「あるきだす言葉たち」に 中村 稔の作品が有り 驚いた
 
目鯨立てて文句言う 企画編集でも有るまいが
 
此処に記し置く
 
 
 
 
  晩秋少景
 
 
枝々に可憐な花をつけたハギを見る。
 
淡い紅色のハギの可憐な花々を見る。
 
来年ハギを見ることは覚束ないから
 
私は私に残された可憐な生を思う。
 
 
 
私は憲法九条について考える。
 
私は集団的自衛権について考える。
 
無心にスマホにうちこむ若者について、
 
また、人類の未来について考える。
 
 
 
二十歳まで生きることはあるまいと
 
死を目の前に私が生きていたころ、
 
ハギは可憐な花々を咲かせていたが、
 
私はハギに目もくれなかった。
 
 
 
妻も立ち去り、友人たちも立ち去り
 
思いがけず私は生きながらえた。
 
ひっそり寂しい天地の間に佇み
 
私は可憐なハギの花々に見入る。