翌日朝、早朝5時にけたたましい着信音で目を覚ましたディンは、寝ぼけ眼のまま電話に出た。
「もしもし…?」
「ディン!君は昨日あそこに行ったのか!?」
「この声は村さん…?うん、地下室の先見つけたから行ったよ。」
電話からは村瀬の慌てた声。
珍しく取り乱したような大声で、ディンに問いかけてくる。
「んで、それがどうしたの?」
「…。よく聞いてくれ、昨日の夜に拘置所にいたはずの容疑者がいなくなってな…。捜索していたらあの地下室で死んでいたんだよ。何かに首を掻き切られたような傷と大量の出血跡を残してな。」
「…。んで、なんで俺?」
「いや、もしかしたら何か知っているかと思ってな。勿論、君がやったとは思っていない。」
村瀬の状況説明に目が冴えるディン。
Bluetoothのイヤホンマイクにスマホを接続し、服を着替えながら聞く。
「恐らく、というより確実にアスモデウスかその手下だろうね。なんかあったんじゃない?」
「だろうな、県警の方で一瞬君の名が出たが、君なら掻き切った傷ではなく殴打か裂傷だろうと説明したら納得してくれたよ。」
「んじゃそっち行きますわ、アスモデウスの痕跡見つけられるかもしれないし。」
「頼んだ。」
そう言うとディンは電話を1度切り、さっさと洋服を着ていく。
「んー、あれ兄ちゃん、おはよう。」
「おはよう明宏、俺今から出かけてくるから。」
「そうなの?」
どうやら会話と物音で起きたらしい明宏が、目をこすりながらディンに話しかける。
ディンは口元に笑みを浮かべながら答えると、どこに行くかは答えようとせずに準備を終える。
「明宏、もしも去年の事話せそうだったら、悠輔に話して貰っていいか?」
「え、うん。わかった。」
「じゃあ行ってくる。」
「いってらっしゃーい。」
ディンは明宏に告げすぐに転移で飛んでいってしまった。
残された明宏は時計を確認するとすぐに横になり、悠輔にくっついてもう一度寝息をたて始めた。
「あれ、そういやディンどこいった?」
「さあ、今日は父ちゃん見てないけどどこいったんだろ?」
朝目が覚めた悠輔と竜太は、朝食の準備をしながら首をかしげる。
時間は朝6時、ディンが出てから1時間ほどが経過していた。
「まあ多分向こういったんだろ。」
「だね、置き書きかなんか置いといてくれればいいのに…。あ、明宏さんおはよ。」
「おはよー。兄ちゃん、5時くらいにどっか出かけたんだけど、2人ともなんか聴いてる?」
「いや、聞いてない。明宏はなんか言われたか?」
準備が終わったころ降りてきた明宏が2人に声をかけ、さきに気づいた竜太が手を振り答えた。
「えーっと、なんか話せそうなことがあったら悠輔に話してくれ、って。」
「それ以外はないか?」
「うん、なんか誰かと電話してから出たっぽいけど、誰かまではわかんなかった。」
「多分村さんだな、仕事なら仕事っていうはずだから。」
明宏にお茶を入れてテーブルにつかせ、自分もその横に座って悠輔は納得する。
竜太は準備が終わったからと、子供達を起こすために2階に上がっていった。
「なんか話せそう…。いや、話せそうだったら後で聞いてもいいか?俺今日学校休むから。」
「うん、ありがと悠輔。」
明宏の肩をポンポンと叩きながら優しく言う悠輔と、嬉しそうに笑いながら答える明宏。
2人をいい感じの空気が包むが、それは子供達がバタバタ起きる音でかき消されてしまったようだ。
「それじゃいってきまーす!」
「いってらー。」
部活でさきに出た竜太と浩輔、悠治に続きしたの3人もバタバタと朝食を食べ登校していく。
家には悠輔と明宏が残り、2人で朝食の片付けをのんびり始めていた。
「なあ、そういえばこっち来て3日経つけどさ、少しはなれたか?」
「うん、ちびくん達も普通に接してくれるし、悠輔達も気遣ってくれるから。」
