第一回五十句競作・佳作第一席 (昭和48年)
異聞とうぼく遊行
椎茸は一夜に二寸羇旅之歌
わが目覚め遠くの朝も目覚めけり
望郷の池を乗り出す鯉の口
もう生えぬあしかびを待つ水子かな
西の内百枚の春をとぶ鴉
背凭れにたましひの皮架けてあり
鳥籠を鳥の星座はめぐるなれ
綾とりの霞の奥を尋ねけり
透き繭に籠りて海を聽く旅人
はればれと臼に挽く木は語りけり
山を病まする竜骨の神ひこばえけり
六月を歩き出す山みまかる山
牛刀を梨の根元に仮に置く
耕して断首の夏をまつこころ
生み捨ての赤き野山に生れ出む
天上のむしろ暗くて孔雀鳴く
貝殻のまりあ蓋身を鳴らしけり
ぜす・きりしとよみがえりしと津軽びと
木へ登りたし貝の蓋撫でさすり
石巻の沖まで見えて裏梯子
三味線の第四弦は杉が弾く
おしなべて山の空なり花水木
羊飼いに柩買はせる北の市
目頭に刈田峠のあきつかな
言霊が春の木秋の木を囃す
ゆめ占のむめ・ゆすらゆめ・むめもどき
幻燈のうしろあかりの七かまど
らふそくも柿も百目で秋の賛
旅人を喰ふ<またまた>は沼の亀
義経記のはしばしを踏み盲ひたり