば思い出の時間に帰れる。
彼が笑い、夢を追った街はまだ実際に地図上にあるのだから。君はそこで一度すべてを見つけてきたんだ。

私ならどうなろうと構わない。
壊れ物のような彼の心を急にぶつけられ私の心に絡みつき蝕まれても。
あの時に共に見た素晴らしい夕陽は変わらず今も近所の雨上がりの浜辺で眺めることができるんだよ。
笑顔を求めるのは逆に彼の心が遠ざかってしまうとわかっている。
どんな君でもいい。
今の君を見せて欲しい。

もしかしたらこの先彼は変わらないかも知れない。
このままメランコリックに一生を終えてしまうかも知れない。

彼はひねくれもので
自分の話ばかりするけれどもとてもユーモアがあった。
君のためになる話を僕がしても全く聞き入れず偶然を装って話題をよく変えていたね。
そんな君も大好きだったよ。

ただ、当てどころのない矢の矢筈を弓にかけ、闇をさ迷っちゃダメだ。

その矢で誰も射ぬけやしない。

また会える日まで。

From Dave Robinson