「あれあれ、気遣ってるつもりはないんだけどな。みんなふつーだぞ?」
「じゃあ、そのいつもどおりに助けられてるってことで。」
悠輔が皿を洗い、明宏が拭いていく。
ゆっくりのんびりと時間が過ぎ、2人は2日間どれだけ忙しかったのかを身にしみて感じる。
「にしてもホント、甲子園優勝高のエースがこんなところに来るとは思わなかったよ。」
「俺だってそうだよ、まさかあの弱小校を一人で鍛えて引っ張った凄腕ピッチャーがあの有名人と一緒なんて、ね。」
「それに関してはまあな。でも俺ディンと一緒にテレビ出たことあるぞ?朝の番組のインタビューで。」
「それはほら、暫くテレビ見る暇とか気力なかったから。」
「そりゃそうか。うちの高校じゃその日の話題かっさらったくらいなんだけどな、一躍有名人になっちまって大変だったよ。」
悠輔はインタビューが放送された日のことを思い出して苦笑いをする。
まず朝練の為に部室に行ったら部長に問い詰められ、教室に行けば朝のHRで担任に聞かれ、休み時間は他学年他クラスの人間がわらわら寄ってきて、部活が終わった後にまで質問攻め。
あれほど疲れた日もなかなかなかったなと、思い出してしまう。
「よかったらその話少し詳しく聞かせてよ、俺ばっかり昔のこと話すのなんか不公平だし。」
「そりゃ明宏のは別だからだろうに。まあいいけどな、じゃあコーヒーでも入れるか。」
「俺ブラック飲めないからね。」
「おう、カフェオレでも入れるべ。」
コーヒーという単語に条件反射的に口を挟む明宏、それを見て首をかしげながらカフェオレを入れる準備をする悠輔。
アイスカフェオレを2つ作ると、ソファにくつろぎ悠輔は話を始めた。
…僕は長年ディンとともに戦ってきましたが…
「またやってんのか。朝からなんべんも報道されんのも恥ずかしいもんだな。」
「まあ仕方ねえだろ、俺はともかく悠輔まで出てきたんだから。」
「そんなもんか、そんじゃ行ってくる。」
「いってらー。」
五月の半ば、悠輔は高校に入学し学生生活を謳歌していた。
体験入部が始まった時に、部員数が足りずで一年が四人以上入らないと試合に出られないと野球部の部長に泣きつかれ、竜太の勧めもあって入った野球部の朝練に出るため、この日も朝6時には家を出る。
高校まで25キロ程の距離があるのだが、悠輔は愛用しているロードバイクを飛ばして1時間かけずに登校、それを運動だと呼吸一つ乱さずに日課にしていた。
「おはようございまーす。」
「坂崎か、おはよう。」
「あ、部長今日も早いですね、おはようございます。」
「まあ、な。なあ坂崎、お前…。」
部室に足を運ぶともう部長が来ていて、ジャージに着替えて何やら難しそうな顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「なあ坂崎、お前今日の朝ニュースに出てたか?」
「ええ、はい。」
「じゃあ、あの討伐者って言う茶髪の男は、お前の知り合いか?」
「ええ当然、ディンは僕の兄弟ですよ。」
「…。」
悠輔があっさり答えると、部長は眉間のしわを更にこくしていく。
また拒絶反応かと悠輔が胸の内で呟くと、部長はため息をついてから口を開いた。
「なら、そいつに伝えておいてくれないか?うちの有望な新人をあんまり危ない目に合わせないでくれって。」
「は、はぁ?」
「いや、そのディンと坂崎のほうが付き合いが長いのはわかっている、だが俺にも部員を危険な目に合わないようにさせなければならない、いわば部長としての責務が…。」
「えーっと部長、無理言わんでくれますか?」
見当違いの申し出に思わず呆れ、口調がおかしくなる悠輔。
部長もその口調の違いには気づき、怪訝な顔をしている。
「俺はずっとディンと一緒にいて、一緒に闘ってきたんです。だから今更やるなと言われてやめられるものではないし、なにより部活程度よりそっちのが俺にとっては大事です。」
