新治筑波を過ぎて幾夜か寝つる 雑 倭建命
佐保川の水を塞き上げて植ゑし田を 夏 佐保禅尼
白露の奥にあまたの声すなり 秋 簾外少将
標の内に杵の音こそ聞こゆなれ 冬 賀茂成助
かからでもありにしものを春霞 春 良岑よしかた女
浅みどり春のしほやの薄煙 春 後鳥羽院
初時雨はるる日かげの暮れ果て 冬 前中納言定家
うば玉の黒髪山の秋の霜 秋 従二位家隆
春や疾き古としかけて立ちにけり 冬 前大納言為家
芹の根のうき身はさぞと知りながら 夏 後深草院少将内侍
露はいさ月こそ草にむすびけれ 秋 善阿法師
花に来て雪に忘るる家路かな 春 十仏法師
あまびこか谷と峯とのほととぎす 夏 救済法師
たぐひなき名をもち月のこよひかな 秋 関白前左大臣良基
さくらさくとほ山守やみやこ人 春 宗砌法師
あしづつのうす雪こほるみぎはかな 冬 権大僧都心敬
雪ながら山もと霞む夕かな 春 宗祇法師
ほろほろと朝露はらふ雉子かな 春 肖柏法師
雨けぶる家居木深き柳かな 春 宗長法師
夜や更くる枕に近し川千鳥 冬 法眼紹巴
まんまるに出でても長き春日かな 春 宗鑑
落花枝にかへると見れば胡蝶かな 春 守武
皆ひとの昼寝のたねや秋の月 秋 貞徳
巡礼の棒ばかり行く夏野かな 夏 重頼
年の内へふみこむ春の日足かな 冬 季吟