あるきだす言葉たち から



わたなべ・みつこ  1974年北海道生まれ  東京都葛飾区在住  「花鳥」同人
第28回日本伝統俳句協会新人賞受賞



麦の秋


衣更へて木立の風に裾流す

木苺をむかしここらで摘みしかと

墓黴びて雄猫ひとつ匿へる

十薬の無垢な底ひの土倉かな

空よりもあぢさゐ青き日なりけり

水槽の水へ触れさう夏の蝶

青枇杷の岸より船を送りけり

末つ子はいつも泣き面麦の秋

夏野ゆきたし空にゆきあたるまで

石鹸の香の腕ひらく端居かな

太りつつ森を越えゆく夏の月

洗い髪軽くなるまで星を見る