「ぶ、部活なんかとは…。」
「言葉が悪かったらすいません、でも俺にとっては大事な事なんです。あいつ一人戦わせるなんて出来ない、俺にも力があるのだから、それこそ戦うのは力を持つ者の責務じゃないっすか?」
「…。」
悠輔の回答に黙りこんでしまう部長。
確かにそうかもしれないが、と煮え切らない様子だ。
「はぁ、だいじょぶですよ。もう魔物はほとんど出てきませんし、英治さん達に迷惑はかけませんから。」
「こ、こら悠輔学校では…!」
「別にいいじゃないっすか。どうせ学校でたら俺みんなの事名前で呼んでるんだし、それみんな知ってるんだから。英治さんが俺の事心配してくれるのは嬉しいけど、そこに関しては触れないで欲しいよ。だから言わなかったんだし。」
「す、すまない…。だけど俺は心配だ、ここのみんなにとって坂崎は大事なやつなんだ、部活云々を抜いてな。だから、あんまり危ないことして欲しくない。」
そう、学校を出れば皆友達感覚だ。
悠輔は敬語すら使わないし、誰の事も苗字で呼ばない。
全員を名前で呼び、敬語を使わずとも敬意を伝える事で信頼を得ている。
「ありがとう英治さん、でもほんとに大丈夫だから。」
「すまない…。」
「謝ることじゃないって。」
何故か凹む英治を見て、悠輔は軽くため息をつくと英治を抱きしめ、頭を撫でる。
高校一年にして180cmある悠輔は英治より少しだけ小さいくらいなので、頭を撫でるのにもなんの苦労もしない。
英治はそうされるのに驚きこそすれ、心地よさに身を委ねているのか抵抗も声を荒げる事もしなかった。
「さて、と。他のやつ来るしさきに練習しましょうか?部長。」
「そうだな、じゃあ柔軟から始めようか。」
二分ほどそのままその体勢でいてから、悠輔は気持ちを切り替え声をかける。
学校や部活の時は「部長」や「先輩」、プライベートでは名前とメリハリをつけているのも、信頼を得る一つの理由になっている。
それはそうとて関係が深まるまでが早すぎるのだが、ディンや悠輔には元来人を信じさせ
心を開かせる何かがあるようで、1ヶ月もあればそこまでになるというのが不思議な話だ。
「あれ、部長少し身体やらかくなってません?」
「まあな。坂崎に教えてもらった通りにストレッチをしたら少しずつ身体が柔軟になっているよ。」
「あ、ちゃんとやってくれてたんっすね。」
「当たり前だろう、坂崎の指示は的確だからな。」
悠輔は入部初日、少し気を入れて実力を見せていた為、技術に関しては1番だと監督を含め全員が知っている。
それに加え人数が少ない部活のため、入部から二週間経った今メニューや身体の調整は全て悠輔が提案と調整をしている。
「じゃあ今日から少しメニュー変えましょっか、授業中にでも考えときますから。」
「授業は真面目に受けないと…。」
「全国模試10位にそれ言います?」
高校に入る前、中学生にして全国模試を受けた悠輔の平均点は91点、高校の偏差値が42であるため、鳴り物入りどころではない扱いを受けている。
博識な理由は簡単、ディンとともに転移で飛び、100年ほど知識をつける為に勉学に浸かっていたからだ。
勿論魂だけを飛ばしているため肉体は老けない、要はチートモードで技術と知識を習得していた。
「そういえばそうだったな。なぜここにきたんだ?」
「親父が昔ここ通ってたって話聞いたんで、親父は2歳んとき死んでますけど、少しでも同じ空気っていうの吸いたくて。」
「なる程…。」
そう言いながらもストレッチを終えた2人は、次にランニングに出ようと部室を出た。
「あ、部長と坂崎。おはよ。」
「副部長、おはようっす。」
「そんな堅苦しい挨拶いらねえって、いっつもみたいに智也って呼んでくれよ。」
「学校では先輩後輩ですから、じゃあランニング行ってきますね。」
