あるきだす言葉たち     朝日新聞夕刊より
 
 
 
 
二村 典子  1962年生まれ  愛知県在住 船団会員  句集「窓間」(北溟社)
 
 
しんとして  
 
 
 
柿若葉留守も居留守もしんとして
 
靴音の中の足音濃紫陽花          濃紫陽花/こあじさい
 
梅雨空のバスを前扉から降りる
 
ところてんところでという始め方
 
夏風邪を引くあくまでも一時的
 
水の量間違えたよう水中花
 
金魚死ぬ 当番の日にかぎって
 
罌栗の花ほんとに消えるボールペン    罌栗/けし
 
白い靴担架で運ばれていった
 
ひと口で食べられるだろうかトマト
 
気をつけて勢いつけてかき氷
 
水によく溶ける声なり青葉木菟        青葉木菟/あおばずく
 
紫陽花の目に正面と平面と
 
紫陽花が胸のかたちにひらくかな
 
今も花火と花火のあいだに