あぢきなき昼あぢきなく目刺焼け 春 万太郎
高熱の鶴青空に漂へり 冬 草城
葛飾や桃の籬も水田べり 春 秋桜子
づかづかと来て踊り子に囁ける 秋 素十
さみだれのあまだればかり浮御堂 夏 青畝
夏草に汽罐車の車輪来て止る 夏 誓子
外套の裏は緋なりき明治の雪 冬 青邨
滝の上に水現れて落ちにけり 夏 夜半
緑陰や矢を獲ては鳴る白き的 夏 しづの女
蝶追うて春山深く迷ひけり 夏 久女
衣更へて遠からねども橋一つ 夏 汀女
月光にいのち死にゆくひとと寝る 秋 多佳子
たんぽぽと小声で言ひてみて一人 春 立子
あなたなる夜雨の葛のあなたかな 秋 不器男
金剛の露ひとつぶや石の上 秋 茅舎
花散るや鼓あつかふ膝の上 春 たかし
おん顔の三十路人なる寝釈迦かな 春 草田男
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ 冬 秋邨
力竭して山越えし夢露か霜か 秋 波郷
みな大き袋を負へり雁渡る 秋 三鬼
眦に紅決したる踊りかな 秋 秀野
春落葉いづれは帰る天の奥 春 朱鳥
草二本だけ生えてゐる 時間 雑 赤黄男
身をそらす虹の
絶嶺
処刑台 春 重信
枯草の大孤独居士此処に居る 冬 耕衣