「おう、後で追っかける。」
ちょうど入口で副部長の3年、智也とすれ違う。
智也は英治とは違うタイプで、いつでもフランクに接して欲しいと言っている。
が、けじめはけじめと悠輔にいつも言い返され、少し寂しそうにするのが定番である。
「さ、後5週行きましょ。他の先輩達は後2週っすね。」
「はぁ、昨日より、一周増えてないか…?」
「ホントだぜ、坂崎昨日よりきついぞ?」
「そりゃ1日あれば回復しますし、甲子園までは行かずとも勝ちたいなら少しピッチ早めで鍛えないとですから。」
「そんなことより坂崎ぃ、朝のニュースぅ!」
「それは後で答えますから、今はランニングに集中してください。」
いつもより早いペースで部員たちを牽引していく悠輔。
同期の1年は皆ばてそうだった為さきに切り上げさせ、今は部長副部長と2年の先輩達を牽引していた。
傍から見れば悠輔が部長に見えそうなものだが、少し硬い敬語を使うため周囲からは不思議な目で見られていた。
「じゃあ、僕さきに教室行っちゃうんで、さっきの質問の事は放課後にでも。」
「あ、コラァ!…って、もういっちまった…。」
「相変わらず部活んときはかてえなぁあいつ。」
「それがあいつらしさなんだろ?」
ランニングを終えるとさっさと着替えて部室を出てしまう悠輔。
2年生達はあっけにとられ、肩を竦め合いながら仕方ないと諦める。
「はい、HR始めるんですが…。坂崎くん、今日の朝見たわよ?」
「はい?はぁ。」
「私は素晴らしい事だと思います、えこ贔屓のように聞こえてしまったらもうしわけないのだけど、一人の人間として貴方を褒めたいわ。」
「え、何かあったの?」
「坂崎のやつ、今日ニュース出てたんだよ。ほら、例のアストレフって人と一緒に。」
「え?じゃああのすげえやつと知り合いなん?」
担任HRの開始とともに悠輔を名指しにし話題を取り上げ、クラスがざわめく。
ニュースを見ていた何人かが見ていない人間にあらましを告げ、悠輔の正体が一瞬にして広まっていく。
「はい、皆さん静かにね?この事で坂崎くんを変な目で見たりしないように、彼は命を賭けて私達を守ってくれていたのだから。」
「先生、そういうのは恥ずかしいので…。」
「なにも恥じることなどないわよ?誇りに思うべきだと私は思うわ。まあいじめなどに発展しようにも、誰も出来ないでしょうしね。」
「返り討ちにする自信はありますけど…。まあニュース出てたらどっちにしろバレますよね。」
「そういうこと。みんな、くれぐれも坂崎くんに喧嘩を申し込まないようにね、手加減はsてくれるだろうけどかなわないのだから。」
そう締めくくり、担任はHRに入った。
クラスは一旦静かになったが、HRが終わった瞬間にクラスメイト達が悠輔の周りに群がる。
皆興味津々といった感じで、悠輔は答えられる質問には1つずつ丁寧に答えていった。
「おぃ、坂崎ってこのクラスにいるかぁ」
「うわ、3年で有名な不良の先輩じゃん…。」
「どいつが坂崎だぁ?」
「俺っすけど。」
1限が終わった後の休み時間に、突然3年の先輩が教室に現れた。
その先輩はヤンキーとして有名で、実はもう20歳で2回留年しているということだ。
「てめえちょーしこいてっとぶっころすぞ?あん?」
「いや、なんもしてないっすけど。やめた方がいいと思いますよ?」
「てめえ先輩に口答えたあいい度胸してんじゃねえかオラァ!」
「はぁ。」
メンチを切られめんどくさそうにする悠輔を見て、短気な茶髪は怒鳴り声を上げる。
そして悠輔に掴みかかり襟首を掴んで、他の1年なら怖がるだろうなというガンをつけてくる。
「やめてくれません?人間相手に暴力は嫌いなんで。」
「んだとおら、イデ!イデデデデデ!」
「ほら離してください、このまま手首折られたいですか?」
「わかった離す!離すからイデデデ!」
しかし悠輔が自身の襟首を掴んでいる手の手首を掴み、軽く力を加えるとすぐに痛がり出す。
悠輔にとっては力を発現していない、しかもそこまで力を加えているわけではないのだが、結局基本的な能力が桁違いな悠輔に掴まれてはひとたまりもないのだろう。
「頭は低くして行きましょうね先輩?他のやつにてえ出してるって聞いたら今度は折るんで。」
「…!」
掴まれた手首を痛そうにさすっている茶髪に対し、にこやかに答える悠輔。
茶髪はそれに恐れをなしすぐに走り去り、それを見ていた野次馬達は恐怖と歓声でどよめいた。
「はぁ、こうなるからやだったんだよな…。俺からは何もしねえから怖がんないでくれよなぁ?」
悠輔がため息をつくと、クラスで中のいい男子達がすげえと肩を叩いてくる。
まあ平気そうだなと少しホッとした悠輔は、次の授業が移動教室だからさっさと準備と号令をかけ、普段はまとまりのないクラスがその号令に従ってゾロゾロと動いていった。
なんやかんや質問攻めの学校も終わり、悠輔はさっさと部活に向かう。
部長である英治から釘を刺されていたのか、とりあえずなにも聞いてこなかった部員たち。
しかし、部活が終わるとこれぞとばかりに質問攻めに合い、悠輔は少し面倒がりながらも答えていった。
「なあ、今日坂崎んちいっていいか?」
「別にいいけど…、ディン仕事行ってるぜ?」
「え!?あの人仕事してんの!?」
「おう、NPO立ち上げて自殺防止プロジェクトやってる。ほら、去年ホットラインの電話番号書いたやつ渡されただろ?」
部員たちは興味津々といったところで、来てもいいという言葉に全員が反応する。
これは全員来るなと察した悠輔は、先に釘を刺しつつ仕方ないかと諦める。
「あー、あれか!」
「んで、それでも来るか?俺自転車だから結構遠いぞ?」
「遠いっつったってそんなねえだろ?」
「片道25キロ。」
「はぁ!?そんな距離いっつもきてんの!?やっぱ規格外だなお前は…。」
悠輔の移動距離に驚きつつ、それでも来るかと聞くと全員が来るという。
まあ大所帯だから電車でなと悠輔が言うと、皆ホッとしたようにざわざわと着替えを始めた。
「さて、ここがうちだ!」
「でけぇ!」
「豪邸じゃん!」
かれこれ1時間半後、すっかり夜の帳が降りた頃についた一行。
坂崎邸、と比喩される家を見て、部員たちはざわめく。
「ただいまぁ!今日人いっぱいきてるけど平気かー?」
「あ、悠兄おかえりー。皆さんいらっしゃいませ、悠輔の弟の竜太です。」
「どうも、坂崎の通う高校の野球部の部長の絢瀬だ。今日はゾロゾロと大量に来てしまってすまない。」
「いえいえ、なれてますから。皆さんご飯食べていくの?一応準備はしたけど。」
悠輔が玄関で大声を上げると、リビングの方から竜太がひょっこりと顔を出す。
英治が丁寧に挨拶をすると、こちらこそと丁寧に返事を返す竜太。
リビングの方からはカレーのスパイスの香りが漂っており、悠輔のスパルタで絞られた部員たちの腹が鳴る。
「だな、せっかく来てくれたからみんな飯食ってけよ。」
「いいのか?迷惑じゃ…。」
「だいじょぶですよ、元々大所帯ですし、悠兄から連絡貰ってますから。今日は父ちゃんも手伝ってくれたしね。」
「あれ、ディン帰ってきてるのか。」
「帰ってきてるぞー、帰ってきてすぐに20人前のカレー作ったから疲れてるけどな。」
「おおぉ。」
大人数の声に誘われたのかディンが顔を出すと、部員たちがどよめく。
本当にいたのかと感嘆する声、本物だと有名人を見た時のような声、様々な声が玄関にこだまする。
「さ、そこにいるのもなんだ、入っておいでな。」
「うっす!お邪魔します!」
玄関に8つの声が響き、ガヤガヤと部員たちは家の中に入っていく。
「じゃあ部長は今日泊まっていくって事で、みんな気をつけて帰れよ?」
「はいよぉ、みんなは俺が責任もって送るからなぁ。」
「智也だと少し心配だが…。今日は任せよう。」
子供達を交えた夕食を済ませた部員たちは、ディンや子供達と少し話をしてから帰っていく。
英治は元々泊まると悠輔と話していたので、家に電話をして許可を貰っていた。
「さて、話とは何かな部長さん?」
「あの…、その…。ディンさんは坂崎を、悠輔を戦いの場に出さずにと考えなかったんですか?」
「英治さん、そのことは、」
「ごめん悠輔、でも聞かなきゃいけない気がしたんだ。ディンさん、答えてください。」
「…。君は悠輔のことを心配してくれてそう真剣になっているんだろうけど、俺は対した答えを持っていないよ?それでもいいかい?」
時間は午後9時、リビングには3人と竜太、源太と雄也がいた。
いたって真剣といった表情の英治と、やっぱりこうなるかいう顔をする悠輔。
それとは対照的ににこやかなディンと、興味本位な他3人という図はなかなか滑稽なものだ。
「はい、それでも構わないです。なぜ悠輔を危険な目に…。」
「それはな、悠輔がそうしたいっていったからだ。君の前での悠輔がどんなやつかは知らないけど、俺の前にいる悠輔はバカみたいに頑固で優しい。俺一人で戦わせるかって怒鳴られて、さすがに折れたんだよ。そんなこと言ったら、そこにいる竜太だって戦ってたぞ?」
「…。」
「今まで何人もの人に、同じことを問われたよ。その度に悠輔と竜太は怒ってる、俺一人にやらせて同じ戦う力をもつ自分たちが眺めてるなんて死んだほうがマシだ、ってね。」
「その通りです。悠兄は陰陽師、僕は本当に父ちゃんの息子ですから。」
ディンの答えに合わせ、竜太が軽く口を挟む。
これもいつものこと、もう何回も繰り返してきたやりとりだ。
しかし、心なしかディンの言葉に刺を感じないな、と悠輔は心の中で零す。
「君は本当に悠輔を心配してくれているのがわかるからね、でもこの件に関してだけは俺もどうしようもないんだ。俺が止めても勝手に飛んでくる2人だからね。」
「そう、ですか…。」
「でもありがとう、悠輔にこんな友達が出来てて嬉しいよ。」
「うっせえぞこら、俺だって社交性くらい持ち合わせてるわ。」
「おやおや、絶倫だけが取り柄だと思ってたけど、違うのか。」
「ぜ、絶倫…?」
茶化すようにディンが言うと驚く英治。
悠輔はニヒルに笑いながらディンを止め、英治に大丈夫かと目線を送る。
「まあそれはそのうちだな、本人話す気はあるみたいだし。」
「タイミングってのがあるんだよなぁ…。」
「ゆ、悠輔、その…。」
「だいじょぶっすよ英治さん、優しくしますから。」
「そ、そうしてくれ…。」
おやおや別の意味での衝撃だったかと笑うディンと見物組。
悠輔はあっけからんと笑い、英治は変なことをいってしまったと顔を真っ赤にする。
「じゃあ俺は今日は雄也達とでも寝ようかな?」
「お、じゃあ今日は源太と3人だな!」
「やめろよ雄也…、お客さんの前で恥ずかしい…。」
「あの、ここの子達は…。」
「ん?中学生組はみんなゲイかバイだよ。」
「やめなよディン、英治さんそこらへんまだ素人なんだから。」
ディンが若干ヨダレを垂らしてる気がした悠輔は、さっさと英治を部屋に連れて行ってしまう。
実際にはよだれこそ垂らしてなどいないが、反応から英治のセクシャルを判断し、下心をもったのは確かだった。
「ってことがあってだな。」
「長いよ…。結局、その部長とはしたの?」
「今でもしてるぞ?てか、部内でみんなでヤってるくらいだ。それが絆の深め方、というか彼女のいない盛りのついた高校生なんてそんなもんだろ。さ、今度は明宏の番だ。」
「悠輔達ってさ、貞操観念ないよね…。まあいいんだけどさ。」
明宏は呆れるような声を上げ、深呼吸をしてから凄惨な自身の過去を語り始めた…。